16 近くてちゃんと遠い村
「もうダメなの。置いて先にいくの!」
(はいはい。休憩ね)
歩き始めてから五度目の休憩をイリナが申し出てきた。
へたり込むように地面に座ると、ノエルが渡してくれた水筒をゴクゴクと飲んでいた。
ノエルに『村はここからすぐ近くだからすぐ着くよ』と言われて歩き始めてから、すでに6時間は経っていた。
「獣人のすぐ近くは当てにならないわねー」
「もう本当にあと少しだから! 走れば一瞬だから!」
そう言ったエステルは、途中で飛ぶのを止めて俺の頭の擬似枝に寄りかかって寛いでいる。
あとどれくらいと聞いても、あと少しとしか返ってこない。
休憩までの間隔も短くなっている。
先の見えない行進にイリナの限界も近そうだ。
(もしかして、この距離を走って移動してたってこと? 獣人の体力は恐ろしいんだなー)
「えへへー。ボクは村で一番足が早いんだよー」
冗談で言ったのだが、ノエルの言い方だと本当に走って移動しているのかもしれない。
出会ったのは早朝だったのに、ノエルはテントのような装備を持っていないのだ。
(⋯⋯地面にそのまま寝る。ストロングスタイルの可能性も捨てきれて無いけどね)
歩いてる間中、何度もこちらを振り返ってはソワソワと動き回る様は、なんだか散歩で走り回りたいのを我慢する犬を彷彿とさせた。
そして、案の定イリナの限界は来た。
「もーうダメなの! イリナはここで暮らすのー!」
「だらし無いわねー。そんなんで冒険者になるとか笑わせるわー」
「ざんねんなの。イリナの冒険はここまでなの」
「仕方がないわねー。ダーリンに乗ることを許可してあげるわよ」
「やったーなの!」
立ち上がったイリナが擬似枝を掴んで跨った。
だが待って欲しい。
擬似枝は見た目ほど固くはないのだ。
このまま動くと千切れてしまう。
(イリナ、ちょっとだけじっとしててね)
俺はすぐに粘力で窪みを作りイリナが収まる椅子を用意する。
ベルトのように腰を固定すればスライムゴーカートの完成だ。
ギュンギュンと魔力が減り、イリナの魔力でギュンギュン回復する。
(あっ、レベル上がった)
念のためタイヤ部分を大きくしてオフロード使用にする。
タイヤを模した部分を粘力で回転させると、ゆっくりとだが前進した。
(⋯⋯おっそ)
「ああー。なんて愛らしい姿なのかしら。まさに森に舞い降りたダーリンね」
エステルがよくわからない例えをしている。
だが、残念ながら俺はもう舞い降りるつもりはない。
イリナを乗せて移動するのに、この方法では速度が出ないが、飛び跳ねて移動するのは怖い。
そして、たぶんイリナが酔う。
あと舞い降りるつもりはない。
(移動の間に粘力が少しでも上がれば、速度は改善されるはず! 安全第一でゆっくり行こう。さすがに日が落ちる前には着くだろうしね。⋯⋯着くよね?)
「わー。なにこれ凄い! ボクも負けないよー」
俺の不安とは裏腹に、ノエルは俺の周りを回ってはしゃいでいる。
「あんたはさっさと案内しなさい」
「はーい」
結局、村に着いたのは暗くなるギリギリだった。
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