56 黒幕
俺は素早くダレンさんの元に行く。
鑑定出来たと言うことは、体内であっても吸収する事が出来るはずだ。
毒がどれくらい入っていたのか分からないが、急いだほうが良い。
「おやおや、いけませんねぇ~。せっかく邪魔者を排除できたというのに、簡単に直されては困りますねぇ~」
ダレンさんの元に行った俺が、衝撃で吹き飛ばされる。
飛んできた方向を見ると、トッティーンが奥から歩いてきていた。
しかも、今回はトッティーン一人ではない。
葉に包まれたような格好の奴らが、ぞろぞろと出てきて俺達を囲む。
「他の者達を犠牲にはしたくないでしょう? さぁ、大人しく私と一緒に来てください巫女さま。あなたには大義があるのですから」
「行くわけないの!」
「そうだよ。お断りだよ」
「ダーリンに攻撃したことを公開させてやるわ」
(みんな落ち着いて、イリナとノエルは俺の後ろに、エステルは擬似枝に入って!)
俺は身構える三人を呼びかける。
ここは森の中だし、毒のせいでみんな眠ってしまっている。
それなら俺の力を隠す必要もない。
俺は全力で自分の身体を生産して、村人やダレンさんを包み込む。
「そうはさせませんよ」
「うわっ」
俺が村人達を包み込む為に広げた体をトッティーンが触った。
すると、その部分が急に重くなる。
「やはり、森に属するスライムは土によく馴染みますね。スライム風情は肥料がお似合いですよ」
触られた部分を確認すると、土が混じったようになってしまっている。
っと、言うよりこの感じは、初めて土を食べようとした時の感覚だ。
つまり、俺の体のあの部分は、ステータスさん曰く『良い肥料』にされてしまったようだ。
それは、俺にとって毒に近いのか、混ざった所以外も上手く動かせなくなってしまっている。
「ティトから離れてよ!」
ノエルがトッティーンに一気に近づくとパンチを放った。
その攻撃は躱されたが、その隙に肥料化した部分をノエルが蹴り飛ばす。
(ありがとう。助かったよノエル)
俺は広げて包んだダレンさんや村人を引き寄せると、イリナとノエルも包んで一気に人形になる。
遠慮なく巨大化したので、森の木々から頭が出るほどだ。
(皆も包んだし逃げるよ!)
「——ッ。逃がしませんよ!」
トッティーンが俺を捕まえようと動き出したがもう遅い。
これだけ体がデカいと早くは動けないが、一歩が大きいのだ。
地響きを上げながら一気に距離を取る。
その間に、ダレンさんや村人の鑑定吸収での解毒を試みる。
ただ、鑑定不能の物も入っていたので、早く医者に見せる必要はある。
そう思って、更に離れようとすると、体の力が抜けていく。
(お腹が減ってる? ⋯⋯ってことはヤバイ! イリナから送られる魔力より消費のほうが多いんだ!)
調子に乗って体を大きくしすぎた。
当たり前だが、こんな無茶なスキルの使い方など初めてだったので、加減をミスってしまった。
体がみるみる縮んでいき、元のサイズより小さくなってしまった。
イリナからの魔力の吸収にまで影響が出てしまっているようだ。
(ごめんイリナ。だいぶ距離は稼げたけど、俺はしばらく何もできそうにないよ)
「大丈夫なの!」
「大変! ダーリンが縮んじゃったわ」
どんどん小さくなりイリナの手のひらサイズまで縮んで止まった。
生産しようにも上手く出来ないのでしばらくはこのままだ。
移動中に吸収できる毒は全てしたが、ダレンさん達は目覚めていない。
置き去りにするわけにも行かないので、もはやここで迎え撃つしかなくなってしまった。
「ファルステンを使うの!」
(その手があったな)
すぐにイリナからイメージが流れ込んでくる。
堅牢な檻の様なイメージだ。
俺は魔力探知もまだ上手く使えなくなっている。
使う方向を絞って使わないと距離がだせないのだ。
魔力探知を使う方向とタイミングをノエルにお願いして合図してもらうことにする。
緊張しながら、暗闇の中でその時を待った。
「おやおや、鬼ごっこは終わりですか?」
「ティト、真っ直ぐ正面だよ」
トッティーンはこちらが手詰まりになったとでも思ったのだろう。
油断して正面から堂々と現れた。
正直、奇襲されていたらどうしようも無かった。
油断なのかプライドが邪魔したのかは、分からないが助かった。
「ティト、今!」
(魔力探知! よし、とらえた!)
「いくの! ファルステン!」
「なに!」
トッティーン達の周りを覆うように木々が急速に育つ。
その速度は凄まじく、完全にトッティーン達を覆い尽くした。
成長した木々の高さはなかなかのものだ。
これならすぐに出ることはできないだろう。
「やったの!」
「そうだね。あとはダレンさん達をどうにかしないとだけど」
そこまで言った所で、トッティーンを捕えていた木に火が上がる。
あまりの出来事に、俺達はその場で愕然としてしまった。
俺の中でエルフが火を使うなんて発想は無かったし、何より自分たちの命に関わる行為だ。
「逃がすわけにはいかないのですよ」
トッティーンが火傷をしながら焼けた木々を押し退けて出てくる。
その瞳に浮かぶ狂気に全員の体が硬直する。
しかし、そこに聞き覚えのある声が上空より響いた。
「⋯⋯エルフが⋯⋯この森にいったい⋯⋯何の御用ですか?」
トッティーンが忌々しく顔を歪めて見上げると、上空からユミナ様が舞い降りてきた。




