73 のんびりと誕生日
(本当に大量になっちゃったな)
「あはは。ボクも取りすぎちゃったみたい」
俺とエステルが寛いでいる間、ノエルも鮭を獲る熊さながらに、手掴みで魚を取っていたらしいが、もしかしたらそれが原因でお爺さんの竿に掛からなかったのかもしれない。
ノエルの大量に獲った魚は、お爺さんが知り合いの店主に話を通して、買い取ってもらった。
それだけで今回の依頼よりも多い稼ぎが出たが、他の漁師の仕事を奪ってしまう事になるので、ここでは魚獲りはもうしない方が良いだろう。
「さあ、魚も売ったし、他に行きたいところはないの?」
「お魚食べたいのー」
「ダメよ。夕食までそんなにないでしょ。お腹いっぱいになっちゃうじゃない」
ゼンダはお爺さんの家までの案内役に残ってくれている。
俺たちが魚を売り払っている間に、お爺さんは家に先に帰って、夕食の準備をすると言っていた。
夕食までは時間があるので、遊んでから来なさいとお小遣いまで貰ったが、イリナはさっそく食べ物を買おうとして注意されていた。
そこで、はいはいとノエルが手を挙げた。
「ボク釣竿がみたいな」
「そうね。釣り具はタウの町の名産品だしいいんじゃない」
(確かに、釣竿を見るのも面白そうだね)
川沿いの宿には、宿泊客が釣り体験を出来るように、川に降りれる場所が設置されている。
それ以外にも釣りスポットは多い。
大抵は貸し出しの釣竿だが、中には気に入って買っていく客もいるようで、釣り具を売る店も何店舗かある。
庶民向けの店とは別で、魔道具も使われた玄人向けの店もあり、今回はその店で釣竿を見ることになった。
高級店だが、イリナ達を見ても眉を顰めるようなことはなく、店員さんが丁寧に効果を教えてくれた。
テイム契約の証明書はあるが、高級な魔道具の店の中で、スライムを野放しに出来ないので、ゼンダのスライムも俺も抱っこされている。
「これは面白いですね。糸に液体金属を使うことで、素早く伸ばしたり縮めたりできるんですか」
(さすがに高価な魔道具だから、直接は触らせてはくれないのは残念だな)
「小娘なんて触ったら壊しそうだものねー」
「むー。壊さないの!」
「見てよイリナちゃん。凄い大きな釣竿が掛けてあるよ。どんな大物を釣るためなんだろうねー」
「お腹いっぱい食べれそうなのー」
「ここには、そんな大物は出ないわよ。カムン川は浅いもの」
そうして、ショーケースに入った釣竿や人目を引くためのおそらく非売品の釣竿を見て楽しんでいると、あっと言う間に時間が流れ、空が暗くなり始めていた。
ビースナスに宿の夕食をキャンセルしに行って貰って、戻ってきたらお爺さんの家に向かう。
「おじいちゃんの家はこっちよ。ついて来て」
ゼンダのお爺さんの家は川沿いに広がった方の区画で、こちらの方が古くからあるのか、同じ形の家が連なった景色は、街道沿いにある町並みよりも情緒があった。
そして、連なっている中の一つの家の前でゼンダが止まってノックをする。
「お爺ちゃん来たわよ!」
「おおー、さあお入り。準備はもう出来ているよ」
「お邪魔するのー」
扉が開くとパイの香ばしい匂いが漂ってきた。
そして、それに反応してイリナのお腹が鳴るりお爺さん達が笑った。
案内されて、それぞれが席に着くとお婆さんが料理を運んできた。
「今日はゼンダちゃんの好きなシーズのパイを焼いたのよ」
「おいしそうなのー」
「パイを焼くなんて豪華じゃない。今日はどうしたの?」
「どうしたも何も、三日後はゼンダの誕生日じゃないの。魚も沢山釣れたし、今日はお友達もいるから、少し早いけど祝いしようと思ってね。いつもは当日はゼンダの家に御呼ばれするだけだから、今日はお婆ちゃん達がゼンダを独占してお祝いするわね」
「わー、ありがとう。お爺ちゃん。お婆ちゃん」
同じ町で分かれて住んでるって事は、こちらは母方の祖父母の家なんだろう。
それがわかったところで俺たちもお祝いをする。
俺の場合は身振り手振りだが。
(おめでとうゼンダー)
「ゼンダおめでとうなの!」
「おめでとうゼンダちゃん」
「私もお祝いしてあげるわー」
俺からもお祝いを渡そうと、こっそりとイリナにリンゴンを渡す。
あまりに美味しくし過ぎると、お爺さん達の料理を台無しにしてしまうので甘さはかなり控えめにして作るってが、かわりに瑞々しくしたリンゴンだ。
「イリナもこれをプレゼントするの」
「イリナが? 美味しそうね、ありがと。食後に一緒に食べましょう」
その後は、食事をしながら楽しく過ごした。
リンゴンは大成功だったようで、ゼンダはスライムと分け合って喜んで食べていた。
食事が終わり、ゼンダを家まで送ってから宿に戻った。
それから二日が経って果実の収穫の手伝いの依頼を受けた。
お金を稼いでいると言っていたゼンダも参加していて、またイリナに勝負を挑んで二人で楽しそうに収穫していた。
今回は、ゼンダのテイムしているスライムも収穫に参加していて、この前のボーっとした動きではなく、果実をパッパッっとリズミカルに収穫していた。
「あのスライム、ダーリンに挑むつもりかしら? 見せつけてやるしかないわね」
(よーし。俺もやるかー)
「ボクもやるー」
スパパパパっと素早く回収していくと、農家の人たちが目を見張った。
俺のスライムボディーは柔らかいので、果実を傷めずに収穫するなど朝飯前なのだ。
俺の参加によって、予定よりも早く沢山収穫が出来たので、依頼してきた農家の人にとても喜ばれた。
「さすがは私の見込んだライバルね。今日のところは私の負けにしてあげる。でも次に会う時には私が勝つから!」
「望むところなの!」
イリナがファイティングポーズを取って答える。
ゼンダには滞在期間は五日だと伝えてある。
話した時は寂しそうな顔をしたが、再開の約束をすると納得して「次に会う時は絶対に勝つわ」と宣言していた。
次の日、ゼンダの家で行うお誕生日会にも呼ばれたので向かうと、ゼンダが焦った顔でイリナを迎えた。
「助けてイリナちゃん。私のスライムが死んじゃう」
なんと、ゼンダの手には薄くなったスライムが抱かれていた。




