108 ゲラーデの依頼
変更洩れしてました。
2026年7月29日
「力を貸す? なの?」
(さっきの魔道具で俺の何かがバレてたからな~)
「そちらのスライム様は……」
「ティトなの! ティトが名前なの! イリナはイリナなの!」
「お名前はティト様なのね。私はゲラーデ、よろしくねイリナちゃん」
そこで改めて全員が自己紹介をする。
そのおかげで張りつめていた空気が少し軽くなった。
「ティト様は……その自然スライムよね?」
(それくらいはわかるか)
「そうよ。偉大なるダーリンにひれ伏しなさい」
「はは~!」
(意外とノリがいいなこの人)
ゲラーデが崇める様に床に膝を付いて礼をする。
しかし、その後に上げられたゲラーデの顔は真剣なものだ。
ゲラーデが何か言おうとしたところで、ビースナスが止める。
「お待ちください。冒険者の権利として、犯罪者以外の個人の情報は守られています。それはテイム状態のティト様も同様です。その態度から察するにティト様の何かを見たと言う事でよろしいですか?」
「……スライム管理用のスキャン装置でステータスを見ました」
「では、魔道具で得たティト様のデータを全てこちらに提出願います。話はそれからです。あなた方はティト様を攫ったのです。少し反省が足りないのではないですか?」
「……ごめんなさい。すぐに用意するわ」
ビースナスの鋭い視線に気まずげな顔をして、一緒に来ていた職員に指示を出し、さっきの魔道具から出た紙を持って来させる。
そして、それをビースナスに渡した。
(うわぁー。これは素人にはわからないな)
渡された紙にはびっしりと数字が書かれていた。
ステータスが書かれていると言っていたが、文字ではなく数字の羅列だった。
「この数値で分かる内容の説明を求めます」
「書かれているのは総魔力量と、魔道具に登録してある植物を取り込んでいるかどうかだけよ。それでも魔道具には膨大な量のデータが入っているから、それなりな事はわかるわ」
(うーん。どうなんだろう? 沢山持っているのがバレているだけなら大丈夫か?)
「残念だけど、そんな存在ダーリンだけだからね」
「そうなの! ティトは凄いの!」
そのやり取りを見ていたゲラーデが疑問を口にする。
「その……良ければティト様の主が誰なのかを聞いても良いかしら?」
「イリナなの! イリナはティトと繋がっているの!」
「豪腹だけど、ダーリンをテイムしているのはこの小娘ね」
そこでゲラーデが顎に手を当てて考え込んだ。
「さっきからやり取りを見ていたのだけれど……もしかしてティト様と会話してるんじゃない?」
(うわぁー。いつもは隠しているけど、いろんなことが一度に起きたから油断して普通に話してたのバレたかぁー。……まぁ、まだ誤魔化せるか)
「ティトはイリナには意外とおしゃべりなの」
「小娘だけじゃないでしょ! それにあんたが話すのは、ダーリンの出す食べ物についてばかりじゃない!」
(おーい! エステルさん?)
気づかないかな?
……などと言う甘い期待が実現するはずもなく「食べ物を出す? 取り込んだ植物を生成し直す能力があると言う事?」などと、ゲラーデの口から察したであろう考えが洩れていた。
「不味いの! ティトが話せることは秘密なの!」
「そうよバカ小娘! ダーリンの知性の高さは他のスライムとは比べ物にならないのよ。生産で吸収した植物を出せる事までバラしてんじゃないわよ」
「しまったの!」
(いや、エステルも補足してわかりやすくしてるからね! わざとやってるの?)
今までのスライムを見てきた感じでは、テイムすれば意思を伝える事は出来る。
だが、それは意思疎通できる程度の事で、会話の様に言語を介するわけではない。
スライムの能力を正確に把握して、外部に言語として伝えられる俺の存在は、例外中の例外なのは間違いないだろう。
ビースナスを見ると、頭痛を感じたように頭を押さえている。
「自由に動き回る自然スライムってだけでもレアケースなのに、言葉を交わせるなんて伝説にでも出てきそうだわ。……待って、吸収した植物を指示通りに出せるって事は、吸収した物の名前や成分をある程度、本人が理解しているって事じゃない!」
何かを思い至ったのか、ゲラーデが俺の方に歩み寄って、再び跪いて頭を下げた。
「偉大にして万能なるティト様! 流麗にして荘厳なティト様! どうか私達にお力をお貸しください!」
「ふふふ~、あんたには敬いの心があるようね。いいわ~、聞いてあげるから何でも言ってみなさ~い?」
(ちょっ、エステル! 俺が褒められただけでそれはさすがにチョロ過ぎないか?)
エステルが天井近くまで飛び上がってゲラーデを見下ろしている。
まさに気分は有頂天だ。
(ビースナス~! 止めて~)
「もう、イリナちゃんもエステルも駄目だよ。ビースナスさん、ティトが止めさせてって言ってるよ」
「わかりました。ですが、ここまでバレてしまったので口止めを優先させていただきます。協力する代わり条件を付けましょう」
「全て飲むわ!」
ゲラーデが間髪入れずに了承する。
その顔は冗談で言っているようなものではない。
「良いのですか? では、今まで見聞きしたことは他言しないと契約してください。それと、真実を知る人数は少ない方が良いので、ここまでの話を聞いた人間で、これから深くかかわらない者には、記憶を消去するポーションも使用させていただきます」
「それで構わないわ。あなたたちもいいわね」
(記憶を消去するポーションなんてあるの? こっわ~! それを受け入れるとか、覚悟決まり過ぎでしょ? 何がこの人たちをそこまでさせているんだ?)
ゲラーデが他の職員に確認を取るが、全員が頷いた。
ビースナスが全員が嘘をついていないか視線を走らせる。
ポーションの効き目はわからないが、記憶を差し出せるほどの者がここの職員にはあるようだ。
「記憶の消去のポーションを飲む人間の選別はそちらにお任せします。誰が残るか選んでください」
「ちょっと待って、その前に呼んでいる人物がいるの! その人が来てからでお願いできるかしら」
ゲラーデがそう言った瞬間、急に扉が開かれ荒くれ者のような人物が入ってきた。
「俺の事だな! おう! 待たせたな!」




