109 紫の薬
2026年7月24日
大幅に内容を変更しました。
現れた人物は、医療に携わる者にしてはあまりにも不衛生な印象だった。
無精ヒゲとボサボサの髪、白衣は薬品で汚れていて、服の上からでもわかる太い筋肉質の腕と、傷のある太い指がさらに粗野な印象を与えている。
「お疲れ様ですエルド先輩。急に呼び出してすみません」
「わかってるって! プランハルとアイリアの為だ、深夜だろうが早朝だろうが気にせずに呼べ」
「情報を知るのは私達二人で構わないわ」
ゲラーデとエルド以外の職員がポーションを飲んだ。
記憶を消すポーションなんてどんな劇薬なんだと思ったが、実際は暗示のような効果で数時間前の決められた単語に関する記憶をあやふやにする薬だった。
(それでも使用に厳しい制限があるって言うのに、そんな薬を独断で使えるとか、ビースナスはマジで何者なんだろうな~)
「すごく頼れる人だよね~」
ノエルの言う通り、実際に頼りまくりではあるから詮索する気もないし、わかったところでどうしようもない。
ポーションを飲み終わって暗示をかけ終わった人達を、仕事に帰らせている間に、ゲラーデが俺の能力についてエルドに聞かせていた。
部屋に俺達以外にゲラーデとエルドの二人だけになったところで、いよいよ本題に入る。
「じゃあ、まずはこいつを飲んだら複製できるかを聞かせてくれ」
エルドが、懐から紫色の液体の入った瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。
(ずいぶん毒々しい色だな)
「ちょっと、まさか毒じゃないでしょうね」
「いや、毒だ!」
「毒なの! でもティトは平気なの!」
「正確には『毒だ!』と鑑定された俺の同僚が作った薬だ。まずはこれを調べない事には始まらねぇ」
(自然スライムの成分じゃなきゃ生産は出来ないだろうから、場合によっては鑑定しないと複製が出来るはわかんないぞ~)
「複製できるかは、ダーリンの鑑定の結果次第ですって~」
「鑑定できるんだな! 頼むやってくれ」
興奮したエルドが俺に顔を近づけてくる。
エステルはその暑苦しさが嫌だったのかエルドから距離を取った。
(意外とこの人嫌いじゃないな~。さて、鑑定しますか~)
鑑定吸収のスキルを使いながら触手を瓶の中に入れて液体に触れる。
結果成功
結果:ドーン茸
生命力を低下させる衰弱しさせる毒素を含んだ茸。
注意:この素材を鑑定吸収してしまうと、この未完成の薬からはドーン茸の成分が消失し薬の効果が完全に失われます。
吸収しますか? YES\NO?
結果成功
結果:ゲデン草
体中に炎症を起こさせる成分のある毒草。
注意:この素材を鑑定吸収してしまうと、この未完成の薬からはゲデン草の成分が消失し薬の効果が完全に失われます。
吸収しますか? YES\NO?
鑑定成功
結果:フュデン茸
内臓の細胞を破壊する毒。
注意:この素材を鑑定吸収してしまうと、この未完成の薬からはフュデン茸の成分が消失し効果が完全に失われます。
吸収しますか? YES\NO?
鑑定成功
結果:ウム草
血液の流れを狂わせる毒草。
また他の毒物を体中に散らす作用がある。
注意:この素材を鑑定吸収してしまうと、この未完成の薬からはウム草の成分が消失し効果が完全に失われます。
吸収しますか? YES\NO?
(いや、毒の総合商社や~! ……ってなりそうなラインナップじゃん。ちゃんと毒薬だよコレ!)
