67 商人馬車の襲撃
次の日、シリカさんに教えてもらった狩場に行くと、あっさりとカシカを一頭獲ることに成功した。
魔力探知で確認すると、昨日のレオントラの魔力らしい存在を感知できる。
こちらから一定の距離を保っているようで、もしかしたらこっちに獲物を誘導してくれたのかもしれない。
シリカさんに狩猟の成功を報告をした後は、それをそのまま食堂に持って行ってくれと頼まれた。
俺たちの泊まった宿が、冒険者ギルドを兼任しているらしく、魔物肉の解体と買取をして市場に流してくれるらしい。
「お肉なのー。お肉なのー」
「これで、今日は宿でお肉が食べられるねー」
「やっと狩猟から解放されてゆっくりできるわー」
「念のため、明日も狩猟の依頼を受けましょうか?」
「いやよ。もういいでしょ」
「エステルは何もしてないの!」
「なんですってー」
そんな話をしながら宿に戻ると、何やら騒ぎが起きていた。
「怪我人がいるんだ! ここで休ませてはもらえないだろうか」
「冒険者用の簡易ベットがあるよ。使っとくれ」
宿の女将さんに案内されて怪我をした冒険者が運び込まれる。
宿の横にはビースナスの馬車とは別の商人の馬車が止まっている。
魔物の襲撃にあったのか、幌が破れ血の跡が付いている。
ビースナスが怪我人の仲間と思われる人間に話を聞きに行った。
「怪我は大丈夫ですか? 私もポーションを持っていますが」
「ああ、ポーションは大丈夫だ。最近、新たなポーションのレシピが公開されて値段が下がったから、自分たちの分は持ってたんだ。完全には治ってないがポーションが必要なほどではない。ただ、血をかなり流しちまったみたいでな」
「失った血は戻りませんからね。増血薬がありますのでそれをお譲りしましょう」
「助かる。適正価格より多めに金は出させてもらうよ」
「では、部屋に戻って取ってきます」
そこで、ビースナスが俺に内緒話をする。
「ティト様、これから言う材料を出していただきたいのですが」
人助けになるし、俺は輪っかを作ってビースナスの提案の了承を伝える。
魔物の買取の手続きは、騒ぎを聞いてギルドに駆け付けたサムさんがやってくれると言ってきたので任せることにした。
「だから、レオントラだ! レオントラが襲ってきたんだ! 去っていく後姿を見たんだよ」
「いや、レオントラが商人の馬車を襲うなど聞いたこともないよ……」
「いいから討伐の依頼を出せ。我が商会はギルドにいままでいくら出してると思っているんだ!」
増血薬をビースナスが作って戻ってくると、襲われた商人らしき人物がおかみさんに食って掛かっていた。
商人は襲われた後に、レオントラが去っていくのを見たと訴えている。
本当にレオントラが襲ったのだろうか?
冒険者に増血薬を渡して戻ってきたビースナスに聞いてみることにした。
「私もレオントラが商人の馬車を襲ったとは思えませんね。レオントラは温厚で頭がいい魔物といわれていますし」
しかし、商人の意見を聞かないわけにもいかないのか、ギルドから馬車を襲った魔物に対して撃退の依頼が出た。
しかも、イリナが獲ってきたばかりのカシカを餌にするとまで言っていた。
「ダメなの! イリナのお肉なの! 許せないの!」
憤慨するイリナだが、商人と一緒に来た冒険者たちもレオントラの姿は見たようで、危険性を訴えている。
村の安全のためにも大型の魔物は撃退した方が良いとの方針になったのだ
商人は討伐できれば追加で報酬を出すと若者たちを煽り、報酬に目がくらんで「討伐だと」声を上げ始めた。
サムさんはそれを難しい顔で見ている。
「すまんが、シリカのところに行ってはくれんか。ワシも出来るだけ止めようとは思うが、ここまでなってしまっては止まらんだろう」
(そうだね。ここにいても止められそうにないし、シリカさんにも話しておこう)
村人たちが不安と欲の両方に煽られて武器を手に取り始めている。
俺たちはサムさんの指示で、事態をシリカさんに伝えるべく狩猟小屋へと向かった。




