77 鉱脈を探した先に
「雨が降ってこないうちに、デッハに移動するんじゃ。お前さん方も来なさい」
雷雨に慣れているおじいさん達の判断は早かった。
俺たちは招かれるままに、おじいさんに付いて行くと、斜面の途中にあるデッハと呼ばれる人工的に作られたトンネルへと避難する。
入ってしばらくすると、雷の音と共にバケツをひっくり返したような雨が降る。
普通に宿に向かっていたらずぶ濡れになるところだった。
おじいさんにお礼を言うついでに、みんなで自己紹介をする。
俺たちを呼び込んでくれたおじいさんは、カクヤというらしい。
鉱山が活発な頃は労働者の顔役をやっていた人のようで、他のおじいさん達の信頼は厚そうだ。
「お弁当を食べるのー」
「そうですね。もうすぐお昼ですしそうしますか」
「ワシ等も食べるかのう」
雨で足止めされると間に昼食を取る事にした。
お昼は宿が用意してくれたパンと肉団子のスープだ。
スープの入れ物は鉱山時代に弁当として使っていた鉄製のもので、水筒のように縦に長い作りになっている。
スープは初めから冷えていて、イリナの感想では塩辛い味付けらしい。
この山では、青空の下でピクニックとはいかないのが残念だ。
(もう雨が上がったみたいだな)
あれだけの勢いで振っていた雨が、嘘のように短時間で終わっていて、デッハの入り口からは日が差し込んできていた。
外に出て、日差しの方向を見ると青空の中、早い速度で雲が流れていく。
振った雨は低い方に流れていき、川になって麓へ向かって流れていっていた。
「さて、作業を再開するかのう」
自然スライムがいる可能性が無いのがわかっているが、なんとなくこのまま宿に帰る気にもなれなかった俺たちは、鉱脈探しに参加することにした。
エステルは興味が無いらしく、疑似枝に入っている。
(鉱脈を探すって言うけど、そもそもここでは何の鉱石が取れたんだ?)
「あっ、それボクも気になる。おじいさん、昔はここでどんな功績が取れたの?」
「ああ。ここでは昔、水磁石と言う魔石が取れたんじゃ」
疑問に思ったことをノエルに聞いてもらうと、カクヤが教えてくれた。
水磁石とは、通称『水招き』と呼ばれる魔石で、干ばつ地帯に雨を呼ぶための魔道具に利用される貴重な魔石だと言う。
霊峰ファナの山頂に常に雷雲があるのも「高純度の水磁石が山頂にあるからでは?」なんて仮説もあるらしい。
「じいちゃん、反応があった! 鉱脈だよ! 見つけたんだ」
メーゲンが嬉しそうに走ってくる。
案内されるままにその場所に向かうと、崩落があったのか大きな穴が開いていた。
メーゲンがその穴に向かって、ダウジングロットを当てると左右に開く。
しかし、その後にカクヤが試してみると、そちらには反応がなかった。
「メーゲン……気のせいだ。ここに鉱脈はない。お前の願望がロットを動かしただけじゃ」
「そんなはずないよ。ほら、反応してる」
「わしはこの山の地形と鉱山を把握しておる。この下はただの廃坑じゃよ」
「そんな……」
カクヤの言葉を聞いてメーゲンが膝をついて落ち込むが、まだ納得していないようだ。
さっきの大雨で崩落したばかりなのか、中にはさほど水は入っていないようだ。
鉱脈が魔石の類だと聞いたので、穴の中を魔力探知を使って見てみることにした。
すると、穴の先には微弱ながらも魔力の反応があった。
(反応がある。しかもこれって……)
「何かあったのなの?」
(鉱石ではないけど、魔力の反応があるね。……これってたぶん自然スライムだよ)
「自然スライムなの? 行ってみるの!」
「あっ、おい! お前さんたち入っちゃいかん! 危ないんじゃぞ!」
「俺も行く! 諦められるもんか!」
穴を慎重に降りていくと、メーゲンまで俺たちに続いてきた。
中は意外に広く、坑道らしい木の枠組みがされた道が見える。
カクヤの予想通り、穴は廃坑に繋がっていたようだ。
穴に突入した俺たちを見て、血相を変えてカクヤが入ってきた。
「バカもん! ガスが溜まってるかもしれんじゃろうが! 少し待っとれ」
魔道具のようなものを取り出して、周囲にかざす。
ガスを探知できる魔道具なんだろうか?
鉱脈なんて無いとわかっていながらも、ガス探知の魔道具を持ち歩いていたということは、カクヤもどこかで新たな鉱脈が見つかる可能性を信じたかったのかもしれない。
「ガスは無いみたいじゃな。ほれ、どっちに行けばいいんじゃ。案内せぇ」
「こっちなの」
「ランタン以外の明かりはあるか? 暗くて見えんぞ」
「あります。これでどうですか」
ビースナスが明かりの魔道具を出す。
俺はイリナに誘導役をやってもらい、進行方向を教えていく。
魔力探知を使って全体を把握しようとしたが驚いた事に、坑道は少なくとも半径四キロに渡って行動は続いていた。
それは横だけではなく縦にもだ。
幸い魔力の元は近場だったので、すぐに着くことができた。
「こりゃあ、驚いた。ゼルトの花じゃないか! ビャック蜂もおるぞ」
魔力を放っていた正体はビャック花だった。
開けた空間の中央に、ひっそりと十輪にも満たない花が咲いていた。
その花の周りには蜂も飛んでいる。
「おお……花が……蜂が……これさえあれば、 ジーズの町は甦る! 昔みたいにまた人の溢れる町に出来るぞ」
カクヤが涙を流しながら近づいて、花の前で膝をついた。
しかし、俺にはわかってしまった。
もうこの花たちの命が長くないことを。




