89 マノンさんの家
マノンの家に着くと老夫婦が出迎えてくれた。
「お帰りマノン。それから……ファズさんと、そちらの可愛いお嬢さん方は?」
「イリナなの! ティトなの!」
「ボクはノエルって言います」
「エステルよー。ダーリンがお世話になるわね」
「ビースナスと申します。この度はマノン様のご厚意で泊めていただけると言う事なのでお邪魔いたしました。もちろん滞在費は出させていただきます」
「これはご丁寧に、私はプフェです。こちらが夫のヴォーンです。お金なんていりませんよ。さあ、中に入って年寄りの暇つぶしに付き合ってくださいな」
突然の押しかけにも、二人とも笑顔で迎え入れてくれた。
村の子供たちもそうだったが、この村は住人も長閑な町の気質を受けて、とても穏やかだ。
(まあ、ジャケンみたいな奴もいるんだけどね)
お金は受け取ってもらえないなら、食糧で返せばいい。
この町に到着したのは昼前だった。
日の傾きから見ても、午後の三時くらいだろうか。
これなら森の食材を取りに行っても問題なさそうだ。
(泊めてもらうお礼に、晩御飯のおかずを取りに行こう)
「お肉は昨日の残りが馬車にあるね」
「では取ってまいりましょう」
ノエルにお願いして、ビースナスと馬車に一緒に戻り、俺の生産で野菜類を出す。
昨日の鹿の魔物はほとんど食べてしまったが、灰を塗って水分を抜いて干している足が一本と、油で固めた切り身の肉が残っている。
老夫婦は肉を食べないだろうが、マノンは喜んでくれそうだ。
あと、確実にイリナは喜ぶ。
「あっ、食材取ってきたんですね。調理しちゃいましょう」
マノンが受け取るとプフェと調理場に行った。
「良い匂いがしてきたの!」
イリナが匂いに興奮していると、料理が運ばれてくる。
「アザミの名物料理のゲループです」
ゲループは黄色い花と野菜の炒めものだ。
独特な花の香りが食欲をそそる。
渡したお肉も入っているので、食べ応えもありそうだ。
「「いただきまーす」」
イリナは遠慮なくバクバク食べてお代わりをする。
「あらあら、そんなに美味しそうに食べてくれると嬉しいねぇー。孫が欲しくなってしまうわー」
「もう。プフェさんたら、私には結婚なんてまだ早いよ」
(へぇー。おばあちゃんとかじゃなく、名前予備なのかー。って、孫? マノンさんが娘?)
てっきりマノンさんが孫なのかと思っていたが娘のようだ。
どう見てもマノンさんは二十才前に見えるが……聞くのはちょっとはばかられるか?
食事が終わった後は、プフェとイリナで一緒に編み物をしていた。
完全にプフェさんのイリナを見る目は孫に対するそれだった。
編み物は、明日ファズの馬車で商品と物々交換したり、買い取ったりするらしい。
毎回の恒例で、明日の販売では今日出さなかったお酒類が出る、そのため村のほとんどの住民が集まるらしい。
「明日出すお酒ですが、少し飲みませんか」
「ご相伴に預かろうかねぇ」
(ファズさんとヴォーンさんは仲がいいんだなー。毎回、この家に泊まっているなら当たり前か)
ふと隣を見るとマノンが、優し気な、それでいて寂しそうな顔で二人を見ていた。
(マノンさんの両親はやっぱりヴォーンさん達じゃないのかな?)
「ダーリン、気になるなら私が聞いてあげるようかしら?」
(さすがに無神経じゃないか?)
「なにか気になる事でもお有りですか?」
エステルと話していると、ビースナスも加わってきた。
違和感の話を聞くとビースナスが考える仕草をしてから、マノンに話しかけた。
「無神経なようですが、マノン様はプフェ様の実子なのですか?」
(めちゃくちゃストレートに聞いてるー)
その言葉を聞いてマノンが視線を泳がせるが、意を決したように話し出す。
「そうですね。私が説明しといた方がいいですね。別に隠しているわけでもないですし」
マノンは気を使ってか、プフェさんから離れて声を落とした。
「このアザミの村はですね……昔は別のところにあったんです。それが七年前の大雨で、近くの崖が崩落して村を飲み込んでしまったんです。あらかじめ避難していた人は無事だったのですが、私の両親は……。この村は、生き残った村人達で協力して再建したんです」
考えていたより重い話が出てきた。
ビースナスも少し反応に困ってしまっている様だが、マノンは続ける。
「大丈夫です。今でも悲しくなる時はありますけど、みんな前を向いて日々過ごしています。落ち込んでいたらお父さんに悪いですから。お父さんは村長だったんです。救援を出すために、村でお金を集めって嵐の中を馬車を走らせて町に向おうとした英雄なんです」
声色とは裏腹にマノンの表情は複雑だった。
ここに居ない。
それが答えなんだろう。
次の日、馬車は村人でごった返していた。
昨日の到着には間に合わなかった人や、今日のために編んだ布を持ち寄る人たちで溢れていた。
「これで酒をくれ。かかあに頼み込んで編んでもらったんだ」
「あたしはお金に換えておくれ、次に来た時には鍋を買うから持ってきておくれよ」
「おい、ファズ。今日は家来いよ。一緒にこの酒飲むぞ」
「俺も行くぞ」
「ちゃんと自分の酒は自分で用意しろよな」
「なんだよ。ファズには飲ませるくせに、ケチがよー」
「なんだと~」
ファズが布と交換でお酒やお金を渡しながら、次の商品の要望も聞いていた。
住人からの信頼も厚いようで、みんな笑顔だ。
今日は一日商品を売っているようなので、俺たちは自然スライム探しと世界樹の情報を聞いて回る。
「……でなの。竜が女神に返したのが世界樹なの!」
「すげえー。女神様も竜もすげぇー」
「愛だわ。世界を女神様が抱きしめてるなんてロマンチックねー」
ファズから聞いた世界樹の話をイリナが村の子供に話して聞かせた。
大盛況だったが、やはり世界樹の情報は出てこなかった。
その日もマノンの家に泊まらせてもらったが、ファズは村人の家にお酒をごちそうになりに行って、遅くまで帰ってこなかったため、マノンさんに怒られていた。
(なんだか、この二人は親子みたいだな)
玄関先で寄って帰ってきたファズさんに小言を言うマノンが不思議と様になっていた。




