27 腕輪とリンゴン
俺達は店で買物を済ませて外に出た。
イリナはよほど嬉しいのか、大事そうに買った中華鍋を抱えている。
かなり大きい鍋なので、イリナが持つのは大変そうだが、今は好きなだけ持たせて後で持ってあげよう。
そう思って意識を切り替えた俺は、今後の方針について皆に尋ねた。
(エルフに付いて、もう一度ユミナ様に聞いてみのはどうだ?)
「どうかしら、そんなに知らないと思うわよ? 妖精は長生きだけど、森のこと以外では興味の無いものには無関心だもの。私だってダーリン以外どうでもいいと思ってるわ」
すると、イリナが手を上げて、はいはいっと意見がありそうにジャンプする。
「街ー。街にいきたいのー」
「そうだねー。いろいろ知りたいなら街に行くのが一番じゃないかな? ボクのお父さんが帰って来てきたら、街まで案内してもらえばいいよ」
(やっと帰ってきたのにまた街に一緒に来てもらうのは気が引けるなー)
「ダーリンの為なら馬車馬にだってなるわよー」
そんなことを言ってはみたが、渋る理由は他にある。
街で情報を集めるのが単純に不安なのだ。
俺はこの世界のことを知らないし、エステエルの言葉を信じるなら、エステルも森以外の知識がそこまであるとは思えない。
イリナに至っては見た目、行動、言動の全てが心配だ。
(エルフだ捕まえて奴隷にしろーなんて世界だったらどうしよう。イリナが騙されて拐われちゃう!)
「ネガティブなダーリンも好きだけど考えすぎよー。ここではむしろ敬われてるじゃないの」
(エステルだって狙われる可能性あるじゃないか、妖精なんだから)
「それを言うならダーリンもでしょ」
(退治されちゃうの! 俺!)
街での常識を教えてくれる人間は絶対必要なのだ。
導いてくれる大人の存在が。
無策で行ったお上りさんは都会ではカモにされるものなのだ。
思考がどんどんネガティブになっていってると、そこにユミナが来た。
「あっ、ユミナ様だ!」
「⋯⋯皆様、ごきげんよう。⋯⋯ここにいたのですね。⋯⋯ちょうど良いかもしれません⋯⋯少しノエルと話していいかしら?」
「ボクと? はーい、なんですかー?」
ノエルがユミナに走り寄ると、少し離れたところに移動する。
そして、少し話した後で二人で店に入っていった。
「ユミナ様もこの店に用があったみたいだな」
ユミナが来てくれたおかげで少し冷静になった。
結局はノエルのお父さんが帰ってこないことには始まらない話なのだ。
街についても、知識のないもの同士で話し合っていてもしょうがないと言う結論になった。
「⋯⋯私の用事は終わりました⋯⋯おまたせして申し訳ありません」
(気にしないでいいよ。急ぐ理由もないし)
「ねえねえ、これ見て! 凄い綺麗でしょ」
「腕輪なの? きれいなの!」
ノエルの右の二の腕のところに赤い宝石が付いた腕輪が嵌められていた。
「⋯⋯その腕輪は魔道具です⋯⋯ノエルの役に立つかもと思いまして⋯⋯オンジスに預けていた物を返してもらったのです」
(へぇー。魔道具かー。どんな効果があるんだろう? ノエルは使えるのかな?)
「わかんない。ユミナ様はすぐに分かるって言ってたよ」
(えっ?)
「ん?」
ノエルと二人で見つめ合う。
いまノータイムで返事してたよな。
(ノエルもしかして俺の声聞こえてる?)
