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のんびりスライム道中 ~エルフの少女とのんびり世界を旅します~  作者: 千両
三章

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53 エステルの事情と服

「おいしーのー」

「美味しいねー」


 今日は配達の依頼をこなして、焼き立てのパンを貰っている。

 このパンはなんと指名依頼の報酬だ。


 指名依頼と言ってもマケッタさんからの依頼ではない。

 浮かんだ魔法陣を書き留めたマケッタさん達だが、その魔法陣が予想外に複雑だったので分析に時間がかかっているのだ。

 そのため、あの後から新たなマケッタさんからの依頼は出ていない。


 では、なぜ指名依頼が入っているのかと言うと、店や屋台に食べに行くたびに、イリナが指名依頼の自慢を店主にしていたからだ。

 そのことによって、気軽に依頼を出してもいいと市場や屋台の店主達も思ってくれたようで、簡単な内容の指名依頼がイリナに入ってくるようになった。

 報酬も焼き立てのパンとかその程度のもので、どちらかというとイリナにお小遣いを上げる感覚なのだろう。


 そうして貰った報酬のパンの二個目をイリナが食べ始めると、いきなり少女がイリナを指さして叫んできた。


「やっと見つけたわ! 最近、この市場を歩き回っているあなた。ちょっといいかしら?」


 声に反応して少女を見ると俺は驚いた。

 その少女の格好は、この世界では初めて見るオーバーオールだった。

 しかも、どうやって染めているのか、そのオーバーオールは原色の緑やピンクや黄色のボーダーになっている。

 手にも同じ様なカラフルなブレスレットやシュシュが、首はスカーフが巻かれていて、頭の尖った二つのお団子にも同じ様にデコレーションされている。

 一言で言うならド派手だ。


 イリナは指さした相手が自分とは思わなかったらしく、後ろを向いていた。


「あなたよ。あなたに聞きたいことがあるの!」

「イリナなの?」

「そう依頼したいのよ」

「イリナは絶賛うけつけ中なの! ギルドに依頼をだすの!」


 指名依頼がいっぱいなイリアが自慢気に胸を張る。


「ちっ、違うわ! 依頼したいのはあなたじゃなくてー。⋯⋯あれ? いないの? そばにいるって聞いたのに。妖精さーん?」


 そういって少女は辺りをキョロキョロと見回した。


(この娘の目的はエステルってこと?)

「ふぁー、なぁにー? ダーリン呼んだ?」


 俺の呟きで呼ばれたと勘違いしたエステルが擬似枝から出てくる。

 すると、少女が目を見開きエステルを指さした。


「あー! あなたですよあなた!」

「エステルなの?」

「なっ、なによ⋯⋯」

「そう、私が依頼したいのはエステルさんです。ぜひ私の服を着て欲しいんです!」

「はぁ? 妖精が人の作った服なんて着れるわけないでしょ?」

「着てくれるんですね? 良かったー。ギルドには妖精は登録されてないっていうし、どうなることかと」

「人の話を聞きなさいよ! そもそもあんたは誰なのよ。もてなしも無しに自分の都合だけ話してくる相手の依頼なんて、私は受けないわよ? それがわかったら、いつまでダーリンを突っ立たせておくつもりなのかしら?」


 エステルの一言で少女が自分の名を名乗って、話が出来るように自分の店まで案内してくれた。

 少女、あらためシュナさんは、ナール服飾商会の会頭、兼デザイナーをやっている人物で、案内された店舗は中層でもかなり立派な店だった。

 店頭に飾られている服は、まさにシュナさんの服とおなじ様なカラフルなもので、「なるほどこれがシュナさんのデザインした服なのか」と、シャナさん自身の奇抜な格好も合わせて納得した。 

