93 山間の小さな村
「美味いぞコレ! レゴラ食べてるか!」
「うん、美味しいね。お兄ちゃん」
倒れた理由は本当だったようで、俺の出した生でも食べられる野菜を馬車の中でガツガツ食べている。
拾ったついでに、この兄妹の住んでいる村まで送る事になった。
指示の通りに進んで着いてみると、村と呼ぶにはあまりにも殺風景な場所に着く。
放棄されて時間のたった畑は荒れ果て、転々と建つ民家だった建物の残骸だけが残されている。
降る雪も相まって余計に寂しく感じる風景の中を馬車が進んでいくと神社が見えてくる。
「着いたぞ! ここだ」
案内された先は、神社の手前に建つ掘っ立て小屋だった。
奥の神社は小さいながらにも手入れがされているが、小屋の方は有り合わせの材料で建てられたようで、壁は風雨によって変色していた。
(これは、なかなかだなー)
「ぼっこいのー」
「失礼な奴だな、人の住んでる家に向かって」
そう言って少年が小屋の扉を開けた瞬間、中の人物から少年の頭に杖が振り下ろされるのが見えた。
ゴン!
「いてぇー! なにすんだよ爺ちゃん!」
「ジュラ! このボケナスが、どこほっつき歩いとったんじゃ! ヘケ様の本殿の掃除もせんで!」
「レゴラに行ってくれよー。急に道に出たと思ったら倒れ込んだんだぞ? 来た人からご飯を貰うんだって言って動かないし、被害者は俺の方だ!」
「レゴラ、いつも言っておるじゃろうが、人間は危険なんじゃ、何かあったらどうするんじゃ!」
「でも、おじいちゃんほら! いっぱい食べ物貰ったよ」
食べ物を見た後、おじいさんは俺たちの存在に気が付いたようで、長い眉毛を上げてこちらを見た。
「お主ら何もんじゃ! 孫たちは騙せてもワシは騙されんぞ! 目的はヘケ様じゃろ、出てけ出てけ!」
「何よ! やる気!」
おじいさんが杖を構えて近づいてくる。
念のために俺はイリナの頭の上に乗って対応できるように待機する。
エステルも臨戦態勢だ。
「おじいちゃんダメー」
「ぐごえ! こっ、腰が!」
レゴラと呼ばれた少女が、盛大におじいさんの腰へとタックルをかました。
グギッと音が聞こえそうなほどの勢いで、おじいさんが腰を反った後に膝から崩れ落ちた。
「レゴラ……ジュラ。もうワシは駄目なようじゃ。ワシが死んだら、ヘケ様をお前たちの手で守っていくんじゃぞ……」
「はぁー、とんだ茶番だわ」
「とりあえず、上がってくれよ。干したぺリドなら少し残ってるんだ」
「食べるのー」
ジュラがおじいさんを無視してイリナを小屋の中に誘う。
食べ物に釣られるようにイリナが中に入っていく。
三人で暮らしているのか、家の中には人数分の藁が敷いてあるだけで、他には特に何もなかった。
壁にかけてある干し柿がおそらくぺリドなのだろうが、あと六個くらいしかない。
ジュラに渡されてイリナがさっそく齧りつく。
「ええー、これしかないんでしょ? お腹すいてるって言ってたのに貰えないよ」
「ほ? ……返すの!」
「食いかけなんていらねぇよ!」
(大丈夫だよイリナ。俺が冬を越せそうな根菜でも出すから)
ノエルが遠慮したことでイリナも気がついたようだ。
しかし、すでに齧ってしまっているので、ジュラは返したぺリドの受け取りを拒否した。
「わかったの。美味しいの!」
「だろ? 普段はもっと食えるもんがいっぱいあるんだ。でも、今年はバフンが冬の間に食べる為に、畑に埋めて置いた根菜まで掘り起こして、全部食べちまったんだよ。ちきしょう」
ジュラの話では、バフンと言うのはこの土地に生息している、大型のイノシシの魔物のようだ。
畑を完全にエサ場と学習してしまったようで、すでに何度も被害にあっているという話だった。
「バフン狩りなの! お肉ゲットなの!」
「狩りだね! 任せてよ、今日はバフン鍋だね」
(……名前が嫌だなー)
「よっ、よし。俺もやるぞ」
イリナもノエルもお肉の事を考えて目を輝かせている。
ジュラはバフンの姿を思い出しているのか、顔色が悪い。
小屋から出ると、レゴラとビースナスがおじいさんの面倒を見ていた。
「すまんのぅお嬢さん。ワシが後十年若ければほっとかんのにのぉ。そうじゃ、ジュラの嫁にこんか?」
「遠慮いたします」
ビースナスが心底面倒くさそうにおじいさんに対応していた。
「ビースナス、狩りに行ってくるの!」
「はい。こんな場所に不埒な輩はいないと思いますが、十分にお気をつけて行ってらしてください」
まずは俺の魔力探知で大きな存在を探す。
すると、村から少し上がったところに毛むくじゃらの大きな存在が見える。
(ノエル、あっちの方に大きい反応があるよ)
「まかせて! 行くよー!」
ノエルが加速して俺の指示した方向に走っていく。
「うわー。なんだおめぇは!」
すると、上がってきたのは人の悲鳴だった。
駆けつけてみると、熊のような巨体の獣人がテントを張っていた。
「なんだおめぇらイキなり。こんなところで何やってんだ?」
「それはこっちのセリフだ! こんなところにキャンプ張って、お前こそ何しに来たんだ」
ジュラはキャンプをしていた獣人を知らないようだった。
それを聞いて、ノエルと俺も臨戦態勢を取った。




