114 アイリア奪取作戦
「アイリア様の居場所は把握されているのですか?」
ビースナスの質問に答えたのはエルドだ。
「プランハルが暗殺だどうだと言われたが、もともとアイリア嬢には狙われる理由がねぇ。病状も悪いんだ。普通に領主の別邸で療養してるさ」
「そうは言っても全くの無防備ではないでしょう。本当に連れ出してしまわれるのですか?」
「この薬の効果が信じられていない今、それしか方法はありません。アイリアには少しでも早い治療が必要なのです。例えアイリアに嫌われてもかまいません。病気さえ完治してしまえば、ベルセプ様の元に返すことだってできるのですから」
「愛だわ~」
(覚悟は決まっているのか)
そこでビースナスが俺たちの方に向く。
「プランハル様はそれでいいでしょうが、問題は私達です。領主の娘を誘拐してただで済むはずがありません。指名手配されるのは確実だと思われます。本当によろしいのですか?」
(アイリアの治療が成功すればなんとでもなりそうだけど、それまでは身を隠さなきゃならないかもなー)
「ティトがいれば大丈夫なの! やってやるなの!」
「うん。いまさら見捨てられないよね」
俺たちの会話を聞いたエルドも俺たちに頭を下げる。
「最初は瓶の成分を見てもらうだけだったのに、すまねぇ。今から抜けてもらっても構わねぇ」
「いえ、こちらの意向は決まりました。行動に移す前に聞いておきたいのですが、アイリア様の容態は実際どうなのですか? 寝込んでしまっているような状態では連れ出すことは出来ませんよね?」
「その点は安心して欲しい。病気は進行しすぎれば手遅れになるが、俺の診察した時点での見立てでは、まだ動けないくなるほど進行はしていないはずだ」
「そうだな。微熱は続いているし、痛みやダルさも訴えているが、体力作りに庭の散歩が出来るくらいの体力はあるって話だ」
「なるほど、移動は馬車でも出来そうですね。しかし、潜伏場所を考えなければなりませんか」
そこまで言ってビースナスが黙った。
考える仕草をしている所から、中でいろいろな算段が巡っているは間違いないだろう。
彼女がどの程度この土地に伝手があるか分からないが、もし全く勝算がないのなら、全力で反対しているはずだ。
どちらにしろ、プランハルを城から逃がした時点で賽は投げられてしまった。
ベルセプが街に御使いを探しに出ている今しか、もうチャンスは無いだろう。
作戦を立てて行動開始だ。
「アイリア様には納得して一緒に来てもらう必要があります。そのためにはプランハル様の同行は不可欠ですね。私は逃走用に馬車の準備をさせてもらいますが、ノエル様は……」
「ボクもビースナスさんと一緒に行くよ。大人数だと見つかりやすいし」
「俺は、お前達が逃走する時に少しでも助けになるように、兵士や領主が混乱するように手を回そうと思う」
「エルド、無茶はするなよ? アイリアが完治しても別の罪でお前が捕まったら、俺は自分を許せなくなる」
「わかってるって」
(俺はプランハルについて行くしかないかな。イリナはビースナスと一緒にいてくれ。それから、認識阻害の魔道具を貸してくれるか?)
「むー。イリナも行きたいけど仕方ないの」
「私はダーリンから離れたりしないわ! 通訳も任せて!」
こうして、それぞれの役割が決まった。
地図で逃走経路を確認した後、行動を開始する。
城から向けだした時と同じ要領で、警備を搔い潜りながらアイリアのいる別館へと侵入する。
アイリアは椅子に腰かけて本を読んでいた。
部屋に入ってきたプランハルにすぐに気が付いて驚きの声を上げる。
「プランハル! どうして会いに来てくれなかったの!」
「ごめん。薬を毒と疑われてしまって、捕らえられていたんだ」
「そんな! お父様はそんなこと……」
「それより、ほら薬が出来たんだよアイリア」
(アイリアさん声が大きいよ。侵入がバレちゃう!)
事情を知らないアイリアは声を抑えていない。
抱擁を交わているところ申し訳ないが早く逃げないとまずいだろう。
そう思っていると案の定、物音が聞こえたようで不審に思った侍女が部屋に入ってきてしまった。
「お嬢様いかがいたしま――誰です! しっ、侵入者です! 誰かー! お嬢様が!」
(やっぱりこうなったか)
「窓から逃げるわよ。急ぎなさい!」
「アイリア、抱き上げるよ」
「はい」
俺は庭にある木に触手を伸ばしてプランハルにも巻き付けて一気に飛ぶ。
着地にクッションになって衝撃を逃がした後、逃走経路に向って走るのだが……。
「プランハル! なぜ貴様がここにいる。まだ我が娘の命を狙うか!」
「何度言えばわかるのです。これは薬です。完成したのです。アイリアには私の治療が必要なのです」
「うるさい! お前達、もう捕らえる必要はない。プランハルはこの場で切り捨ててよい!」
兵士が囲むように移動して逃走経路を塞ぐ。
ただ、幸いなことに命令は受けたが、アイリアがいるため兵士がいきなりは切りかかってくることはなかった。
しかし、じわじわと包囲の円が縮まっていく。
(ここで暴れてもいいけど……。こうなったら仕方がない。プランPだな)
『何をするつもりなのダーリン?』
(おそらく領主はまだ御使いを信じている。この際、全て女神の意向って事にしちゃえばいいんだ)
『なるほど、さすがわダーリンだわ。じゃあ、私は姿を隠してタイミングを計るわね』
念のためにイリナから認識阻害の魔道具を借りてきてよかった。
あとは使うタイミングだ。
バレないように上空に上がったエステルが行動するのを待ちながら、俺は例の薬草をこっそりと足元から散布していく広げていく。
「この光は女神さまの! まさか御使い様が降臨なさるのか!」
エステルが光を放つと真っ先に領主が反応した。
街中で噂を流しまくったおかげで完全に信じ込んでいるようだ。
領主の発言で他の兵士も御使いとして見る準備は整った。
光りながら降りてくるエステルに合わせて認識阻害の魔道具を装備する準備をする。
「プランハル、その娘から少しだけ離れなさい」
「わかりました」
プランハルは事態を理解できていなかったが、エステルの小声の指示に従ってくれた。
そして、エステルの光がプランハルに着くタイミングで魔道具を装備する。
「この者の献身に心を打たれて力を貸しました。この薬は完成していますが、今よりこの者と薬にさらに力を授けます。さぁ、この娘を救いなさい」
「おお、女神様。感謝いたします」
それだけ終わると魔道具を外し元の姿に戻る。
女神に対して跪いていた領主が立ち上がりプランハルに近づいて来る。
(上手くいったんだよな?)
ドキドキしながら反応を見守った。




