79 商人ルヒェン
「わっはっはっはっ」
「わっはっはーなのー」
イリナとドワーフのおじさんが焚火の前で、乾杯するようにお肉をぶつけ合う。
ジーズの町を出て街道を進んでいた俺たちは、車輪が轍に嵌まって動けなくなっている馬車に遭遇した。
その場で救援を申し込まれた俺たちは、協力して馬車を轍から出すと、商人の馬車だったらしく、お礼に商品の中の一つをお礼にやると言われた。
迷わず肉を選んだイリナだが、量がそれなりにあったので、おじさんも呼んで肉を食べることになったのだ。
「いやー、久々に気持ちのいい嬢ちゃんにあった。今日は気分がええのう」
「このお肉は最高なの」
「そうじゃろう! 高かったんじゃ! まあ、轍に三日も嵌まってたんで悪くなる前に食ってもらって満足じゃ」
「本当にいいお肉だねー。凄く肉に油が乗ってる」
「そうじゃろうそうじゃろう。かぁー、いかん! こんないい肉に酒を飲まんなんぞ失礼じゃ!」
ドワーフのおじさん、ルヒェンが自分の馬車に戻ると樽を持って帰ってきた。
「この肉には赤が合うんじゃ」
(おいおい、商品じゃないのか。豪快な人だな)
ルヒェンの馬車の大半は酒樽だった。
種類も豊富で量も多い。
商売相手は同じドワーフだと言われれば、そのラインナップに納得してしまう。
「おい。姉ちゃんも飲むか?」
「私は、護衛もありますので遠慮しておきます」
「かぁー。仕方ねぇか、こんなちびっ子ばっかだからな。しかし、一人で飲むのは寂しいねぇー。スライム、お前さんは飲むか?」
(せっかくだし飲もうかな? ワインの中身も気になるし)
ビースナスは護衛を理由に断った。
ノエルが飲めるかわからないが、肉に夢中で酒を飲む気はないらしい。
俺は大きな丸を作って、飲む意思を伝えた。
「お? いいねぇー。ほれ」
(デカいな。どれだけ飲むんだよ。商品なんだよな?)
俺の前にドスンと置かれた木製のカップは、イリナの胴の太さくらいある。
カップと言うより、もはや小型の樽だ。
そこに並々とワインが注がれる。
「ダーリン、私も飲んでいいかしら?」
「エステルも? なんだか珍しいな」
「ちょっとね。私の勘が、このワインはなかなかの物だと言っているのよ」
実際に飲んでみるとエステルの言う通りに凄まじく美味かった。
その美味さは【甘露】の称号を持つ身としては、少し対抗意識が出てしまうほどだった。
次に鑑定吸収のスキルを使う。
鑑定成功
結果:ヤーマの実
ワインに用いられる実で、普通に食べると渋い。
吸収しますか?
YES/NO?
鑑定成功
結果:酵母(?)
アルコール分によって休止状態。
量が少なすぎるため吸収不可。
(おっ? 今回は酵母が鑑定出来たな……って言ってもほとんど出来てないようなものだけど。しかし、主原料は前の毒入りワインと同じか……)
なんだかトゥッティーンの所為でワインのイメージが悪くなるが、あの時のワインはここまで美味しくなかったんじゃないだろうか。
(この酵母が凄いのか? 気になるから購入した地域を明日にでも聞いておこうか)
ルヒェンに目を向けると、ジョッキを振り回しながら浴びるように飲んでいる。
まだまだ終わりそうもないので、俺はイリナの元に戻ると、肉もなくなっているようで、イリナが眠そうにし始めた。
ビースナスの馬車に行ってスライムベットになると、イリナとノエルが追いかけるように入ってきて眠りについた。
「かぁー。やっちまったー」
(二日酔いにでもなったのか?)
翌日、ルヒェンが頭を抱えていた。
しかし、それは俺の予想とは違うりるうだった。
「調子に乗って、メルビのワインを全部飲んじまった! さすがに買いに戻りゃにゃならんわい」
俺たちが寝た後もワインを飲み続けたルヒェンは、注文されていた分まで飲んでしまったようだ。
「私たちもそのワインの産地には興味があります。良かったら同行してもいいですか?」
「あっ? ああ、かまわんよ。旅は道連れじゃ。ただ、もう酒は振舞えんぞ」
「あはは、大丈夫だよルヒェンさん」
「かわりに今夜も肉パーティーじゃ」
「お肉パーティーなのー」
(大丈夫か? この人は)
こうして計画性のなさそうなルヒェンとの短い間の旅が始まった。