「? あっ、本当だ。聞こえる聞こえる。ユミナ様が役に立つって言ってたのはこの事だったんだ。わーティトと話せるの嬉しいなー」
ノエルが俺を持ち上げてクルクル回った。
「⋯⋯精霊石の腕輪です。効果は他にもありますが⋯⋯装備者を精霊に近づけるので、妖精のように⋯⋯ティトと話が出来るようになるのです」
(すっごい貴重な物の予感がするなー。イリナのナイフもだけど、大金を銀行で下ろしてきた後のようなな緊張感がある。持っているのが少し怖い)
「よくわかんないけど、村の人は取ったりしないよ」
(あっ、うん。ごめん。そこは別に疑ってなかったんだけど、嫌な言い方だったな)
「いいよー。それより、せっかくティトとも話せる様になったんだし、村の案内するねー」
そこで、買った荷物はノエルの家に置いてから案内してもらうことになった。
ついでに、イリナが鍋やテントと一緒に買っていた山歩き用の服にも着替える。
(イリナの家族を探すために街に行こうと思うのですが)
「⋯⋯良いと思います。このまま森を探すことも⋯⋯止めはしませんが⋯⋯本当にこの森にはもうエルフはいませんから」
(それで、少しでも森の外の情報が欲しいんだ)
「⋯⋯申し訳ありません。私も⋯⋯この森からは出たことが無いのです」
(そうなのか⋯⋯)
ユミナとの話が一段落した辺りで、イリナの着替えが終わったようだ。
「かわいいよイリナちゃん」
イリナの格好は頭にピスヘルメットを被っていて、丈夫そうな生地を半袖半ズボンになるようにまくっている。
前世の探検家を思わせる格好だが、イリナがするとコスプレ衣装のようにも見える。
慣れるために背負った大き目のリュックがさらに愛らしさを引き立てていた。
村を回るだけなので、中に入っているのはショルダーバックの中身だけだ。
「どう? なの?」
(凄くかわいいよイリナ)
「むふー、なの!」
「じゃあ、獣娘に案内してもらいましょう」
「小さな村だから案内するところすぐ終わっちゃうったらゴメンね」
ノエルはそう言っていたが、小さい頃によく転んだ段差や、オバケと勘違いしていた枯れ木など、思い出と共にする案内はとても面白くて、あっという間に時間が過ぎていった。
村の人もおおらかで、途中で通った畑で作業している村の人から野菜を大量に貰ったり、小さな子供達に花冠を貰ったりした。
(そう言えば、巨大樹があるのに村の人は別でちゃんと畑を持ってるんだな)
「うん。大樹様の恵みは村でも大切な時だけにしるんだ。頼りすぎるのは良くないからね。山でキノコを取ったり、狩りをするのも楽しいし」
「大切にしている割には、街に売りに行ってお金にしてるのね」
エステルの突っ込みにノエルが考える様に上を向く。
「うーん。そうなんだけど、大樹様の恵みを街の人にも食べて欲しいって言うのが一番かな?」
(あれだけ美味しいと、欲に駆られる人間が出てきそうだけど⋯⋯)
「お父さんが、取引する相手は村と縁の深い、信用ある人だけにしてるって言ってたから大丈夫じゃないかなー?」
(絶対高級品として出回ってるよね)
「あら、今のダーリンなら巨大樹以上に美味しい野菜やキノコが出せるじゃない」
(言われてみれば!⋯⋯出す時は気をつけた方が良いかも)
すると、食べ物の話をしていたからか、イリナが食べ物をねだって来た。
せっかく出し、リンゴンを限界まで美味しくしてみよう。
生産する時に意識的に甘さを変えてみる。
すると、黄金色のリンゴンが出た。
(うわ、エグいくらい魔力消費したんだけど、これ低レベルでやってたら『あなたは死ぬ』案件だ)
「きれいなの! 食べていいの?」
(いいよー)
ガリッ
「うわぁ、リンゴンでは鳴らない音がしたー。ボクも食べてみたい!」
(ちょっとやりすぎたかな。⋯⋯イリナ大丈夫?)
ノエルはそう言うが、食べさせる前に鑑定で確認すれば良かった。
俯いたままのイリナが少し心配になる。
「おいしーーーーーいなのーーーーー!」
「本当? ティト、ボクにもボクにも!」
頬に手を当てながらピョンピョン跳ねるイリナを見てノエルもお願いしてくる。
ノエルと自分の分を出して、俺はエステルと分け合って味わってみる。
ここで鑑定するのは野暮だろう。
(あっっっっまっっ!)
外は結晶化した糖分に覆われているようだった。
例えるなら夜店のリンゴ飴だ。
しかし、甘さが凄い。
舌が溶けるかと思うほどに甘いのに、香りが華やかで上品なのがまた凄い。
後味もスッと消えて、美味しかった余韻だけが残る。
眼の前にもう一つあれば確実に手を伸ばしていただろう。
(これは世には出さないほうがいいかもな⋯⋯)
「ダーリンの凄さを世に知らしめたいけど、この味にはさすがに私もそう思ってしまうわね。妖精すら虜にする味よこれ」
(そういえば、自分で生産したものを自分で食べてるけど、よく考えたらこれって変なのか?)
ふと湧いた疑問をエステルに聞いてみた。
これって、自分の手を食べてるようなものなんじゃないだろうか?
「ダーリンのスキルで出したものは、魔力をスキルで作り変えているからダーリンの体ってわけじゃないわ。そして、生産に使う魔力の量のほうが多いから、食べても結果は魔力が減っただけよ」
(自分を食べてるわけじゃないなら良かったよー)
「その考え方なら、ダーリンの魔力はイリナのものだから、むしろイリナが自分の魔力を食べていることになるわね」
その言葉を聞いて、美味しそうにリンゴンに齧りついているイリナを見る。
「あくまでも、おおもとの魔力の話だけどねー」
(⋯⋯この話は無かった事にしようか)
流石にエステルも、あの美味しそうな顔をわざわざ曇らせる気は無いらしく、二人で静かに美味しそうに食べる二人を見ていた。
読んでいただきありがとうございます。
評価してくださった方も本当に感謝です。
引き続き、面白いと思っていただけたら、気軽に評価の方をお願いします。




