107 攫われたよ
2026年7月24日
内容を大幅に変更しました。
捕まってしまった。
自分の能力を過信し過ぎていた事は、よう反省だ。
とっさにエステルを俺の疑似枝の中に入れたが、外の状況はまるでわからない。
(エステル大丈夫か?)
『ええ、ダーリン。死ぬときは一緒よ』
(縁起でもないからやめてね。しかし、揺れの感じからすると馬車で運ばれてるのか? この袋、魔力を遮断しているみたいで魔力探知が通らないんだよな~)
声も遮断されているらしく、イリナの状況もわからない。
ビースナスがいるのでイリナの方は大丈夫だとは思うが、こんなに離れたのは初めての経験だ。
いざとなれば、巨大化して暴れれば合流は出来るだろうが……。
(街中で暴れるのは本当に最終手段だよな~)
不安があるとすれば即死するような何かをされる事だが、わざわざ生きている状態で攫うのだから、いきなり殺されたりしないと思いたい。
(おっ、止まった。どこかに着いたって事か)
そのまま袋ごと担がれて運ばれる。
そして、逆さまにして袋から無造作に出された。
(おお? スライムがいっぱいだな)
すぐに魔力探知を使って周りを確認するとベルトコンベアーのようなものでスライム達が流されていく光景が映る。
さらに魔力探知を広げれば、この場所が街の端にある領主の館だとわかる。
イリナ達を探すと、真っすぐにこちらに向かってきている姿が確認できた。
(おっ? 俺が攫われた場所はわかってるみたいだな)
目の前のスライム達を改めて見ると、薬草園で回収されていたスライムだとわかる。
どうやら、俺は街で管理しているスライムと間違えられて連れてこられたようだ。
(悪意が無いから気が付かなかったのか。スライムを警戒させないように回収のに慣れてたんだな。……さすがプロだわ)
相手はプロ。
俺が攫われたのも仕方ない事なのだ。
目の前で一緒に流れているのを見ながら一人言い訳する。
「……ダーリン、感心しているのは良いけど、コンベアーにダーリンも乗せられているわよ」
(なんですと!)
流れた先には別の魔道具があり、ベルトコンベアーから職員が丁寧にスライムをその魔道具に乗せ換えるとスキャンするような光を当てる。
スキャンした魔道具からは紙らしきものがカタカタと排出された。
恐らくその紙にスライムのデータが書かれているのだろう。
職員がその紙に目を通しメモを取っている。
「このスライムはモープ農園の所のスライムね。ん~、良いじゃない。健康そのものだし順調ね。こっちのスライムはプランチェ薬草園のスライムね。ああ~、惜しい。これならもう少しで薬草の力を帯びそうだわ~」
赤いウェーブのかかった髪の白衣姿の長身の女性だ。
眺めているとテキパキと作業が進み、あっと言う間に自分の番まで来てしまった。
「あら? このスライムはどこの子かしら?」
(感心してたら逃げ遅れちゃったぞ。スキャンされても大丈夫かな? どこまでわかるんだコレ?)
「この子は今まで見た事ないけど……もしかしたら新しく進化したのかしら。さっそくデータを取らなきゃね」
判断が遅かった俺はガッシリと両手で掴まれて、台の上に乗せられてしまった。
そこで職員のお姉さんが、俺が街で管理しているスライムではないことに気が付いた。
「……って、もしかしてこの子って、誰かのテイムしているスライムだったりするのかしら?」
「失礼します! 冒険者が! スライムを返せと乗り込んできました!」
「あら~、これは不味いわね。すぐにお通しして~。丁重によね~。スライムちゃんも来てね……って、えええええぇ~!」
(あっ、スキャンされちゃった)
お姉さんが俺を下ろそうとした時に、魔道具のスキャンが開始される。
その瞬間に猛烈な勢いで紙が排出された。
職員が食い入るように紙を見入った後に、血走った目で俺を見て、力強く掴み上げる。
「あなた凄いスライムじゃない! これはすぐにエルド先輩に連絡を取らないと! 急いで連絡を入れて!」
別の職員に指示を出すと、その職員がどこかに走っていった。
(痛くないけど、潰れちゃうからやめて~!)
「いいかげんダーリンから離れなさいよ。この赤髪女!」
「ふがっ……キャー! 何するのよ! 私の鼻が潰れちゃうじゃないの!」
力の入り過ぎで軽く変形していた俺を見かねて、疑似枝から飛び出したエステルが鼻に蹴りを入れた。
鼻を押さえながら睨んだ女性がエステルに気が付いてさらに驚く。
「まさか妖精が就いているの! そんなの伝説でしか聞いたことないわよ!」
「ゲラーデ様、冒険者たちを部屋へお通ししました」
「ああ~、もう! スライム様、こちらへお越しください」
(様付けになってるな。あの魔道具どんな結果を出してたんだ~? とりあえず合流してビースナスに何とかしてもらおう)
俺は事態の収拾を早々に諦める。
そして、職員の数名に囲まれながら、案内されるままに部屋に向かった。
部屋に中に入るとイリナが俺に気が付いて走ってきた。
「ティト~。良かったのなの~!」
(ごめんイリナ、心配をかけた)
「申し訳ありません。私のミスです。私が居ながら誘拐を許すなど……」
(ビースナスも気にしないで良いよ~)
「ティトは気にしないで良いって言ってるよ。ボクもあの状況じゃ仕方ないって思うな~」
ビースナスが悔しそうに頭を下げたが、気が付くのが遅れたのは本当に仕方がない事だと思う。
大量のスライムが入れ替わた瞬間の出来事だ。
搬入口の近くにいたビースナス達の周りはスライムまみれだったのだ。
イリナが俺の声が聞こえない事にでも気が付かない限り、あの状況で俺が居ない事にすぐに気付くのは無理がある。
そこで職員が前に出て謝罪の言葉を口にした。
「いいえ。完全にこちら側のミスだわ。確認を怠ったせいでスライム様を攫うような形になっちゃったのは私の責任。正式な謝罪とそれに見合うだけの補填をさせてもらうわ」
「当たり前ね~」
他の職員も一斉に頭を下げる。
実際、確認しないままに押し込んだのだから、職員側が悪い。
頭を下げたお姉さんが、その体制のままにさらに続ける。
「そして、図々しい事は百も承知でお願いするわ。どうか私たちにお力を貸してちょうだい」




