14 無事でした
夕日に包まれて濃い酸素と、どこか神聖さを感じるさせるその空間の片隅で、緑がかった体を水溜まりのように伸ばすスライムが一匹と少女が一人。
これが今の俺達だ。
無事に着地できました。
空中に投げ出された時、俺はとにかくクッションなる為にまず生産で体の体積を限界まで増やした。
そして、近くの木々を手当たり次第に掴み、なんとか勢いころす事が出来た。
イリナを無傷で守り抜いたのだ。
ステータスを開くと俺の体内魔力量は360になっていた。
わりとギリギリだった。
(なんとか生き残ったー。俺だけ死ぬならまだしも、イリナを巻き込むとかどんだけ戦犯だよ)
「ティト! もう一回! もう一回なの!」
(あー、楽しんで頂けたようでなにより⋯⋯もうやらないからね?)
「えー!」
不満そうな顔をされても困る。
生き残れはしたが、魔力量ももう心許ないのだ。
そう思っていると、魔力が流れ込んできてすごい勢いで回復していく感覚がする。
(おっ、おおっ? どうなってんのこれ?)
「小娘の魔力よ。テイムによって小娘とダーリンは魔力的に繋がってるの。小娘は魔力だけはバカみたいにあるから、本当に癪だけど今回は助かったのは小娘のおかげね」
エステルが上からゆっくり降りてきた。
「むー。イリナはバカじゃないのー」
「ついでに言うなら、一時は失った消化が復活しているのも、限定スキルがまた出現しているのもテイムの影響なのよー。ダーリンは自然スライムへの進化が無理やり書き換えられたことで、存在が中途半端になってるのよねー」
(中途半端ねー)
中途半端と言われても実感がない。
自然スライムじゃなくなれば、自然の一部にならなくてもいいだろ。
おまけに消化や限定スキルまで復活して、もはや良いことづくめだ。
しかし、エステルの次の言葉で俺は絶望する。
「はっきり言ってダーリン、あと一年であなたは死ぬわ」
(そんな! ひどいよステータスさん!)
「エステルよ」
「ティト死んじゃうの! 嫌なのー!」
衝撃で俺が硬直しているとエステルが頬を染める。
「⋯⋯はぁん。絶望した顔もダーリンは素敵だわ」
(もしかして、ただのドッキリだったり?)
「しないわね。そもそも、自然スライムは一年かけて森の魔力溜めて”根づき”と言う、自然の一部になるための変化をするのよ。それはある種の生まれ変わりのようなもので、寿命でもあるわ」
(そう言えば、その場所に根を張りって書いてあったな)
「そして、イリナと契約状態のダーリンは自然に対して”根付き”ができないの。だから一年で寿命がつきるのよ」
その話を聞いて弾けたようにイリナが抱きついてきた。
「イリナのせいなの? ティト死んじゃ嫌なの!」
(イリナ⋯⋯)
イリナを助けたこともテイムされたことも間違ってたとは思わない。
でも、もう少し長くイリナと一緒に居たいと思ってしまう。
悲痛な沈黙が流れる中、エステルがジト目で見てくる。
⋯⋯若干の怒りを背中に背負って。
「続きを言ってもいいかしらー」
(どっ、どうぞ)
「そこで出番になるのが限定スキルなのよー! 限定スキルで他の自然スライムを吸収することでダーリンの”根づき”までの時間を伸ばす事ができるのよー。さらにじゃんじゃん吸収すれば小娘のテイムを森の魔力で上書きして、自然スライムに返り咲く事も夢じゃないわー。目指せ大自然スライムよー!」
(いや、大自然スライムとかなるつもりないから)
「なんでよダーリン! 酷いわね、毟るわよ!」
(やめてー!)
寿命が延ばせるなら、せっかく自由に動けるのに”根付き”なんてまだしたくない。
少なくとも一年はあるのだ。
イリナの家を探した後は、世界を見てみるのも良いだろう。
イリナはついて来てくれるだろうか?
元がスライムのステータスとはいえ、ジャンプ力や耐久力はなかなかのものになった。
他の生物に食べられてしまう心配が無くなったわけではないが、いまは焦って進化しない。
(そういえば、魔力をイリナから大量に貰ったみたいだけど身体は大丈夫?)
「平気なの。ムズムズしただけなの」
そうは言っても、少しフラフラしている気がする。
魔力は多くても、よく考えてみれば何日間も高熱を出して寝込んでいたのだ。
体力は完全に戻っていないのだろう。
すでに辺りは薄暗くなっている。
魔力探知で周りを調べて安全を確認した後、なるべく他から見えにくい場所を探して休む事にする。
「ティト、包むの! ベットなの!」
(ん?そうだな。その方が外敵が来た時でも逃げられそうだし、おいでー)
「やったのー!」
イリナ飛び上がって喜ぶと、背を向けてこちらに倒れ込んできた。
生産で体積を少し増やし、イリナを受け止めるとトプンっと小気味いい音を立てて入り込んでくる。
顔を包まないようにして枕を作ってやれば、スライム寝袋の完成だ。
寛ぎ始めたイリナに、せっかくなのでスライム寝袋の寝心地を聞いてみる。
「温かくてフワフワなの。ツルツルでコシがあるなの」
(それ食べた感想でしょ絶対。まぁ、寝心地がいいなら良いかー)
イリナの寝袋になるのは2回目だが、看病をしていた時よりも神経を使わなくても包んでいられる。
こんな所にもテイムの影響が出ているのかもしれない。
そして、エステルも『私もダーリンの中で休むわ』と言って、光になって頭の擬似枝に入っていった。
疲れていたようで、気付けばイリナは眠ってしまっていた。
二人が寝たことで不意に訪れた静寂。
イリナのかすかな寝息と虫の音を聞きながら、これが母性かーなどと思いつつ俺も眠りに着いたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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引き続き、ついでで良いので気軽に評価をお願いします。
作者のニヤニヤは止まりません。




