91 語られる真実
「どうしましょう。もし怪我なんてしたら」
「大丈夫なの! すぐ追いつくの」
真っ青なマノンさんをイリナが落ち着かせる。
急いで出発はしたものの、俺もそこまで焦る必要はないと思っていた。
(いくら何でも、出発してすぐは休憩しないよな。すぐ追いつけるだろうし)
ジャケンに真実を吐かせるために時間は使ったとはいえ、ファズが村を出てから三十分くらいしか経っていない。
荷物満載の馬車で疾走する意味も理由も普通に考えられない。
すると、馬車がゆっくりになって止まった。
「すみません。形跡を見失いました。少し戻って確認いたします」
そういってビースナスが馬車を降りて轍を調べ始める。
しばらくして戻ってきたビースナスが馬車を動かす。
「申し訳ありません。おそらく途中でファズ様は道を逸れたようです」
ビースナスの言う通り、道の脇の草に馬車で踏みつけられたような跡が付いていて、ここを進んだとわかる。
そこから先は道を走っていたままの速さでは追いかけられなかった。
不安を感じているであろうマノンが不意に声を漏らす。
「ここって……まさか、そんな……」
「どうしたのマノンさん?」
マノンの表情は真剣そのものだ。
握りしめた手は小刻みに震えている。
ノエルが何かを察したのか、マノンの方に手を添えた。
(おっ、開けたところに出た。あれはファズさんの馬車か?)
そこは不自然に木々が無く開けていて、大きな岩や砂利と共に、家の残骸らしきものが混じった、土砂で覆われていた。
「あっ、マノンさん!」
弾かれたようにマノンが走り出して後を追う。
すると、先には跪いた姿勢のままにこちらを向くファズがいた。
その眼は驚愕に見開かれている。
「お父さん……やっぱりお父さんなんだよね」
「……違います」
「嘘! だってここは私たちの家があった場所でしょ。だから来たんでしょ」
ファズは立ち上がって、気まずげに歩み寄ってきたマノンから目を逸らす。
「どうして! お父さんなんでしょ! ねぇ! ねぇ!」
「落ち着くのなの!」
イリナがマノンを止める。
怒りの表情をイリナに向けるが、イリナの顔を見て我に返ったのか悲し気な表情で「ごめんなさい」とこぼし、その場に座り込んで。
「……私にはどうすれば良いのかわからないのです」
「ならば、第三者である私が判断しましょう。話してもらえますか?」
ファズが漏らした言葉をビースナスが拾った。
そこでファズがマノンを見る。
ビースナスはそれで察したのだろう。
「まずは私とティト様で聞きましょう。そこで判断いたします」
(えっ、俺も?)
「ティトもなの?」
「私一人で判断するよりは良いと思います。ノエル様やイリナ様にお聞かせしても良い話かは、まだ判断できませんので」
「わかったの」
マノンは何かを言おうとしてしたが、このままでは話しが進めないと判断したようで黙って頷いた。
「では、こちらで話しましょう」
ファズと一緒に瓦礫の反対側に行く。
「先ほどのやり取りでご察しいただいたとおり、私はマノンの父親です」
「七年前のがけ崩れの日に嵐の中で、救援を要請するために町に行った英雄と伺いました」
「英雄なんかじゃない! 私は醜い盗人だ!」
「何があったか説明してもらえますか?」
吐き出すように声を上げたファズにビースナスが冷静に対応する。
「あの日、私は村の人から集めたお金を持って町に向かったのです。しかし、途中で倒木によって馬車の車輪がダメになってしまい、歩いて町まで向かったのです。幸い無事に町について冒険者に救援を願い出たのですが、そこで安心から気を失ってしまいました」
過去を振り返るファズの表情は苦しげだ。
「まさか、その時にお金を盗まれたと?」
一瞬、ファズがきょとんとした。
思いがけない事を言われたようだ。
俺もビースナスと同じようなことを考えたが、そうではなかったようだ。
頭を振ったファズが続ける。
「ギルドで倒れたこともあり、私は丁重に扱われました。ですが、ギルドで待っていた私に届いたのは、村の全滅の知らせです」
(え? 全滅? 避難は出来ていたんだよね。情報伝達が悪いから、どこかでねじ曲がったのか?)
「後から、その情報が誤りであったことはわかりました。しかし、当時の私は絶望に耐えられなかった。何日も抜け殻のように過ごしました。そこに手を差し伸べてくれたのが今の妻です」
「再婚されていらしたのですね。なるほどそれで……」
「私は商人になり、村の事を忘れるために必死で働きました。……救援要請のために集められた村のお金を使って商売をしたのです! 再建した村人にこそお金が必要だったのに! 娘が一人どのような想いでいたかも知らずに私は……私は!」
握りしめた拳から血が滲む。
それは懺悔ですらない自責の念だった。
ファズが村に商品を運びながら、いったいどれだけの苦悩を抱えていたのかは想像も出来ない。
そして、この家の前でどれだけ謝罪して来たかも。
「それでも名乗り出るべきだったのでは? 恐らくですが村の人の中には気が付いている者もいると思いますよ?」
「それは……ですが……」
ファズが言いよどむ。
本人も薄々は気が付いていたはずだ。
マノンが家に泊めていた理由も、今のマノンの両親がそれを許していた理由も。
「マノンさんは確信が欲しかっただけです。認めた上で許しをこえば良いのです」
「そうだよ、お父さん」
「マノン……さん」
「もう! マノンでしょ!」
マノンがファズを立たせると抱き着いて泣き出した。
それを見て、俺達は静かに離れる。
(さて、爆弾芋の回収をしますか)
芋は簡単に見つけられた。
なんと爆ぜる粉も元は植物だったのだ。
吸収してもスキルは得られなかったが、もし自然スライムを見つけたら吸収してみるのもいいかもしれない。
(いや……危険すぎるからやめておくか。あったら使っちゃいそうだしな)
ファズとマノンは一旦村に帰って、その後は町に連れて行くらしい。
いまの奥さんを紹介してと迫られたそうだ。
ファズはこの先、マノンには逆らえないだろうなと、タジタジのファズを見て思った。
「では、私たちはここでお別れです」
「あの、これ貰ってください」
渡されたのはファズに渡すはずだったクッキーだ。
「おいしいのー」
「ほんとだねー」
俺もクッキーを一緒に食べる。
それは素朴で暖かい味だった。
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