88 アザミの村
「あっ! ファズさんの馬車が来たぞ!」
「本当だ。みんなー、商人が来たぞー」
アザミの村が見えると、それに気がついた村人が声を上げた。
アザミは山間の長閑な村だ。
川に沿うように家が並び、村の奥側が畑になっている。
村には店がないのか、声を聞きつけた村人達に、すぐに馬車が囲まれる。
「こっちの馬車は商人じゃないの? なんでメイドさんが馬車を操ってるのー」
「イリナは冒険者なの!」
「ええ! 凄い!」
馬車を覗き込んだ少女の疑問にイリナが胸を張って答える。
凄いと言われて更に胸を沿っているが、きっと冒険者の意味はわかってないと思う。
「何時もありがとうございます。ファズさん。今回は何日くらい滞在されるんですか?」
「ああ、マノンさん。とりあえず三日間くらい滞在したいと思います」
商人のファズに女性が近づいてきて挨拶をする。
(わー。凄い綺麗な人だな)
ファズにマノンと呼ばれた女性は、村娘の格好に違和感を感じるほどの美貌の持ち主だった。
三つ編みに結ばれた金色の髪が眩しく感じる。
「ダーリン? もっと美人な妖精がそばにいるでしょ?」
(ああ、エステルも凄く綺麗だよ)
「んっもう。ダーリンたらー」
イリナもノエルもビースナスも、うちのメンバーはみんな美人から、悪い虫が付かないように気を引き締めようといけないな。
「おい。マノンに色目を使うなよ商人!」
会話を遮るように男が二人の間に割り込んできた。
髪が逆立っていて目つきも悪い。
明らかに顔にはファズに対する敵意が浮かんでいる。
「もう。やめてよジャケン! 毎回ファズさんに絡んできて。酷い事を言うならあっちに行って!」
「商人なんて村から金を巻き上げようとしてるだけだ。信用したらマノンなんて街に売られちまうぞ」
「ファズさんはそんなことしないわ。ジャケン
いい加減にしてってば」
「いいから来いって言ってるだろ」
ジャケンがマノンの腕を掴んで強引に引っぱった。
「やめるなの!」
「いてぇ! 何すんだこいつ!」
(おっと! それは駄目だろ)
ジャケンの手をイリナが叩くと、ジャケンがイリナに拳を振り上げた。
それを触手で止める。
ビースナスも反応していたが、ナイフを構えるのは、物騒過ぎるからやめてもらいたい。
「魔物がなんで村の中に! こいつ離せ!」
(おお、抵抗するのか。ならば仕方ない。くらえ! 秘技、高い高ーい)
「うわーーーーーーーっ」
なおも暴れようとしたジャケンを空に向かって放り投げる。
「わー、ティトは本当に力があるよね。ボクでもそこまで飛ばせないよ」
「ふざけんな! うわーーーーー」
空中で暴れまわるジャケンを興味深そうにノエルが眺める。
その後も、喚き散らすジャケンを数回投げるを繰り返せば大人しくなる。
「やめてくれぇ〜。俺が悪かった〜」
「うわー。次はイリナなの!」
ジャケンは下されるとすぐ、フラフラした足取りで逃げていった。
イリナに対しては放り投げるのではなく、掴んだままで高い高いをする。
「高いなのー。気持ちいいのー」
「私も私もー」
「いいなー。僕もー」
気がつけば、村の子供達が列を作って自分の順番を待っていた。
「ありがとうございます。ジャケンは村長の息子だからって、何時も横暴な態度を取るんで、困っているんです」
マノンがイリナと俺の両方にお礼を言ってきた。
魔物の俺にもお礼を言う辺り、マノンは相当にいい人のようだ。
「購入は村人を優先していただきたいですが、ビースナス様方も商品をご覧になりますか?」
(せっかく出し見るか?)
「そうだね。イリナちゃん見よう」
「わかったのー」
ファズの商品を見せてもらう。
服飾関係だけではなく、農具やロウソク、油と言った物まであった。
「良い品ですね。しかもかなり安い」
(安いのか? 他の町と変わらないと思うんだが)
「そんなに安いかな?」
「安い⋯⋯と言うより、高くないという方が正しいですね。本来、この様な場所まで売りに来ているのですから、輸送の手間の分が上乗せされるものです」
「そう言えば、高いなんて感じたこと一度も無かったわ。ファズさん、無理しているんですか?」
ビースナスが首を傾げるが、言われてみたら確かにそうだ。
これでは、手間の割に儲けがほとんど無い。
指摘されて初めて気がついたのか、マノンもファズを労るように見る。
「この村で儲けようとは思っていませんので。商品も他の村での売れ残りです。馬車を少しでも軽くしたいので、この金額で十分なんです」
「そうだったんですね。よかったー」
マノンがほっと胸を撫で下ろす。
「そう言えば、泊まれる場所はあるのですか? 先ほど滞在するとおっしゃられていましたが」
「ああ、ファズさんはいつも私の家に泊まってもらっているんです。ビースナスさん達も良かったらどうですか?」
「よろしいのですか? 素性も知れない相手を。しかも、人数も多いですが」
「流石に成人男性は抵抗ありますが、皆さん女性ですし、それに私、昔から人を見る目があるんです」
今日の販売を終了すると、マノンの家に案内される。
マノンが大丈夫というだけあって、家は大きかった。
(新築ってわけではないけど、家がなんだか新しいな)
来る途中でも思ったが、この村の建物はどれも新しい気がする。
何か理由があるのだろうか?




