5 甘くない甘い進化
契約書と言うものはよく読んだ方が良い。
現代でも迂闊に契約してしまった事で、裁判にまでなるケースがあるのだ。
⋯⋯なぜそんな事を言っているかというと、俺は進化後のステータス画面を見て後悔に打ちひしがれているからだ。
(ああ、進化の言葉に浮かれていた自分を殴ってやりたい!)
進化完了
森スライム【幼生】 → 森スライム【甘露】
種族: 森スライム【甘露】
レベル 10
体内魔力量 400
スキル
生産 G
new スライム蜜生成 G
吸収 G
消化 I
貯蔵 F
粘力 G
魔力探知 F
スキルポイント 0
ユニークスキル
現状把握 A
進化によって全てのステータスが一段階上がった。
ここまでは良いのだ。
問題は種族:森スライムの【甘露】の部分だ。
明らかに甘くて美味しいものに付けるであろその言葉に、嫌な予感を覚えた俺は、種族の詳細を恐る恐る見た。
⋯⋯すると。
森スライム:【甘露】
アリの密によって進化した食用スライム。
極上の味と栄養価により、すべての生物に好まれる。
大抵は食べ尽くされてしまい、発見例は少ない。
要するに全ての生物にとってのおやつ。
⋯⋯進化した先はおやつだった。
(おアリ様ーー!信じてたのにーー!!!)
スキルの中にやたらとあった『あなたは死ぬ』のフラグは進化先にまで用意されていたようだ。
衝撃の事実に打ちのめされるが、ステータスの説明通りならば、何もしなければ食べられてしまう。
(絶叫している場合じゃない。この先の身の振り方は考えなければ⋯⋯食べられてしまう!)
今までは美味しくなかったからか、アリ以外には襲われた事は無かった。
しかし、これからは違う。
俺は、すぐに近くの茂みの中に隠れて、今後のことを考える。
まず第一関門は、今の自分が周囲に良い匂いを振りまいているかどうかだ。
魔力感知と現状把握のスキルで匂いを感じる事は出来るが、自分の匂いと言うのは自分ではわからないものだ。
(こんな事を気にする未来が来るなんて、誰が予想できるんだよ!)
匂いを放っていた時点で隠れる事は意味をなさない。
緊張しながらこちらに向かってくる存在がいないか魔力探知で注意を払って待つ。
しかし、幸いそういった存在の動きは感じられなかった。
不安が消えた訳では無いが、一息つくことは出来たので新たに覚えたスキルも確認しておく。
スライム蜜生成:G
甘露に進化したことにより使えるようになったスキル。
華やかな甘い匂いのする、極上の密を生産できる。
栄養価が高く、後を引く美味しさだが意外と低カロリー。
予想通りスライム蜜生産は蜜を作れる能力だった。
意外と低カロリーだった。
(このスキルは囮に使えると信じよう。まだ不安は残るけど、ずっとこうしてる訳にもいかないし、襲われない為にはどうすれば⋯⋯そうだ!)
ある方法を思いついて、魔力探知の範囲を少しでも広げる為に、前方へ出来うる限り細く伸ばしてから一回転させて目的の場所を探す。
引き伸ばしたことで大きめの魔力以外を感知できなくなり、魔力が点で浮かび上がる。
イメージとしてはレーダーの画面だ。
レベルアップのおかげで、かなりの範囲を見られる様になったが疲労感が凄かった。
警戒しながら移動と魔力探知を繰り返して、なんとか目的の場所であろう魔力の塊を見つける事が出来た。
(移動力も上がってるけど、この速さじゃ見つかったら逃げ切るのは無理だな)
ペースは全力で動いても人間の歩く速度とたいして変わらないくらいだ。
周囲を警戒しながら特に慎重に移動していく。
目的の場所に着いてみると、そこは狙い通りキノコの群生地だった。
思いついた方法は至ってシンプル。
他の生物が食べられない、もしくは食べたくなくなるスライムになる事。
蜜を食べ続けて【甘露】になったのなら、毒キノコを食べ続ければ【毒キノコ】に進化できるかもしれない。
毒キノコスライムへと進化が出来れば、晴れておやつは卒業だ。
もし進化出来なかったとしても、ヤドカリのように毒キノコを背負うだけで牽制は出来るはずだ。
(この体に毒の耐性があるかわからないから、いきなり食べるのは危険だろうけど、消化しないで取り込んで置くくらいなら出来るよな? まさかここに来て消化力が低いことが役に立つとは思わなかったよ)
纏う魔力の色を見て何となく毒か、そうでないかは見分ける事は出来た。
周囲を警戒しながら、普通そうなキノコの魔力を吸収して、減った体内魔力量を回復してから毒キノコの選別をしていく。
(魔力探知で性質を見抜くのって、感覚としてはただの勘だよな。⋯⋯うん、自信もって行こう!)
ここに来るまでスキルを酷使したからか、不思議と判断には自信が持てている。
ちなみに、キノコの中にやたらデカい魔力の個体がいたが、恐らくキノコの魔物だろう。
植物系だからなのか、甘露な俺にも今のところ反応はないが⋯⋯怖い。
近寄らないでおこう。
(キノコも捕食される側だよね? いざとなったら、巻き込んでしまおう)
毒キノコだと思うものを、吸収や消化が発動しないように注意しながら恐る恐る触ってみると、ゾワゾワする感覚があった。
ダメージでは無いが、吸収するのは良くないという予感のようなものを感じる。
(よし。触るだけなら大丈夫そうだ。しかし、意外と毒キノコも齧られた形跡があるんだよなー)
毒キノコでも食べてしまう生物はいる。
毒であることは一つの要素だが、他の生物が嫌がる事が一番重要だ。
火炎茸の様に、触れるだけで肌が爛れる様なキノコはそもそも吸収出来ないが、どうせ被るのならばなるべく齧られていない人気のない毒キノコの方が良いだろう。
(さっきのゾクゾクした感覚から、キノコの毒はスライムに効くみたいだけど、進化の可能性もまだ捨てたくないぞ)
とりあえず、安全が確保出来てから毒キノコの吸収は試した方が良いので、候補を増やす意味でも次の群生地に移動する事に決めた。
移動する前に、毒キノコの中でも比較的齧られてないキノコを選んで取り込む。
消化しないように慎重に包み込むと、キノコの傘を被ったスライムの姿が完成だ。
(歩きづらいからキノコの柄の部分はいらないっと。よし、もっと良い悪いキノコを探すぞ!)
自分でも変なことを言っているなーと思いながら、次の場所を探すために俺は周囲へ魔力探知を広げた。
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