52 解析という名の芸術鑑賞
あれから数日、別の簡単な依頼をこなしながら過ごしていると、ギルドの受付でイリナに対しての指名依頼が入っていると言われた。
マケッタさんからの依頼だ。
事前に護衛であるダレンさんには伝えていたが、何も知らない受付のお姉さんが目を丸くして驚いている。
「新人なのに指名依頼が入るなんて、ただ事じゃないですね。しかも依頼内容の閲覧に上位権限が必要なんて」
「な~に、変なことでは無いですよ。魔道具関連は権利がうるさいんでね」
「ああ、確かに依頼主はマケッタ魔導商会ですね。何度もウチに依頼を出してますし、トラブルもない信用できる方でしたね」
不自然な指名依頼に受付のお姉さんが眉を顰めたが、ダレンさんが気を利かせて落ち着かせてくれた。
一度、狙われた事はギルド内でも話題にはなっているようなので、心配されてしまったのだろう。
上手く立ち回ってくれたダレンさんを見て、こういうところに経験の足りなさが出るんだなー、と俺はひそかに反省した。
依頼の場所は前と同じマケッタさんの店だ。
迷うこと無く指定された時間に店に向かい、路地裏から裏口に回りこむ。
少し早めに来たはずなのに、ハオトは外ですでに待っていて、こちらに気が付くと手を振ってきた。
「来た来た! おーい、何してるんだよ。走ってよ」
「ハオト! 我々はお願いしている立場なんですよ!」
待ち切れないハオトが俺達を急かすが、ドアを開けて出てきたマケッタさんがハオトを注意する。
その注意しているマケッタさんも、明らかに楽しみで堪らない感情が伝わってきて、なんだか微笑ましい。
(本当に魔道具が好きなんだろうなー)
俺達はそのまま招かれると四階まで上がる。
四階の部屋は中央に台座があり、スポットライトで照らされている。
そして、周りを金属製の箱が囲むように置かれているのが見える。
恐らく置かれているのも魔道具なんだろうが、魔法のある世界なのに、なんだかSFっぽい印象を受ける。
(そういえば、前世でも『高度な科学技術は、魔法と区別できない』なんて言葉があった気がする)
「前世なの?」
(あっ、いや、なんでもないよ。それよりどうする? 腕輪を付けたままでも良いとわ言われてるけど⋯⋯)
俺はノエルを見る。
腕輪を外して渡したほうが解析は容易な気がするが、外してしまえばノエルの認識阻害が外れてしまう。
「ティトがボクの色を綺麗だって言ってくれたから、ボクは大丈夫だよ。それよしティトの声が聞こえなくなっちゃうのが淋しいかな」
「いまだけなの! ちょっとだけ貸すの!」
イリナがノエルに俺を差し出す。
ノエルは一瞬目の丸くするが笑顔で受け取り、俺を抱きしめた。
「いまだけなの!」
(大事なことなのね)
俺を抱きしめたノエルが腕輪を外す。
すると、一瞬だけハオトとマケッタさんが怯んだように見えたが、すぐに意識は魔道具に持っていかれて、宝物でも称えるように台座まで持っていってセットする。
「これは魔道具の中にある魔法式をチェックする魔道具です。いまからこの腕輪に刻まれた魔法式を見ていきたいと思います」
マケッタさんが魔道具を操作すると、次々に魔法陣が浮かび上がる。
それはまるで時計のムーブメントの様に魔法陣同士が複雑に絡み合い規則的に動いていた。
それだけで芸術品のような光景に俺もイリナ達も見惚れるが、それ以上に魅入られていたのはハオトとマケッタさんだ。
マケッタさんに至っては天使でも降臨したかのように手を組み跪いている。
「これは連立の⋯⋯いや略式化された波状紋術がこんな風に⋯⋯」
ハオトは目を見開いたまま、分析するように何かをつぶやき続けている。
キラキラした輝きが次第に収まり、魔法陣が消えるが、消えた後も二人はしばらく動かなかった。
「解析の魔道具が長時間使えなくてよかったです。あのままでは魅入られて作業に入れる気がしませんでした」
やっと正気に戻った二人で一度、前回の部屋に移動してお茶を飲む。
ノエルはもう腕輪をハメているので、今の俺はイリナの膝の上だ。
「もういいのなの?」
「後日、もう一度だけお願いしますが、今は大丈夫です。あの光景は目に焼き付いていますから」
「今日は終わりで良いのかな?」
「はい。今日は⋯⋯正直、もう仕事どころではありませんね。私も部屋に戻って分析に入りたいと思います。今日は本当に依頼を受けていただき⋯⋯ありがとうございました」
感極まったと言った感じでお礼を言われる。
帰り際でもマケッタさんはフワフワした感じになっていた。
腕輪がアーティファクトかもしれないと最初に言ってはいたが、二人の反応を見るとあながち間違いでは無さそうだ。
解析が一段落したら、もう一度依頼を出してくれると言っていたので、それまではゆっくり待つことにした。