俺はわかった内容を紙とペンを用意してもらって書いていく。
その紙を持ったエルドが別の紙を取り出して、穴が開くんじゃないかと思うほどに見比べている。
「よっしゃー! やはりプランハルはアイリア嬢を毒殺しようなどとはしていなかったんだ!」
「やったわね! 先輩!」
エルドがガッツポーズを取ると、ゲラーデも喜んで涙を流した。
「この資料を提出すれば少しはプランハルの容疑も晴れる。あとは足りない成分を含んだ素材の保管場所を本人に聞いて、薬を完成させればいい!」
「すぐに面会の申請をするわね」
すぐにゲラーデが面会の申請のために出て行った。
しかし、しばらくして帰ってきたゲラーデから告げられたのは最悪の事態だった。
「申請は却下されたわ。それどころか、プランハルの処刑が三日後に執り行われるって」
「くそぅ! あとちょっとだってぇのに!」
「落ち着いてください。我々も協力できるかもしれません。しかし、まずはプランハル様ですか? その方とアイリア様の話を聞かせていただきますか?」
二人に冷静になるように諭すと、ビースナスが尋ねる。
「アイリア様って言うのは、コッファー領主ベルセプ様の一人娘のことだ。プランハルは俺の同僚だな」
「私が説明するわ。半年ほど前にアイリア様が腹痛を訴えてこの医療研究所に来たの。そして、アイリア様の診察をしたのが、私の先輩のプランハルさんだったわ」
当時の事はゲラーデの方が詳しいのか、エルドに代わってゲラーデが話しを引き継ぐ。
「アイリア様の病気は、原因がまったくわからなかったの。ポーションでは良くならなくて。でも、プランハルさんは凄く親身になって診察してなんとか治療しようとしていた。それもあって、アイリア様とプランハルさんはすぐに仲良くなったのよ」
「でも」っとゲラーデが悔しそうに唇を噛んだ。
「アイリア様の体調は良くなるどころか日に日に悪化していったの。そして、そんな中で家臣達の間に『アイリア様の不調の原因がプランハルさんの所為ではないか?』って言う噂が流れ始めたのよ。バカげた話よ」
「疑いを掛けられたプランハルは、すぐに捕らえられた。もちろん、プランハルも必死で無実を訴えたさ。だが、閉じ込められた後にプランハルの部屋を捜索したら、この瓶が出てきたのよ」
そして成分を調べた結果が『毒』だったわけだ。
「プランハルは治療薬だと主張したさ。だが薬は未完成で鑑定結果は毒。使われている素材が新種ばっかりで、研究所の魔道具に登録されていないから、液体の中は素材もわからねぇ。レシピに書いてある素材を集めて完成させようにも、そもそも素材が新種じゃ、名前だけでは探せねぇんだ。本人以外作りようがねぇんだよ」
「エルド先輩はプランハル先輩の無実を晴らすべく、せめて内容物が解ればと研究所に籠って何日も調べ続けていたの」
俺の鑑定でも結果は毒だったが、入っている素材が解れば薬として完成できる。
そこまでやって初めて無実が証明できるだろう。
「ティトが鑑定すれば素材は探せるんじゃない?」
「そもそも新種なんて見た事ねぇんだよ。形の違う草やキノコが置いてあったらさすがに気づくさ。だが、そんな草もキノコも見た事がねぇんだ。毒草や毒キノコを使ったレシピだからな、悪用を恐れたんだろう。プランハルが隠しちまってるんだよ」
(本人に話を聞くしかないのか)
瓶の成分だけでもわかれば面会できると思ったのに、とエルドが椅子を蹴り上げる。
俺なら魔力探知でプランハルの場所を探せるだろう。
しかし、それは領主の捉えた犯罪者に無断で接触する行為だ。
(みんなの意見を聞きたいんだが、俺は二人を手伝ってプランハルもアイリアも助けたいと思う。危ないし犯罪者扱いされるかもしれない)
「やるの! 異論なんてないの!」
「もう! ダーリンたらかっこいいわね。私の心配なんていらないわ」
「ボクももちろん賛成だよ」
「私はティト様の決定に従います」
皆が快く俺に賛成してくれた。
それならもう迷いはない。
さあ、これからの行動を話し合おうか。




