95 神社ではなかった建物
静まり返った中で、ビースナスが手を上げた。
「先ほどの村の話ですが、私の持っている地図ではこの場所はザンデ村で間違いないようですね」
それを聞いたブリゼが額を盛大に叩いた。
急な行動にレゴラが驚いて体を震わせる。
「かぁー。完全に空振りだべ。もうゼクトパルはこの村には無いべ」
「ゼクトパル? なの?」
「ああ、これだべよ」
そう言ってブルゼがリュックから綺麗な布を取り出した。
光の加減で乳白色に艷やかに輝いていて、それでいて角度によっては深い緑に見える、柔らかく風合いの布だ。
絹のように見た目だけで肌触りが良い事がわかる。
(綺麗な布だなー)
「高そうな布だよね。肌触りが凄く良さそう」
「実際に高級品だべ。欲しけりゃ売っても良いぞ? 町で買うよりは安すくするべよ?」
「あら? ずいぶんあっさり見せるじゃない。あんなに隠そうとしてたのに」
ノエルの言葉であっさり売っても良いと言ったブリゼをエステルがうさん臭さそうな目で見る。
ブルゼは肩を竦めて説明した。
「そりゃあ、この布の事を知られてたら、相手によってはオラより良い条件で交渉しようとする可能性があったんだべ。それだけの価値がこの布にはあるべ。でもこの村では、もうゼクトパルは作ってないべ」
(そんな高級品を作ってたら、こんなに村は寂れてないってことか)
話が終わりかけたところで村を馬鹿にされたと思ったジュラが噛みつく。
「うるせぇ。そんな布しらねぇ。ヘケ様となんの関係もないだろ!」
「いや、ヘケ様っていうのは間違いなくビンゼグルの事だべよ」
「どうしてわかるのなの?」
「確証があるわけではねぇけど、ヘケってのはビンゼグルの幼体の頃の鳴き声だべな。この村はビンゼグルを養殖してゼクトパルを生産してたのは間違いないべ」
「違う! ヘケ様は村の守り神だ。……じいちゃんからもなんとか言ってくれよ!」
ジュラが小屋の中からこちらの様子を見ていたおじいさんに助けを求めるように言うが、話を聞いていたおじいさんは苦い物を噛むような表情を浮かべて目を逸らした。
「嘘だ! 嘘だ! ヘケ様はいるんだ」
「なっ! やめるんじゃジュラ」
ジュラは神社の扉を強引に開けて中に入る。
そして、そのさらに先にある扉に手を掛けた。
「この中にはヘケ様のご神体があるんだ。見てろ! 俺が証明してやる」
おじいさんの制止を振り切ってジュラが扉を開ける。
すると、そこには複数の小さな箱と天井からぶら下げられた大きな破られた繭のようなものがあった。
「ほら! やっぱりヘケ様はいるんだ。これがご神体だ! だろ? ……じいちゃん?」
ジュラが振り返るとおじいさんが信じられないものを見たように、顔を青くして固まっている。
それはブリゼも同じだ。
震えながら繭に近づいたいおじいさんが、振り絞るように呟いた。
「なんという事じゃ! 成虫じゃ……ビンゼグルが成虫が生まれてしもうた」




