15 日の出前の出会い
スライムには目がない。
見えている様に感じるのは、ユニークスキルの現状把握と魔力探知の複合によるものだ。
したがって、暗さは理解できるが、月の光が無い真っ暗な森でも俺が困ることはなし、夜明け前のまだ薄暗いこの時間帯でも俺は困らない。
そう、俺が困まらないだけだった。
「ティト。トイレ行きたいの」
(ちょっと待ってね。いま火を点けるから)
「ティト。まだなの?」
(ああー、なかなか点かないー!)
俺は必死で木の棒を擦る。
きりもみ式で火を起こそうとするが、前世でもやったことのない方法に苦戦を強いられる。
(ライターが欲しい。せめてマッチだけだもあればー)
「もうムリなの」
(ちょっ、イリナさん? とりあえず外に出よう? ね? ね?)
「くらいの。こわいの。」
(火を点けるからー! すぐ点けるからー!)
テイムの影響で無理やりイリナを追い出すことも出来ない。
パニック状態になりながら棒を擦ってた俺は、密かに近づいてきていた存在に気付く事が出来なかった。
「おのれー! 悪いスライムめー! エルフ様を離せーーー!」
声と共に森の奥から何かが飛び出してきた。
黒い髪と頭から生える大きめの獣耳。獣人の少女だ。
すでに振りかぶっている手には大きめのナタが握られていた。
”ザシュッ”
振るわれたナタは器用にイリナを避けて、俺だけが裂ける。
(痛いーーくない。⋯⋯けど、ごっそり体内魔力が減った気がするー!)
素早くイリナを引っ張り出して、少女は守るよう後ろに隠した。
そして、ガルルと喉を鳴らして威嚇してくる。
(落ち着いて! 俺は悪いスライムじゃないよ!)
もはや、スライムに転生したら定番なんじゃないかと思えの言葉を叫ぶ。
しかし、テイム関係でもない獣人の少女に俺の声は届かない。
弁明して貰おうとイリナに視線を送るが、ナタで斬られたことが相当怖かったのか、放心状態になっていた。
(これヤバいかも。どうしよう⋯⋯)
「エルフ様こんなに怯えて⋯⋯。スライムに食べられそうになって、怖かったんだね。安心して、今やっつけるから!」
(いや、イリナが怯えているのは、君の振ったナタのせいだからね!)
構える獣人の少女に、届かない抗議の声を上げる。
ダメージはイリナの魔力ですぐに回復するが、ナタの威力によっては即死もありえる。
ジリジリと距離を取りながら、獣人の少女を観察する。
まず、身長が高い。
頭の獣耳も大き目だからさらに高く感じる。
そして、大きなナタと、そうと感じさせない大きな手。
そこから繰り出される威力は、イリナがいないいま、十全に発揮されるだろう。
(まっずいなー)
睨み合いが続いている中、エステルが飛び出してくる。。
「ちょっと! ダーリンを攻撃して良いのは私だけよ! 森を愛する獣人が、森に愛される自然スライムを傷つけるとはどういう了見なのかしら! 森に住むものならダーリンに敬意を払い土下座をしなさい!」
「えっ、自然スライム⋯⋯様!? あわわっ、ボクなんてことを!」
自然スライムの言葉を聞いた瞬間に毛を逆立てるように震え、流れるような動作で後ろに飛び、綺麗な土下座の姿勢をとった。
「ごっ、ごめんなさーーーい!」
(いや、そこまでしなくてもいいから)
ナタで斬られたことは大層な事なのだが、眼の前で土下座をされるのは居たたまれない。
そんな中、イリナが少女の頭を撫でた。
「イリナ、トイレに行きたいの」
「えっ? うん、わかったー」
獣人の少女が森の中にイリナを連れて行き、しばらくして帰ってきた。
すでにイリナとは自己紹介が終わっていたらしく、俺やエステルの名前も知っていた。
「ボクはノエルだよ、です! ここの近くのカティ村に住んでるんだす、でよ」
慣れない敬語を使おうとしてか、語尾がめちゃくちゃになる。
(普通に喋って良いよ。俺はそんな敬語を使われるような存在じゃないし)
「ダーリンは敬語を使われる存在なんだけどね⋯⋯まぁ、下手くそだし、普通に喋っていいわよ」
「わかったー」
「⋯⋯軽いわね」
そこで俺は、先程の一見で気になっていた事を尋ねる。
(エルフ様って言ってたけど、エルフの事知ってるの? もしかして、イリナの住んでた場所もわかる?)
「イリナのすんでた場所、わかるのなの?」
「この森は、エルフ様の森だって言われてるけど⋯⋯ボクには住んでる場所まではわからないなー。あっ、ユミナ様ならわかるかも!」
(ユミナ様?)
「ボクの村の村長だよ」
「ちょうど良いわねー。獣娘、あんたの村に案内なさい」
「いいよー。こっちこっちー」
ノエルは自分の村へ案内出来ることが嬉しいらしく、大きな白色い帽子を被り直してノリノリで歩き出した。
後ろ姿を見ると、尻尾を中で振っているのか、スカートも不自然に揺れている。
「図体の割に子供っぽいわねー」
「イリナ。おねぇさんなの!」
(年齢的にはそうなんだろうけど⋯⋯)
「コラ! 一人で行くんじゃないの! 案内役なのよあんたは!」
「ごめーん」
走り出しそうなほどに、うっきうきで進んでいくノエルの後を俺達は追いかけた。
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