32 告白?
「イリナ様はそのままで行かれるのですか?」
土砂をどかすまでの滞在用に広げていたテントをまとめて、出発の準備を終えたセイガさんが訪ねてきた。
(どうする? 慣れる必要もあるしこのままで行こうか?)
「このまま行くの!」
イリナが気合を入れて返事をした。
「そうですか。では参りましょう」
先頭はセイガさん、それにイリナ、ノエル、ヴァルタさんの順で並んで進む。
峡谷の道を抜けると、山道ではあるが幅のある緩やかな下り道が続いている。
「このペースで行くと、街に着くのはいつになるのかしらね?」
「先は長いの ! このペースで行くの!」
「いやねー。私は純粋な疑問を口にしただけなのに、イリナったら必死になっちゃってー」
「違うの! 今なら負けないの!」
「申し訳ありません。これ以上は私がついて行けませんのでご容赦ください」
エステルに挑発されて、走り出しそうなイリナをヴァルタさんがやんわりと止めてくれた。
そして、セイガさんが振り返って大体の日数を話し始めた。
「このままですと、森を抜けるのに3日といったところでしょうか。そこから平地をさらに1日半行けば街に着くと思います。森を抜ける前に村もありますから、そこで補給としっかりとした休息を取りましょう」
「結構遠いのねー」
「街に戻ることを決めてしまいましたが、村で補給したほうが良かったでしょうか?」
「いえ、村まではかなり険しい登路でしたから、あそこで街に引き返す選択は間違いでは無かったと思います」
「楽しかったの」
(何度もはやりたくないけどね)
イリナは楽しそうだが、俺はかなり神経がすり減った。
山はゆっくり歩きたいね。
その後は、イリナに軽く走ったり跳ねたりしてもらいながら進んだ。
何回か休憩を挟んだ後、日が暮れるくらいの時間に水場が近くにあるポイントに来たので、そこで野営することになる。
「では、私とノエルで何か狩ってきたいと思います」
「ボクも頑張るから期待しててねー」
セイガさんには、あえてテントは張らないで狩りをお願いした。
⋯⋯っと言うのも、街に行ってからでは試せないイリナの魔法を練習するためだ。
(イリナ、準備はいい?)
「大丈夫。むんんー⋯⋯ファルステン!なの」
イリナがイメージを定めて呪文を唱えると、眼の前に小屋くらいの大きさの木が生える。
上手くイメージ出来たみたいで、木の中は空洞になっていた。
(流石に内装までは出来なかったかー)
欲張って扉や家具までイメージしてもらったが、椅子の代わりに出っ張りが出来てる程度で、家具は再現出来なかった。
その後、中に入って更に個別で家具を作っていく。
「見事なものですね」
会心の出来に、ヴァルタさんが感嘆の声をあげる。
(よーし、次は俺の番だね。スライム蔓生成!)
俺は木の内側に蔓を飛ばした。
ファルステンとの相性が良いのはわかっている。
スキルで出した蔓は狙い通りに見事に壁と融合した。
さらに編み込むように蔓を出していけば、あっという間にハンモックの完成だ。
(イリナ、乗ってみて)
「ハンモックいらないの! ティトがベットなの!」
(いや、ファリステンで作った木に、俺のスキルが融合して、どれくらい強度が維持されるのか知りたかったんだよ。おっ、なかなか丈夫だな)
蔓は融合してしまえば、ファルステンからの魔力でスキルは維持される。
出来栄えもなかなかのもので、これならファルステンを柱にして、蔓を間に繋げれば、即席の橋すら作れそうだ。
満足して木から出ると、鹿を狩ったノエル達が丁度帰ってきたところだった。
「見て。大物だよー」
「これで明日のために精を付けましょう」
「お鍋の出番なの!」
(俺も具材を出すよ)
ヴァルタさんは料理の腕も凄いようで、手際よく火を起すと具材を切って、あっという間に鍋の準備が整った。
解体された鹿は、量が多いので鍋に入り切らない分は焚き火で焼肉にする。
「いやー、美味い! これがティト様の出した食材ですか」
「本当にそうですね。おそらく味だけではなく栄養もなかなかのものなのでしょう」
俺の食材で作った鍋を始めて食べた二人が、実に満足そうに感想を口にする。
だが、獣人はやっぱり肉の方が好きなのか、ノエルとセイガさんは焼いた鹿の足も美味しそうに食べている。
そこで俺は、吸収したスキルの中にスパイス類があったことを思い出して、比率を調整して肉に振りかけてみた。
触手を伸ばして肉を焼くと、それをノエルに差し出す。
(ノエル。俺の焼いたこのお肉を食べてみて)
「このお肉? ボクにくれるの? やった! いただきまーす。———ッ」
喜ぶかと思って出した肉を食べたノエルは、なぜか口を抑えて固まったしまった。
よくみれば尻尾が物凄く逆だっていて、目にも涙が溜まっている。
(ごっ、ごめん。もしかして辛かったり、刺激が強すぎたりした?)
少し震えながら俯いてしまったノエルに、調合を失敗してしまったと思って謝るが、顔を上げたノエルは真面目な顔でセイガさんの方を向いた。
「お父さん。ボク、ティトと結婚する」
「(ええぇ!)」
その場にいた全員の声が重なった瞬間だった。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思ったら評価の方をお願いします




