94 熊人のブリゼ
「ちょ、タンマタンマ! オラはブリゼってもんだ。怪しいもんじゃねぇー」
ブリゼと名乗った獣人は、太くて大きい手を懸命に振って、自分が無害な事を主張した。
テントの傍らには、狩られて血抜きをしているバフンがブラ下げられていた。
ブリゼの態度で安心したのか、ジュラが強気に出る。
「じゃあ、何しに来たんだ。こんな何もない辺鄙なところに。まさかバフンを追ってきたとか言わないよな?」
「バフン? ああ、この魔物か。違う違う。オラが追って来たのはある品の出所だべ。露店で見つけた品を探してるだ。何人もの商人に訪ね歩いて、その品を売った人間がこの近くの村の人間だって突き止めただよ」
(その村ってもしかして、ジュラの住んでる村か?)
「へー。その商品て言うのは何なのかしら?」
「うお、妖精? そんなの見せるわけねぇべ。どれだけ苦労したと思ってるんだべさ」
「けちケチくさいわねー」
ブリゼが自分のリュックを抱き寄せたので、そこにあるのがバレバレだ。
あまりにも素直な行動に笑いが出る。
悪い奴では無さそうだ。
「ジュラ。あれがバフンなの?」
「あっ、こいつだ。うちの畑を荒らして、前に追い払った時の傷が同じ場所にある。間違いないぞ」
「残念なの。先を越されたのー」
(お肉ゲットならずかー)
先にバフンを仕留められてしまった事に気が付いて、イリナが肩を落とした。
「あん? こいつを狙っていたのか? がはは、オラが先に仕留めたど」
「くやしいのー」
「なぁに、どちらにしろ食いきれねぇし、分けてやるだよ」
「本当? やったね」
(めちゃくちゃ太っ腹だな)
「マジか! おっちゃん俺にもくれよ。妹にも食わせてやりてぇんだ」
「おう、食え食え。子供はモリモリ食べるべきだ」
村で調理することにしてバフンを運ぶ。
ブリゼは見た目通り怪力で、二メートル近いバフンを軽々と持ち上げていた。
村に戻ると、おじいさんはもう小屋の中に入ったようで、ビースナスとレゴラだけが外で待っていた。
「お兄ちゃん。バフン狩れたの?」
「ああ、もう畑を荒らされることは無いな。肉をくれるって言うし、鍋の用意をしてくれよ」
「おお? かわいい娘だな=。こいつが妹k?」
「お兄ちゃん!」
「あんまり妹に近づくなよ!」
「ありゃ、傷つくんだなー。まあ、こんなデカい図体じゃあしょうがないか。がはは」
レゴラがジュラの背に隠れた。
ブリゼは頭をガリガリ掻いたが、そんな態度にも怒ってはいないようだ。
笑って気にしてないと言ったブリゼにレゴラが謝るっていた。
(キノコに根菜に⋯⋯ちょっと豪華にしすぎたか?)
すぐに飯の支度がされる。
せっかくの鍋だと少し張り切りすぎてしまった。
しかし、ジュラもブリゼもガツガツ食べるので、丁度よかったかもしれない。
鍋が出来たのでジュラがおじいさんを呼んだが、おじいさんは「よそ者なんかと飯が食えるか」と拒否してきた。
レゴラがおじいさんの分を取り分けて小屋の中に持っていった。
「こんな近くに村があったんだなー。もしかして、この村はザイデって名前だったりするか?」
「ん? 知らね。村の名前ならじいちゃんに聞いてくれ」
(村っていえるのかな? 魔力探知では住んでるのはジュラ達だけみたいだけど)
「住人は他にいないのかしら?」
「ここに住んでんのは、俺とレゴラとじいちゃんだけだ」
(それは……さすがに不味いんじゃないか? おじいさんに何かあったら、幼い二人だけになっちゃうぞ)
「他に移り住まないのですか? さすがに老人と幼い子供だけでは、不便ですし危険ではないのですか?」
「俺たちはヘケ様を守るお役目があるんだってじいちゃんが言ってんだ。この村から出るわけにはいかねぇ」
ビースナスの意見はもっともだ。
だが、別の村に移動したからと言って、家も畑も無いのでは暮らしていけないだろう。
(せめて、別の村に知り合いでもいればいいんだけど)
そして、もう一つの問題は、ジュラやおじいさんがこの神社に祀られている神様を守る事に使命を感じていることだ。
「そもそもヘケ様ってなんなのかしら?」
(えっ? 神様じゃないの?)
「ダーリン。この世界の神は女神エーヴェだけよ?」
(んん? ああ、そうか。この世界には女神が唯一神なのか。じゃあ、あの建物は神社じゃないってこと?)
「俺にはよくわかんねぇ。じいちゃんが守れって言ってるから守ってんだ」
ジュラもなんだかわかっていないようだ。
そんな中、ブリゼだけが少し考えるような仕草をしていた。




