13 行動してからわかること
俺は体の一部を粘力でコップの形にして、そこにスライム蜜で満たす。
それをどうぞとイリナの前に差し出すが、よく考えたら普通はそんな得体のしれない液体を飲むわけがない。
(えーと、これはスライム密と言って⋯⋯)
「これスキ!」
どうやら看病していた時の記憶がイリナにもあるようで、どう説明しようか迷っている間にイリナがコップを手に取って飲み始める。
そして⋯⋯。
ブチッ!
(きゃぁぁぁぁぁぁあ)
イリナはそのままそれを噛みちぎった。
「美味しいの」
(かっ、甘露だからね。みんなのおやつだからね。でも、食べる時は言ってね。びっくりするから、本当に)
頬に手を当てて満足そうな笑顔を浮かべるイリナ。
進化しても甘露の呪いは解けていないようだ。
一悶着あったが、食べられてしまった所を再生させ、身の振り方を話し合う。
⋯⋯とは言っても、森生まれの俺はここが住処だし、エステルも俺から出てきた。
話し合う内容は、イリナを家にどう返すかしかない。
(近くに集落でもあれば良いんだけど)
まずは魔力探知でイリナに近い魔力を探してみる。
レベルも上がっているので、かなりな範囲を魔力探知でさぐれたが、それらしい魔力は感じられなかった。
「だいぶ川で流されたようね」
(うーん。とりあえずイリナが川に落ちた場所まで行ってみるしかないかな? どこで落ちた覚えてる?)
「わからないの。川には行ってないの」
(落ちた時の記憶が無いのかな? 近くまで行けば思い出すかな)
怖い思いをして記憶を失ってしまったのなら、思い出させるのは酷だが、他に手がかりはない。
(暗くなる前に少しでも進んだほうがいいかな?)
「冒険なの! 冒険者なの!」
(いや、冒険って⋯⋯まぁ、トラウマになったりするより良いか)
ぐっと拳を前に気合を入れるイリナを見る。
エルフの年齢はわからないが、言動も見た目も幼すぎる。
(イリナって何歳なんだ?)
「110才! オトナなの!」
「ガキね」
「オ・ト・ナなの!」
いや、ガキだわ。
そんな率直な感想が出て、不味いっと思いイリナを見る。
しかし、考えたこと全てが伝わるわけでは無いらしく、イリナはキョトンとした顔でこちらを見返してきただけだった。
その事に安堵していると、頭の上で寛いでいたエステルが囁いてくる。
「私は聞こてるけどねー。伝えてあげようかしら?」
(やめてね? そうだイリナ、川の近くに鞄が落ちていたけど君のだよね。他にもあったりする?)
「イリナの鞄。ありがとうなの。他にはないの」
話題を反らすために鞄の話をしたが、イリナので間違いはなかったようだ。
山の中を移動する上でイリナの装備は確認する必要はある。
あらためてイリナを見る。
耳の上の近くで結ばれた、みじか目のツインテールは実に可愛らしい。
格好はシンプルなチュニックに半ズボン姿、とても山を歩くのには向いていなさそうだ。
次に、川でイリナを引き上げた後に探った、鞄の中身を思い出してみる。
着替えや干し肉があった事から、どこかに行こうとしていたのだろうか?
(もしかしてどこかに向かってた? 誰かと一緒だったりした?)
「一人なの。イリナ冒険者になって強く生きるの! 今はティトもいるから無敵なの!」
「まさか小娘、家出してきたんじゃないでしょうねー」
⋯⋯ありえる。そう思ってしまった。
そして、家出だったとしたら色々と足りなさ過ぎると思う。
刃物や水筒、火打ち石のような火を付ける道具も無くテントもない。
代わりにあるのが少量の硬貨や効果の高いポーションに宝石と、なんと言うかアンバランスだ。
「絶対箱入り娘よねー」
(⋯⋯んー)
家出娘でも、箱入り娘でもやることは変わらない。
頑張って家まで返すだけだ。
そう思っていると、不意にエステルが囁いてくる。
「不味いわダーリン。暴走したイリナの魔力に怯えて近づいて来なかった森の獣たちが、凄い勢いで近づいてきてるわ」
(えっ、なんでいきなり!)
俺はエステルに言われて、獣達が来ているという森の方を振り返る。
そこには、大量にぶち撒けられたスライム密があった。
(あっ⋯⋯ああー⋯⋯うん。まずいね)
粗相をしてしまったようで、かなり恥ずかしい
思考が停止しかけるが、まずは迫りくる獣たちを確認をしないと不味い。
魔力探知を広げると光の点が前方から複数向かってきているのが感じられた。
(あっ、よかった。後ろの川の反対側からは来てないみたいだし、向こう渡っちゃえばできればやり過ごせそうだ)
「渡るなの?」
イリナの疑問の声を聞いて川を見る。
川幅は一メートルちょっとくらいだろうか。
流れも早く、歩いて渡るのは困難に思える。
(ジャンプで越えられないかな。イリナ、俺に乗って)
「乗るの!」
まずはイリナが落ちないように足を固定する。
そして、その場で何回かジャンプした。
「高いの! 凄いの!」
(おおっ! これならなんとか行けるかも! いち、にの、さん!)
俺は川を飛び越えた。
「凄いの! ティトは最強なの!」
(ワハハッ! そうじゃろう。そうじゃろう)
ピンチから逃れられたことによる緊張と緩和。
弱さで苦悩した後での、自分の力の再確認。
イリナにも褒められてまさにテンションはマックスだ。
舞い上がる気持ちのままに、ジャンプした勢いのままに跳ねて進む。
そして、俺達はそのまま空にまで舞い上がった。
(えっ?)
「わー。きれいなの!」
眼の前には、森で生まれてから初めて見る景色。
上からの見下ろした森は沈み始めた日の光を受けて幻想的な輝きを放っていた。
そして、そこに足場は存在していなかった。
獣達が来ないはずだ。
だって川の反対側は崖だったのだもの⋯⋯。
景色に興奮しているイリナを感じながら、俺は『落下による衝撃で、あなたは死ぬ』そうステータスに書かれていないかドキドキしながら落ちるのだった。
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