92 雪の道
俺たちは東へ進み続け、村を二つ過ぎてコッファー領に入った。
「ここから南下すれば王都に行きますが、このままマルス共和国を目指すでよろしいでしょうか?」
(そうだなー。最初の目的通りで良いんじゃないか?)
「大丈夫なのー」
馬車を走らせていると雪がちらついてくる。
「空から降ってきたの!」
「あれ、消えちゃった? なんで?」
イリナが雪を掴んで俺に見せようとして消えたことにノエルと二人で驚いている。
二人共、雪を見た事が無いようだ。
「吹雪いてくる可能性はまだありませんが、町に寄って積雪の情報が欲しいですね。町に急ぎましょう」
まだ、パラパラだが東に進むほどに寒さは増すと前に言っていた。
ビースナスが町を目指すべ地図を広げる。
それを荷台から御者台に飛び出して一緒に見る。
(こうやって見ると、だいぶ東に来たな。っと言ってもマルスまでは三分の一くらいしか来てないみたいでけど)
俺が見ていることに気が付いたビースナスが地図を広げながら尋ねてくる。
「この先のイターヴァ川は橋が二つあります。どちらから渡るかで向う方向が変わりますね。悩みどころです」
地図を見たところ、真っすぐ行った先の橋が一番町には近いが、手前で山の谷間を抜けなければならない。
もう片方は、大回りになるが平地の中を進む道だ。
降る雪はまだ本当にパラパラとした程度で、向かう先の雲も濃くはない。
(このまま真っすぐで良いんじゃないか?)
「ダーリンは真っすぐと言っているわね」
「そうですね。私もさっさと町まで抜けてしまう方がいいと思っていました。では、真っすぐ行きましょう」
進む方向を決めて、しばらく進んでいると予想は当たったようで、峠に来た頃には雪は止んでいた。
(ん? 人が倒れている?)
俺の魔力探知で進む先の道端に少女が倒れているのが見えた。
馬車からも確認できる位置まで近づくとイリナ達も気が付く。
少女はグレーの髪に緑の肌、頭には小さな角が生えている。
着ている服はボロボロだが、怪我をしている様子ではない。
「人が倒れてるの」
「本当だ」
「…………」
(まあ、そうだよなー)
「えっ、止まらないの?」
ビースナスは相手にするつもりもないようで、少女を避けるように馬車を動かして、止める事なく少女を通り過ぎる。
ノエルは驚いていたが、俺の魔力探知でも気を失っていないのはわかっていた。
すると、少女が起き上がってキョロキョロと周りを見た後に、無視された事に気が付いて手を振る。
「ああ、待って! 助けてー!」
「さよならなのー」
元気に手を振る少女にイリナが手を振り返していると、馬車の少し後ろを並走する者の気配を感じた。
魔力探知で正体を確認すると、さっきの少女と似た姿をしているが、やはし少年くらいの年齢に思える。
「面倒ですが道が塞がれている可能性も考慮して、しばらくこのままのスピードで進みます」
速度をそのままにして進んでいると、観念したのか道に飛び出してきた。
良く見るとさらに後ろから、さっきの少女が走ってきている。
しかし、息も絶え絶えと言った感じだ。
(なんか可哀そうになってきたな)
幼い見た目の子が必死に追いかける様を見ていると、こっちが悪い事をしている気分になる。
見たところ武器を持っているようには見えないので、本当に困っているのかもしれない。
念のために魔力探知で周囲を警戒したが、他に仲間がいる様子でもなかった。
「ビースナス可哀そうなの」
「……仕方がありませんね。私が話を聞いてみましょう」
馬車を止めて、しばらく追いかけてくる少年を待つ。
思った以上に引き離していたようで、目の前まで来ると膝に手を着き息を整えていた。
「だっ……ハァハァ、騙されたな……ハァハァ。さあ、死にたく…………なかったら、ハァ……持ってるもんを……寄こせ!」
ガン!
「いてぇぇぇぇぇー」
ビースナスが容赦なく少年の頭に拳骨を落とすと、少年が頭を押さえながら転げまわる。
追いついてきた少女が青い顔で少年を見ていた。
「これくらいで勘弁してあげます。これに懲りたら盗賊まがいのようなことは止めなさい」
そうしていると、後ろの少女が急に倒れた。
「レゴラ!」
「お兄ちゃん。お腹すい……た」
チラチラ。
「レゴラーーーーー!」
チラチラ。
(なんだかなー。バレバレなんだよな)
少女が倒れたまでは良いが、こちらの反応を伺っているのがまるわかりだ。
面倒くさそうな奴らだな。
またしてもパラパラと降りだした雪を見ながら、そんなことを思った。




