45 水路掃除一日目
「場所を指定した後は道具選びです。ここにある道具なら何を持っていっても構いません」
(イリナどれにする?)
「これがいいの!」
イリナが選んだのはスコップではなく園芸用のシャベルだ。
堂々と掲げる姿はお芋掘りに行く幼稚園児のようだ。
「ボクもイリナちゃんと同じ奴にしよう」
道具を選んだ俺達は、さんざん食べ歩いた市場に向かう。
市場から少し裏手にまわったとこらが担当の区画だ。
「あら、イリナちゃんにノエルちゃん、今日も串を買いに来てくれたの?」
「今日はお掃除なの!」
「おお! 食い倒れの嬢ちゃんが掃除してくれるのか。ありがてえ」
市場で食べ歩きしていたのは一日だけだったのだが、イリナ達の大食いが相当インパクトがあったのか、市場の人に『食い倒れの嬢ちゃん』とあだ名まで付けられていたようだ。
「こっちこっち。掃除をするのはここの水路だよ」
店主に呼ばれて行ってみると、確かに水路があったのだが⋯⋯。
(細いなー。イリナの持って来たシャベルで丁度くらいだ。もしかして、これを見抜いてスコップにしなかったの?)
「⋯⋯そうなの?」
「そうかなー?」
(ああ、ただの偶然かー)
二人が同時に首を傾げているので、意図したものではなかったようだ。
しかし、もし何も考えずにスコップを選んでいたら、取りに戻らなきゃならなかった。
(もしかして、それを意識させる用途もあるのかな?)
イリナの選んだ区画は市場の水路なだけ合って、広いがゴミも少なくてあまり汚れてはいなかった。
(報酬が同じなのに範囲が違かったのは、その分大変だからか?)
もしかしたら、何も考えずに短い区間を選んでいたら、思った以上の重労働を強いられていたかもしれない。
俺がそんなことを考えている間にイリナが水路を掃除し始めた。
細い水路はしゃがみ込んで一生懸命シャベルを振るっている。
元があまり汚れていないとは言えなかなかのしゃがんだ体勢で続けるのは重労働だ。
「ほら、嬢ちゃん。差し入れだ!」
時間が正午を回った頃、店主のおっちゃんが串を持って来てくれた。
イリナは立ち上がると、そのまま串に齧りつく。
「おいしいの!」
「おっとと、そんな勢いよく食べてもらえると嬉しいねぇ。だが、あぶねぇから自分で持って食べるんだぞ」
イリナが串を手に持って食べている間にも他の店の人達も次々に差し入れを持ってくる。
「ここまで読んでいたって事? 小娘、あなどりがたいわね」
(いや、偶然でしょ⋯⋯偶然だよな?)
エステルがイリナがここを選んだ理由を悟ったように呟くが、偶然であって欲しい。
その後も、適度に休憩を挟みながら、作業を続けた。
丁度、おやつくらいの時間に果物屋の近くに行き、果物を差し入れされていたが、偶然だったら偶然だ。
「今日はここまでにします。一部の人は、今日で情報を事前に集めてから行動することの重要性を理解できたと思います。今後の活動にいかしてください」
夕暮れが近づき、噴水に戻って道具を返す冒険者達を見回しながら、職員のお姉さんが言った。
戻ってきた冒険者の中には、明らかに泥まみれの子もいて、疲れた顔で頷いていた。
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