80 ワインの町 メルビ
ルヒェンと共に移動するようになって二日、ゲネンと言う町に着いた。
牧場のある町で、ボーボーと言う牛の魔獣を放牧している。
ルヒェンがお礼に出したお肉もこの町で買ったらしく、驚いたことに一キロで金貨一枚もした。
この肉をお礼にポンっと出したルヒェンは、それだけ余裕のある商人なのかもしれない……っと思ったが、店で買ったのは、その肉の横にあった安い肉だった。
飲んでしまった酒を買いなおす資金がギリギリだと笑っていたが、大丈夫なのだろうか?
「いけいけなのー」
「わあー。凄いねイリナちゃん」
牧場でビースナスが世間話をしながら情報を集めている間に、いつの間にかイリナがボーボーに乗っていた。
ボーボーは温厚な性格だが、人を乗せたりはしないと牧場の人が驚いていた。
テイマーの才能があるからか、イリナは動物に好かれるようで、ボーボーの誘導が出来るイリナは、簡単なお手伝い一緒になってしていた。
「おいしいのー」
「ボクも初めて飲んだけど濃厚だねー。不思議と体に力が漲る気がするよ」
「なかなかの味じゃない。認めてあげるわ」
「私もいただいてよろしいのでしょうか? こんな貴重なものを」
「がはは、嬢ちゃんのおかげで得したわい」
手伝いのお礼にボーボーのミルクを飲ませてもらうことが出来た。
ビースナスの話では、乳牛のように品種改良された魔獣がいるわけでもないこの世界では、ミルクは出産のタイミングが合わなければ飲めない上に、保存も効かないので貴重なんだとか。
ボーボー自体が高級な魔獣なので、もはやミルクの価値は計り知れない。
実際、ボーボーのチーズは大金貨の価値があるらしい。
「すまんが少し遠周りをしてもいいかのー。メルビで酒を買い足すなら、いま運んどる分は全て売ってしまいたいんじゃ」
(俺は構わないと思うけど、皆もいいかな?)
「寄り道も旅なのー」
「私も問題ないと思います」
その後、二つほど町に寄り道してからメルビの町に入った。
メルビはワインの産地なだけあって、ヤーマの実の畑が多いが、それ以外の果実の畑もあるようで、イリナは馬車の中から実った果実を目で追っていた。
「ワシはいくつか酒を購入して回るが、嬢ちゃんたちはどうする?」
「果物いっぱい食べるのー」
「そうか、ワシは酒を買ったら商いに戻らにゃならん。嬢ちゃん達とはここでお別れじゃな」
「楽しかったよルヒェンさん。またどこかで会えるといいね」
「またねなのー」
「おう。ワシも楽しかったわい」
手を振ってメヒェンと別れると、宿を取って馬車を止めた後に市場に向かう。
ビースナスはここでも情報収集に出る様で別行動だ。
イリナの家族を探すための情報集めをビースナスにまかせっきりな事を悪いと思いながらも、俺たちも市場で世間話で情報収集する。
イリナはヴィオと言うブドウに似た見た目の果実を売っている店に行く。
「五つくださいなのー」
「いらっしゃい! 銅貨三枚だよ。お嬢ちゃん見ない顔だけど、観光かい?」
「エルフを探してるなの。見たことないなの?」
「嬢ちゃん意外にかい? 最近は見てないね。……あっ、そうだ。なんでも西側の町でエルフの聖女様が出たって噂は流れてきたよ」
(ええー。結構離れているのに、噂がここまで来てるのか)
その後も、何店舗か回ったが、聖女の噂くらいしかなかった。
普通に考えて、迷子の捜索を出すならギルドに依頼を出すだろう。
町に行ってビースナスがやっていることも捜索願が出ているかの確認が主だ。
俺たちも確認するために、ギルドに向かう。
「うーん。やっぱり捜索の依頼は出てないね」
「ほとんどが魔獣の討伐ね。町からも離れているし、私たちが受ける必要はなさそうかしら?」
(あとは、商人の護衛とかだな。そもそもランク的にはイリナじゃ受けられないからスルーだな)
めぼしい依頼もなかったので、ギルドでビースナスと合流した後は、ルヒェンの飲んでいたワインの醸造所に行ってみることにした。
……のだが、醸造所の前には衛兵が立っていて入ることは出来なかった。
(当たり前か。ワインやビールの製法は厳重に管理されてるものだよな。水が汚いわけじゃないから、酒が主な飲み物って訳ではないだろうけど)
気になったので、悪いとは思いながらも魔力探知で施設の中を覗き見た。
ヤーマの実を潰したり絞ったりする施設やワインの入った樽などが安置された場所が見える。
その中でも、とりわけ強い魔力の場所を集中的にみる。
(キノコもそうだけど、この世界は菌類は魔法生物みたいだし、この魔力が酵母なのかな?)
注視してみると、その部屋には儀式にでも使いそうな模様の入った立派な台が中央にあり、上に金属の枠で出来た砂時計のようなものが設置されていた。
ちょうど上部にある苔むした塊から液体が一滴落ちた。
下の器には、液体はほとんど溜まっていない。
雫が一滴落ちるだけでもかなりな時間がかかるようだ。
「ワインを買うことはできますが、いかがいたしますか?」
(ワインだけでは鑑定吸収できないし、別にいいかな?)
「ワインは飲まないからいらないの」
「わかりました。では食事をして宿に戻りましょう」
宿は素泊まりだったが、食堂が近かったので気にならなかった。
ルヒェンが卸していたのか、食堂のお肉は種類が豊富で、ワインを使ったソースがなかなかの一品だった。
イリナはかなり満足していた。
――次の日、外の騒がしさで目が覚めと、部屋がノックされ、なかば強引に扉が開かれた。
衛兵らしい恰好の男が二人、部屋の中に入ってくる。
「うわっ、びっくりした」
「失礼ですが、どちら様でしょうか。こんな朝早くに女性の部屋に押し掛けるのは礼儀に掛けると思いますが?」
ビースナスがイリナを守るように前に出る。
「我々はクロース男爵の命によってまいりました。あなた方にはある疑いが掛けられています。ご同行いただけますか?」
ビースナスがため息をついて、構えを解いた。
事態は飲み込めないが、抵抗はしない方が良いだろう。
俺たちは素直に従って兵士に宿から連れ出された。




