72 釣り餌集め
「あら、あなたのもスライムテイマーなのね。スライムの良さがわかるなんて小さいのに優秀じゃないの」
「ティトはさいきょうなの!」
「そうよね。スライムは最強だわ」
スライムを連れた少女はゼンダと名乗った。
そばかすとポニーテルで活発な印象を受ける少女で、イリナに対して「小さいのに」などと言っていたが、イリナより頭一つ分背が高いとはいえ、少女もかなり小柄で幼い。
少女の服装は冒険者と言うよりも村娘で、強いて冒険者っぽい所をあげるなら、ポンチョくらいだろうか。
まあ、うちにもメイド服の冒険者がいるで、どうこう言えた義理ではないが……。
「見ない顔ね、外から来た冒険者かしら? ……って事は! もしかして、トラオンのルーフェンに向かってたりするの!」
「ルーフェンなの?」
「まさか知らないの! ルーフェンと言えばテイマーの総本山じゃない! すべてのテイマー憧れの地なのよ? 私もそこに行くために、こうやってお金を貯めてるんだから」
「そうなの? 勉強になったの」
「ふっ、ふーん、素直じゃない。ちゃんとそうして、先輩に敬意を払えるんなら、あんたをテイマーとしてライバルだと認めてあげても良いわ」
「受けて立つのー」
話している内にライバル宣言されてしまったが、イリナは受けて立つよう。
そうしていると、依頼人なのか釣竿を持った老人が歩いてきた。
「これゼンダ! なに虐めとるんじゃ。小遣いやらんぞ!」
「依頼の報酬でしょ! 小遣いなんて言わないでよお爺ちゃん! それに虐めてなんていないわ。これはライバル宣言よ」
「ライバルなのー」
「そうかそうか、じゃあ、いつものように頼むぞ」
(あっ、これ、身内に出した依頼だったのかな?)
ゼンダの頭を撫でる姿を見て、これが家族に出した依頼なんだと思い至った。
ランクも報酬も低かったが、孫に小遣いをやるつもりで出していた依頼だったのかもしれない。
そうなると、なんというか気まずい。
しかし、おじいさんは「それじゃあ、よろしく頼む」と小さな籠をイリナとゼンダに渡した。
(まあ、イリナなら孫の友達感覚か。この依頼を受けるのはイリナだけにしようか)
「そうだねー」
「その籠にいっぱいになるまで餌を獲って入れてくれれば良い。よろしく頼んだぞー。あと、危ないから川には近づきすぎないように」
「勝負よイリナ!」
「望むところなのー」
勢いよくゼンダとイリナが駆け出す。
それを見送ったお爺さんは、近くにある椅子に腰かけて釣りを始めた。
椅子がすでに置いてあったということは、良くあそこで釣っているのだろう。
生活の為と言うよりも趣味なのかもしれない。
「良いイリナ、餌はこうやって集めるのよ」
「こうなの?」
ゼンダが川辺の石をひっくり返してミミズのような生物を籠に入れる。
イリナもそれを見てマネして石をひっくり返した。
勝負と言いながらもしっかりやり方を教えている。
端から見たら仲のいい姉妹のようだ。
「眼福です。冒険者をしていてよかった」
「ボクも体を動かしたい。お爺さんに魚を獲っていいか聞いてくるね」
「ダーリンは私と一緒にのんびりしましょー」
(そうだな。あの籠の大きさだと、手伝ったらすぐ終わっちゃいそうだ)
エステルとのんびりする。
日差しが柔らかく、ポカポカ陽気だ。
まだ寒くはない、少し乾燥した風が良い感じだ。
イリナ以外のテイマーなので、少し気になって一緒にいるスライムの動きを見ていたが、ゼンダは命令するわけではなく、ただ一緒にいるだけのようだ。
スライムは淡い水色で、ゼンダに寄り添っているが、意志のようなものは酷く弱く感じる。
もしかしたら、まだ生まれて間もないのかもしれない。
たまに、ゼンダが気遣うようにスライムを撫でてあげている。
「テイムって言うよりペットよね」
(本当にな。平和で癒されるよ)
「私の取ってはダーリンが一番の癒しよー」
お爺さんも釣りをしながら、たまにゼンダを見ては微笑んでいる。
なんとも長閑な時間が流れるていた。
「しかし、参ったのう。今日はまったく釣れん。このままでは婆さんに叱られてしまうわい」
(釣れてないのかー。そうだ、こっそり手伝っちゃおうかな?)
「ダーリンどうするつもりなの?」
(ここは【甘露】の見せどころってね)
俺はこっそり少しだけスライム蜜をお爺さんが竿を振ったタイミングで針に飛ばして付けた。
すると、すぐに魚が凄い勢いで集まる。
(さすが【甘露】。その美味さには誰も逆らえない)
「なんじゃ! 急に大量じゃわい。ゼンダ、手伝ってくれー」
その後、大量に釣れたことで、俺たちもお爺さんの家に御呼ばれすることになった。




