71 タウの町
「次の町が見えてきました」
(おー、やっとかー)
ビースナスの言葉でイリナと馬車から顔を出す。
今から向かうタウの町は、カイトから東に向かう街道沿いにある大きめの町だ。
ミラン領の台所と呼ばれるほどに食糧生産に特化した町で、向かう道の両脇は一面が畑だ。
秋も半ばになり小麦の収穫は終わっているので、小麦自体は無いが町の奥まで続いていそうな見渡す限りの平野と畑は圧巻の一言だ。
「見晴らしがいいのー」
「町が浮かび上がって見えるね」
「タウの町にはイリナ様と合流する前にエルフの立ち寄って、あらかじめエルフの情報を集めるようにギルドで依頼を出しています。その結果の報告を受けに行きますが、イリナ様方はいかがいたしますか?」
「ご飯なのー。屋台に食べにいくのー」
「小娘はブレないわねー」
マニョの村を離れる前に、イリナの家族の情報を集めてはみたが、まったくと言って良いほど出てこなかった。
まあ、移動の途中で得られればラッキー程度のものだったので、それ自体は問題はなが、ビースナスはすでに手を回していたらしい。
(滞在期間はどうする? 別にいそいでないし)
「余裕をもって五日くらいかなー? イリナちゃんはどう思う?」
「それでいいの! それまでに食べつくすのー」
「では、五日で宿を取ってしまいましょう」
馬車を宿の指定した場所に止めて、ビースナスが宿の手続きを済ませる。
俺たちも取った部屋に嵩張る荷物を置いて、その後は自由行動だ。
時間的には三時を回ったくらいか、日が落ちるのは早くなっているが、軽く町を見て回るのには問題ないだろう。
「私はギルドに向かいますが、市場に行くのでしたら、干し肉の買い増しをお願いします。これから冬になりますし、ミラン領はエリス大森林に近いので比較的温暖ですが、東に向かって離れるほどに、寒さが厳しくなります。旅の途中でも肉を食べられるようにするには必要でしょう」
「わかったのー。お肉はまかせるの」
イリナが了解の意味でショルダーバッグを叩いた。
タウの町は、街道を横切る川に掛かった橋の周辺に出来た町で、街道と川のそれぞれに沿って縦横に長い構造になっている十字型の町だ。
中心部を川が流れているので、橋によって町は東西に分かれている。
宿があるのは橋の手前で町の中心地だ。
女将さんの話では、ギルドは橋を渡って東側、市場はそれぞれの街道の入り口付近だと言う。
ビースナスは東のギルドに行くので、合流しやすいように俺たちが向かうのも東側の市場にした。
「長閑でいい景色だねー。こんなに長い橋を渡るの初めてだよ」
「あっち見るの! お魚焼いてるの!」
(イリナ、橋から身を乗り出すと落ちちゃうよ。それに宿でもたぶん魚料理は出るよ?)
「宿はべつばらなの!」
川幅はあるが深さはそれほどでも無いようで流れも穏やかだ。
橋が無い昔は、歩いて渡っていたのかもしれない。
橋を渡り切ったところで、魚を店先で焼いているお店を見つけたイリナが、入りたがったことでビースナスと別れる。
「美味しいのー」
「美味しいねー」
(俺も一口食べたい!)
「ダーリン、我慢よ!」
イリナ達の食べた物は、シンプルな魚の串焼きだ。
ミラン領は内陸だが、一つ下のラウメ領で岩塩が取れるようになったらしく、今では塩焼きが一番人気らしい。
焼き魚を堪能した事で時間もそこそこ使ったので、ビースナスの用事が終わっていないか、市場に行く前にギルドを覗いて確認してみたが、奥に案内されているのか、入口から見ただけでは見つけられなかった。
しかたがないので、そのまま干し肉を買いに行く。
市場はメインになる大通りから、一つズレた道沿いにあった。
メインの街道は馬車の通りが激しいので、巻き上がる土埃を避けるためだろう。
市場に着くと冬の前に買い出しを済ませたい人たちで、なかなかに賑わっていた。
「パン屋なの。行くの!」
(イリナ、帰りに買って帰るからまずは干し肉を買っちゃおう)
「むー。しかたないの」
パン屋を見つけて突撃しようとしているイリナを止めて、肉屋に向かい中に入る。
時期の問題なのか土地柄なのか、品ぞろえは思ったよりも少なかった。
生肉が置いてあるカウンターから、保存食用の棚に移動して干し肉を探す。
(うわー。意外と高いなー)
「タウの街の周りには森が少ないもんねー」
保存の効く干し肉の需要は上がっているようで、カイトの時の干し肉に比べて、価格が五倍以上もした。
お金は潤沢だが、旅を続けているとどこで必要になるかもわからないので、タウでもお金は稼いでおいた方が良さそうだ。
(んー。ビースナスに頼んで野菜を売って貰おうかなー)
「ビースナスに合流するついでに、ギルドで依頼も見てみようよ」
(そうだな。ギルドに行ってみよう)
「その前にパンなの!」
パン屋でも日持ちするパンを買い込んだ。
イリナのショルダーバックはもうパンパンだ。
「頼もーなのー」
「ああ、イリナ様、いらっしゃったのですね。丁度、私の用事も終わったところで向おうと思っていた所でした」
「依頼を見に来たわ。メイド、カウンターに行って見繕ってきなさい」
「はい! エステル様」
エステルに命令されたビースナスは、実に嬉しそうにカウンターに走っていく。
ギルド内でビースナスのメイド服姿は目立っていたが、さんざんやり取りしたのか受付の女性は気にした様子もなかった。
そして、数枚の依頼書を受け取ってビースナスが戻ってきた。
「イリナ様の受けられそうな依頼は三件ありました。一つ目は倉庫の夜の見張り。二つ目は果実の収穫手伝い。三つ目が魚釣り用の餌の調達です」
(夜の見張りイリナには無理かな。果実の収穫の手伝いにしようか。この地域で取れる果実を知っていた方が、俺の生産を売るときに競合しないで済むし)
別に市場を荒らすほど売るつもりはないが、生産物は被らない方が良いだろう。
「では、それを受けましょう。手伝いは四日後のようですが、餌の調達も受けますか?」
「やるの。お魚いっぱい釣るの!」
「やるのは餌集めでしょ!」
「では、その二つを受けましょう。餌集めは明日です。では宿に戻りましょう」
宿に戻ると魚料理と野菜料理を食べた。
葉野菜も充実していたので、サラダも豪華で大満足だ。
次の日に、ギルド指定の場所に集合すると、俺たち以外に女の子の冒険者が一緒だった。
イリナ以外のテイムスキル持ちの少女で、驚いたことにその少女が連れていたのはスライムだった。