 シュナさんの見た目から幼く感じてしまっていたが、すれ違う店員のシュナさんに対する態度と見る目は憧れが満ちていて、彼女のデザインの実力の程が窺えた。


 シュナさんの店舗でお茶を飲みながら話を聞くと、市場で偶然エステルを見かけたシュナさんは、服のデザインのアイデアが溢れ出したそうなのだ。

 そして、ある程度服のデザインが出来た所で、本人に着て欲しいと思ったらしく、今度は妖精の事を調べ上げて、妖精でも着られる服を開発しているらしい。

 しかし、完成の目処が立った後に、エステルがどこの誰なのか知らないことに気が付き必死に探していたと言う。


 エステルは冒険者登録していないし、そもそも常に外に出ているわけではない。

 その上、外に出ていたのも外層の市場や屋台にいる時くらいなので、中層の店舗の人間には、まったく情報がなかったのだ。

 そして、唯一のエルフの少女の近くでよく見かけるといった情報を頼りに、イリナを探していたようだ。

 エルフの少女が冒険者登録しているのは知っていたが、イリナの関係者だとは思わなかったらしい。

 その理由が⋯⋯。


「エルフと妖精は仲が悪いと言う噂がありまして⋯⋯」

「イリナ、エステルと仲良しなの!」

「私は別に小娘と仲良しなつもりはないけどねー」

「がーんなの!」


 その噂の話を聞いて、トッティーンがユミナに対して言っていた台詞を思い出す。

 一定のエルフに妖精に対する悪感情があるのは、もしかしたら事実なのかもしれない。

 俺は擬似枝に寄りかかっているエルテルの様子が気になっが、どうでもいいと言った様子で欠伸をしていた。


「ですので、エステル様に私の服を着ていただきたいのです」

「なんで私がそんなことしなきゃならないのかしら」

「そこをなんとか! エステル様が私のデザインした服を着てくだされば、それを見た私の中のでさらにインスピレーションが爆発すると思うのです。もう無限です。永久機関の完成です」


 シュナさんは立ち上がって天井に向かって手を広げ陶酔を始める。

 それを見たエステルがドン引きの表情で見つめていた。


「この街には、こんな奴らばっかりなのかしら⋯⋯」

「次から次へと溢れ出すデザインを描き留めながら私は思ったんです。このデザインの服を捧げなくてどうするのかと!」

「妖精に服なんて不要なのよ」

「知っています、調べましたから。そして、エステル様がいま苦しんでいることもわかっています」

「——ッ! 何を言い出すのかしら団子頭」


 エステルが触れてほしくない話題とばかりに話を遮ろうとする。


(えっ? エステルが苦しんでる?)

「知らないわね。なんの事かしら?」

「私の服はエステル様の抱える問題のお役に立てると思うのです! なぜなら妖精は⋯⋯」

「うるさいわね! もういいから黙りなさいよ!」


 そういうとエステルが擬似枝に逃げるように入ってしまう。

 沈黙が流れる中、俺はイリナに続きを話すように言ってもらう。


「つづきを話すの! 詳しくなの!」

「えっ? はっ、はい」


 イリナに促されたシュナさんが話し始めた。

 まず、妖精は基本的に食事をしない。

 初期の俺がそうだったが、妖精も森に満ちた魔力を吸収して生きているのだ。

 そして、妖精は俺よりもっと純粋で綺麗な魔力じゃないと駄目なんだという。

 しかも、魔力の吸収は自分の意思とは関係なくしてしまうため、街にある様々な魔力が混じった大気は、妖精にとって好ましいものではないらしい。

 俺の出した野菜で森由来の魔力を吸収できても、それとは別で街の魔力も吸収してしまうのだ。


(それをシュナさんなら解決策出来るって事なんだな?)

「シュナ話すの!」

「あっ、はい。私はエステルさんにデザインした服を着てもらうべく、商会の総力を結集して素材を集め、妖精の着られる布の開発を錬金術師に頼んだのです。その時に、妖精にとって人里の魔力を良くない事も調べて知っていたので、空気中の魔力の吸収を押さえる効果まで付くようしたんです。しっかり錬金術師には圧をかけて注文したので間違いありません!」

(結構むちゃくちゃな人だな)

「すぐ作るの! ティトが言えばエステルは着るの!」


 イリナの言葉でシュナさんの顔が喜色に染まるが、その後に少し言いにくそうに続ける。


「ありがとうございます。ただ、布のレシピは完成しているのですが、開発段階で素材を使いすぎてしまって、集め直すまでは少し待ってもらわないといけません」

「わかったの! 手伝うの!」

「小娘は余計なことするんじゃないわよ」

「手伝うの!」

「そうだね。ボクもエステルの為に手伝いたいな」

(よし。皆で次は素材採取だ)


 エステルが飢えているのなら放って置くなんて出来ない。

 大事な仲間のためにもさっさと素材を集めようじゃないか。

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