2 拾う神アリ
(今日もお疲れ様です! おアリ様!)
心の中でそう呟いて、俺はアリに体を差し出す。
真っ赤な体に立派な顎。
虹色に光る角を生やした姿は、まさにファンタジーの住人。
体の大きさも猫くらいはあるだろうか。
そんなアリに体を差し出す行為は、別に自虐じゃない。
眼の前に出てきた瞬間に完全降伏だが、自虐じゃない。
この行為こそが俺の生命線なのだ。
(ふー。この密があればまた1日を無事に終えられるな)
体の一部をかじり取るとアリが器用に背中の密を眼の前に置く。
そう、初めて齧られたあの日、お礼とばかりに置いていった、このアリの密が俺の命をこの世界に繋ぎ止めた。
この体でも消化ができて、栄養満点な上にとても美味しい。
齧られた部分だって、密を食べればたちまち元通りだ。
体も少し大きくなり、色も黄緑色に濃くなった。
(いやいや、捨てる神あれば拾う神あり。まさに神アリ!)
去って行くアリの後ろ姿に心の中で手を合わせた後、視線を周囲に巡らす。
深い酸素を生み出す太い木々達。
穏やかな風が葉を揺らせば、不思議とキラキラと輝く。
どこか神聖さを感じるさせるその空間の片隅で、体を水溜まりのように伸ばして寛ぐ。
(あれだけ来たかったと思ってた自然の中に今いるのか)
生前の俺こと守山大樹は、どこにでもいる社畜だった。
深夜まで続く残業の中、休憩中に山や川の画像を見るのが心の支えだった。
休みになったら絶対に行くぞと言いながら、いざ休日になると昼過ぎまで寝てしまい、その後もダラダラと動画サイトを見て一日が終わるの繰り返し。
(実際はただの逃避行だったよな。俺、インドア派の引きこもり気質だったし)
死因は過労死なのだろうか?
激しい胸の痛みを感じたのが最後だった気がする。
(森がホームなら今でもインドア派の引きこもり状態だな)
密を貰うことで生活は安定したが、何もせずにダラダラ過ごしているのが現状だ。
出来ることが他にないとも言うが。
転生したことで生前の目標を達成してしまったとも言う。
(おっと、さっさと密を食べて回復しよう)
かじり取られた体をもとに戻すべく、置いていった蜜を舐める。
すると光に包まれる様な感覚と、それに合わせた様に『ジャジャン!』という音が頭の中でする。
蜜を舐めるようになってから定期的になる感覚だ。
これが起きると、視界が広がるし体も軽くなる。
恐らくレベルアップしているんだろう。
(しかし、スライムのレベルアップの条件が食べる事だとすると、最初の消化力でどうやって世の中のスライム達は生き伸びてるんだ? 他のスライムもおアリ様頼りなのか?)
もしかしたら、腐った死体や動物の糞なんかは食べられるかもしれない。
しかし、元人間としてはそのラインを越えるのには抵抗がある。
まぁ、土は食べようとしたが⋯⋯
(これで確か10回目のレベルアップだったよな。流石に結構強くなったんじゃないか? まぁ、確認する方法が無いんだけど⋯⋯ゲームみたいにステータス見られないかなー)
そう思っていると眼の前がチカチカして文字が浮かび上がる。
(うおぉぉぉぉ! なんか出た! もしかしてステータス画面? やった、暇つぶしが出来るぞー!)
そんな志の低い叫びを、俺は心の中で上げた。
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