78 自然スライムが残した意志
鑑定成功
結果:自然スライム【ゼント・変異種】
枯れかけていた自然スライム【ゼント】を養分として吸収し進化した個体。
すでにその行為は吸収元の個体の時点で繰り返されており、魔力が淀んでいる。
枯れかけの状態で進化が引き継がれており、寿命が短い。
自然スライム【ゼント・変異種】を吸収しますか?
YES/NO?
(吸収元の個体の時点で繰り返されており……か)
おそらく、魔力の少ない坑道内で『枯れかけては吸収され、別の個体が自然スライム【ゼント】として生きる』を繰り返してきたのだろう。
コピーをコピーする……そんな行為を続けてきた結果が【変異種】に表れているんだと思う。
魔力探知でも、すでに何かが壊れてしまっている事が伝わってくる。
(これを吸収して良いものなのだろうか……)
「ティト?」
イリナが心配そうに俺を見てくる。
予感では、この自然スライムはまもなく枯れて死ぬ。
代わりを引き継げるようなスライムは、周囲を探知した限りではもういない。
この種は、現時点では詰んでいるのだ。
……俺だけが引き継げる。
だけど、【変異種】を吸収することによる影響がどんなものなのかが解らないのが……正直、怖い。
『ダーリンなら大丈夫よ。気持ちは決まっているんでしょ? 不安なら小娘達にも打ち明けてあげなさいよ』
(そうだな……ありがとうエステル)
疑似枝の中からエステルがそう言ってくれた。
俺はみんなに、この自然スライムが直に枯れる事、【変異種】を吸収するリスクと不安がある事、それでも受け継ぎたい事を素直に話した。
「問題ないの! ティトは無敵なの!」
「残してやりたいんだね。すごくティトらしいと思うよ」
「私から何かを申し上げることは出来ませんが、ティト様なら大丈夫と思います」
「ワシからも頼む。ゼントを残してくれ」
「……俺からも頼むよ」
(イリナ達は俺を買いかぶり過ぎだよ)
信頼の厚さに苦笑いが出る。
だが、おかげで迷いも不安も無くなった。
(よし、いくぞ。吸収だ!)
鑑定吸収のスキルを発動させると、感情のようなものが流れ込んでくる。
それは凄く根源的なもので「生きたい」と言う意志だった。
吸収進化を何世代にも渡って蓄積された願い。
(そうか。こういう風に変異したかったんだな)
まさに最後のピースが俺だったのだろう。
変異の方向性が急速に定まっていくのを感じる。
俺はみんなに吸収の成功を告げて外に出る事にする。
(イリナ、ファルステンを使って)
「わかったなの! イメージはティトに任せるのなの!」
イメージが流れてくる。
根は浅く、薄く広がるだけでいい。
このゼントが根付ければそれだけで十分だ。
「ファルステンなの!」
細かい根が地面に広がる。
魔力は多めに込めてある。
ゼントの花の世代交代まで持てば十分だ。
(よし! 生産、スライム花【ゼント】)
イリナが出したファルステンの上にゼントが咲き乱れていく。
そこに、さっそくビャック蜂が蜜を吸うために飛んできた。
鑑定成功
結果:ゼントの花【ティトオリジナル】
自然スライムの何世代にも渡る願いの結晶。
魔力の少ない土地でも咲き誇り、種を存続させる強い花。
花の蜜は甘く、その姿は人に生きる希望を与える。
俺の出したゼントの花は、元の大きさよりも一回りも小さい。
しかし、その花の美しさは生きる力に溢れていた。
「ゼントの花じゃ。これで町は甦る。……こうしちゃおれん! 急いでばあさん等を呼んでこなけりゃ!」
「あっ、待ってよ。じいちゃん!」
花を見て感動した後に、我に返った顔でカクヤがギルドに走っていく。
メーゲンも一緒だ。
走っていく二人の笑顔にも、力が漲っているように見えた。
(よし! 完璧だな)
「お疲れ様。ティトー」
「お腹すいたのー」
「なんじゃこれは! ゼントが……ゼントが蘇っておる」
「なんという奇跡……聖女様じゃ。聖女様がゼントを蘇らせてくれたのじゃ」
(あっ、これは……カクヤさん! ああ、いないんだ!)
声に振り返ると、花畑の中に立つイリナを前に、膝をついて涙を流すおじいさん達。
良く考えれば、カクヤもきっと似たような感情なのかもしれない。
(……よし。逃げるかー)
「逃げるが勝ちなのー」
「あはは、また聖女の伝説が出来ちゃったねー」
「ふふふ、宿の料金は済ませていますし、このまま出発してしまいましょう」
おじいさん達が状況に飲まれている隙に、俺たちは馬車に飛び乗った。




