87 世界樹と神話
焚火を囲みながらお肉を食べ始める。
野菜のスープをよそい終わると、商人に世界樹について知っていることを聞いてみた。
「世界樹ですか? それなら女神の神話が世界樹の話で一番わかり安いでしょうか」
「神話なの?」
「そうですね。世界で最も有名な世界樹が出てきます」
商人が居住まいを正すと神話を語りだす。
初めに『何もない』があった。
その中を孤独な竜があてもなく飛ぶ。
悠久の時の中で竜は次第に孤独に疲れ果て、飛ぶことを止めると殻に閉じこもった。
「死んじゃったのなの?」
「いえ、眠りについたと語られています。孤独の中で藻掻くことに疲れてしまったのでしょう」
殻は全てを拒むようにどんどんと厚みを増す。
そんな殻に触れる者がいた。
女神エーヴェ。
竜の半身である女神は初めから竜に寄り添っていたのだ。
すべてを拒む竜に、それでも女神は寄り添い続けた。
「なんだか悲しいね」
「女神は眠りについた竜をただいたわり抱きしめます」
女神の悲しみの涙は殻に落ちると海が広がり、殻は大地になる。
呼吸が風を呼び、女神の髪が木々へと変わる。
殻を包んだ指先は、自由に意思を持った命を生み出す。
「女神の指の数が最初の生命の種類と言われています」
(初めの命は十種類ってことか。枝分かれして増えていったのかな?)
命の息吹に女神が目を開ければ世界に光が生まれ、目を瞑る事で静寂が訪れた。
竜の声を聴こうと寄せた耳から言葉が呼び起こされ、文化を生まれる。
女神は弱い命をいたわって衣の糸を渡し、それが加護となる。
「ちょっと待って? ここまでの話だと女神の髪が世界樹に変わったってことになるのかしら?」
「いえ、それが違うのです。厳密には神話の中では世界樹は植物ではないんです。竜が女神と生まれた命に心からした返礼。それが世界樹なんですよ」
(返礼?)
竜は殻の外の命を見たくなった。
竜の内側から殻の外に向けて力が流れる。
感謝と祝福の返礼。
力は結晶となり、殻から出たそれは世界に魔力をもたらした。
結晶は世界樹となり、今も世界を魔力で満たしている。
(力の結晶……っていうか、話が真実だとしたら、世界樹の元は殻の中? つまりは大地の中にあるのか? 誰も見た事ないってそういう事?)
「でも、話では殻から出てる先っちょはありそうだよね?」
「探せば見つかるの!」
「あくまでも神話ですが、世界樹はどこかにある可能性はありますね」
興味深い話だった。
ノエルがなにか気になった事があるようで手を上げる。
「はいはい。じゃあ、ドラゴンは竜の子孫ってことだよね? ドラゴンに案内を頼めばいいのかな?」
「ああ、竜とドラゴンは別ですよ。ドラゴンは女神の作った命。竜は眷属だと言われています。竜の中には、ドラゴンと混同されることを嫌がる個体もいると言いますから、竜に会うことがあったら気を付けた方がいいですよ」
娯楽の少ない世界なので面白かったのか、イリナが目をキラキラさせながら聞いていたが、お肉に手を伸ばして無くなったことに気が付く。
「お肉がなくなったの! がーんなの!」
「ガーンも何も小娘が食べたんでしょ!」
ちょうど話の終わったタイミングだったのでそのまま解散になる。
「ティト。素敵だったの」
イリナが話の中の女神に何か思うことがあったのか、話の真似をするように俺を抱きしめて頬を寄せる。
そして、目を瞑るとひんやりが心地よかったのか、そのまま寝てしまった。
起こさないようにベット変化してイリナを包み返す。
(しかし、魔力が竜の力なら魔法生物の俺も竜の眷属なのかな? さすがに考え過ぎか)
わからないことを知るのは楽しい。
これから行く村でも新しい事に出会えるだろうか。
少しワクワクしながら俺もそのまま眠りについた。




