85 次の目的地は
「ダーリンの寿命? 根付きまでならもう百年くらいあるんじゃないかしら?」
(百年! そんなにあるの!)
自然スライムの根付きを見送った後に、ふと疑問に感じてエステルに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
俺たちは今男爵の屋敷に来ていた。
酵母の捜索が終わったこともそうなのだが、許可を取っておかないといけないことがあるからだ。
それはワインの権利についてだ。
酵母とヤーマ両方を吸収することが出来た俺は、男爵がブランドとして持っているワインを生産できるようになった。
そのワインで荒稼ぎなどするつもりはないが、スジは通しておこうと思い、ビースナスに交渉を頼んだのだ。
「つまり、ワインとして販売することがあれば、メルビのワインである事を周知させた上で、売り上げの三割を治めろと言うことですね? 少し高い気もしますが」
「少量の販売で有れば一割で構いません。しかし、流通量のバランスを考えて大量生産はしないでいただきたい。その為の縛りとお考え下さい」
「わかりました。元より、こちらも権利を侵害したいわけではありません。生産する量には注意を払いたいと思います。それから、ティト様の事は他言無用です。こちらの誠意を仇で返すような選択は取られませんように」
最後にビースナスが釘を刺して話し合いは終わった。
報酬はそれなりな額が用意されていて、これも口止め料込のようだ。
しかし、口止めしたいのはこちらも同じなので、報酬を半分に減らした。
ほっとした男爵の表情から、結構無理して集めたのかもしれない。
これで、メルビでの用事は終わりだろう。
男爵は最後まで俺をチラチラ見ていたが、さすがに何かをすることは無いだろう。
メルビの町を出る前に、もう一度町を回る事にした。
ほとんどが果実の食べ歩きだったが、醸造所の中の修道院としても小物を作っていたようで店に売りに出ていた。
ドライフラワーを使った綺麗なブローチで、イリナとノエルはおそろいの物を買っていた。
宿に一泊したらいよいよ出発だ。
「なんだか寂しいの」
「本当だね。醸造所の二階はみんなで寝てたもんね」
ヤーマの根付きを見届けるために三日ほどいたが、その間の修道女たちとの共同生活はイリナにとっては初めてだったのだろう。
ビビやジュジュとも仲良く仕事をしていたし、濃密な時間だったのは間違いない。
「ティトお願いなの」
(スライムベットね。入って入ってー)
「わーいなのー」
「ボクも入れてー」
寂しかったのか宿にも関わらず、イリナがスライムベットをリクエストしてきたので、包み込んで眠りにつく。
「……ナ」
「……リナ」
(これは……夢?)
誰かの視界を共有しているような映像。
エルフが立ち並ぶ中、前を真っすぐに向いて道を歩いている。
目の前には、どこまでも高く伸びる真っ白で神々しいほどに輝く巨木。
映像が切り替わる。
誰かが親しげに、それでいて辛そうな顔でのぞき込んでいる。
声は聞こえないが、頬を撫でる仕草に労りが伝わってくる。
真っすぐ、どこまでも真っすぐ進んでいく。
近づいたからだろう、おそらく巨木はだったものは純白の壁でしかない。
その壁には誰かが立っている。
白い服を着た女性が二人。
(あれは穴? 洞窟なのか?)
二人の女性の真ん中には穴が開いていた。
その先に透明で油膜のようは光を放つの水晶のようなものがある。
視界から、本人の手が伸び、その水晶に触れた。
「……ト」
「ティト起きるなの!」
(んあ? イリナ? ここは……ああ、宿か。おやようイリナ)
自分でも珍しく熟睡してしまったようだ。
あの夢は何だったんだろう?
(エルフが周りにいたしイリナの記憶だったりしてな)
「イリナのなになの?」
(いや、なんでもない)
夢の中の巨木が世界樹何だろうか。
夢が手掛かりかどうかはわからないが、世界樹を探してみるのもいいかもしれない。




