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のんびりスライム道中 ~エルフの少女とのんびり世界を旅します~  作者: 千両
二章

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33 綺麗なもの

「ライバルなの!」


 素早い動きでイリナがノエルから離れると拳を構えてファイティングポーズをとる。

 構えのままシュッ、シュッ、と良い音のパンチを繰り出し牽制する姿を見て、俺は包むのをやめてイリナから離れた。


「あっ」


 糸の切れた人形のようにイリナがペタリと地面に座り込む。


「イリナちゃん!?」

(あちゃー、やっぱり疲れてたか。あくまでイリナの動きのサポートだったからな。なまじ動けるから加減ができなかったのか)

「やるのー。負けないのー」


 地面に転がってジタバタするイリナを持ち上げて体の上に乗せる。


「今回ばっかりは小娘に賛成ね。ノエル、どういうつもりでダーリンに求婚したのかしら?」

「ええとねー」


 ノエルが照れるように身をよじる。


「私が説明しましょう。我々、牙狼族では男が最高の肉を女に送る事が最上級の求婚になるのです。ノエルも含めて村の女の子はそれに憧れている者も多い」

「ボクは貰うより上げる方が多かったから嬉しくて。すごく美味しかったし。それに、すごく美味しかったし」


 ノエルにとって大事なことなのか二回繰り返していた。

 図らずしもノエルの胃袋を掴んでしまったようだ。


「我が種族としては自然スライム様に尽くすことは喜ばしいのだが⋯⋯」

「ダメなのー」


 イリナがまたしても俺の上で足をバタバタさせるが、さっきより大人しい。

 見てみると目がトロンとしていて今にも眠ってしまいそうだ。

 体力も魔力も今日はだいぶ使ったので、お腹が膨れた事で眠気が限界に来たのだろう。


「今日はここまでにしておきましょうか。見張りは私とセイガ殿で努めます」

「そうねー」

「では、まずは私が見張りをしておきます」


 ヴァルタさんの提案を聞いてエステルが擬似枝に入り、セイガさんが見張りを申し出た。

 促されるまま、さっき作った木の中に入ったが、魔力探知を広げておけば中からでも見張りは出来る。

 イリナを寝かせてしばらくしたら、俺も見張りを申し出よう。


 中に入ってきたヴァルタさんにハンモックを譲り、俺はいつもより大きく、よりベットっぽい形を意識して変形た。


(ノエルも入りなよ)

「⋯⋯うん」


 少し雰囲気が出てしまった気もしないではないが、スライムは無性なので気にしない。

 気にしないったら気にしない。



————

 明け方前にいつものようにノエルが起きてきた。

 起きたノエルに頼んで見張りをしていたヴァルタさんに交代を伝えてもらう。

 セイガさんも交代するつもりで起きたようだが、俺の能力とノエルが起きている事をヴァルタさんに伝えてもらって、セイガさんにも寝てもらうことにした。

 魔力探知で周囲の安全を確認したあと、ノエルは体を動かすと言って水を汲みに出ていった。

 すると、ノエルが離れたのを確認してセイガさんが俺に話しかけてくる。


「昨夜の娘の発言は多めにみてやってください。あの子は村では少し浮いてしまっているので、甘えられるのが嬉しいのでしょう」

「浮いてしまっているとは? あっ、いえ、申し訳ありません。盗み聞きするつもりは無かったのですが」


 交代したばかりでまだ起きていたヴァルタさんが、俺の意思を汲み取って代わりに聞いてくれた。


「たいした事ではないのです。狼の獣人で黒髪と言うのがその⋯⋯ある魔物を思わせてしまって」

「⋯⋯バーサーカーウルフですか」


 バーサーカーウルフ。

 話によるとその魔物は動くものには何でも噛みつき、一度暴れ出したら自分か相手が死なない限り決して闘争をやめないと言う、まさにバーサーカーな魔物らしい。

 最恐と呼ばれるその魔物は漆黒の毛並みなのだそうだ。

 それゆえに、獣人族の中でも狼族で黒い毛並みは、嫌厭の対象になってしまう。

 その恐怖は理屈ではなく本能のようなもので、どんなに心を許していても、体にぎこちなさが出てしまうと言う。


「村では誰もノエルを差別したりはしません。ですが、獣人がゆえに少しのぎこちなさもノエルにはわかってしまうのです」


 セイガさんがどこかやりきれない顔をする。


(イリナを少しお願いします)


 俺はセイガさんにイリナを預けてノエルの元に向かう。

 魔力探知で探すとノエルは少し離れた場所に座っていた。

 泉の縁にある木の中で一番葉の多い木の下に座り込んで水面に映る月を見ていた。

 月の光が遮られた周りに比べると薄暗い場所で。


「あれ? ティトも来たの? イリナちゃんは?」

(セイガさんに任せてきたよ)

「それイリナちゃん後で怒らない? でも、凄いねティトは、こんな暗闇の中のボクを見つけられるんだ」

(俺は魔力探知で世界を見てるから、ぶっちゃけ暗いのとか関係ないのだ!)


 おどけて俺が言うとノエルが微笑んで呟く。


「そっかー。ティトのその目にはボクの黒はどんな風に写ってるんだろうなー」


 そう言ってノエルが暗がりから出て、月を見上げると手で髪をかき上げた。

 いつもの白い帽子は被っていない。


「月の光の中でも、こんなにも黒いのにね」

(ええー。俺は綺麗だって思うよ? 俺にとってはめちゃくちゃ親近感が湧くし、月の光を受けてすっごいキラキラしてるじゃん?)


 俺の言葉を聞いたノエルはキョトンとした顔をした後、嬉しそうに笑う。

 月と水面の光を同時に背負ったノエルは、本当に綺麗だった。


「そっかー、そっかー。うふふっ、戻ろうか、ティト」


 ノエルは俺を抱き上げると弾むようでいて、いつもよりゆっくりな足取りで歩き出した。

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