105 医療の街 グノーゼ
三つほど町を移動すると、季節はすっかり春になっていた。
今いる街はコッファー領の主要都市で医療の街と言われている都市グノーゼ。
薬草類もたくさん集まると言うことで、自然スライムの材料がないか探すために薬草の置かれた店をハシゴしている。
「ここからここまで全部一つずづなの!」
「お客様? お戯れもほどほどにしてください。お嬢様のようなお子様が出せるような金額ではありませんよ?」
店に入るなりイリナが全種類をくれと言うと、店員さんが聞き分けの無い子供に言い聞かせるように話しかけてくる。
冷やかしと思っていながらも丁寧な態度なのは感心するが、毎回ほとんど同じ反応だ。
「いくらなの? お金ならあるの!」
(またそんな成金貴族みたいな発言するから)
「わかりました。……計算しますと全部で大金貨二十枚です」
(おっ、日本円にして二百万円か、今回は結構高かったな)
「はいなの!」
「ええええ!」
イリナがカウンターの上にお金を無造作に出して驚かれる。
ここまでが一連の流れになっていた。
「ティト、はいなの」
(ありがとうイリナ。……うーん。この店は外れだね)
買ったばかりの薬草の束に鑑定吸収を使って見たが、自然スライムは無かった。
スキルで吸収してしまうのはもったいないのでモゴモゴと薬草を食べる。
お金は、ここまでの道中の街でビースナス経由で俺の生産物を売って稼いだので、まだまだ余裕があるが、派手に使い過ぎているのは確かだ。
「薬草の売っている薬屋はここで最後ですね。次は薬草園にでも行ってみましょうか」
「その前にご飯にしない? もうそろそろお昼だよね」
「お肉なのー」
「まぁ、薬草園は逃げないし良いんじゃないかしら?」
医療の盛んなグノーゼはスパイスも充実している。
その恩恵で、店の食事にもスパイスやハーブが使われていることが多く。
イリナもノエルもハーブ入りのソーセージに夢中だ。
「このプリっとした食感がいいよね」
「肉汁とハーブのハーモニーなの」
「こちらの香草焼きも絶品です」
今までの街で一番美味しいんじゃないかと言う料理に大満足のようだ。
「おい、姉ちゃん! 酒が切れてるぞ、お代わりを持ってこい!」
「残念ですが、私はここの給仕ではありません」
「あっ? その姿で給仕じゃねぇとかふざけてるのか!」
食事を楽しんでいる所に、酔った男が乱入してきた。
ビースナスの服装を見て給仕と思ったのだろう。
いくらメイド服を着ているといっても給仕では無い事は見ればわかる。
相当に酔っているようで、周りの客も明らかに迷惑している顔をしている。
「はいはいはーい。私が給仕をやりましょう! さささぁ~、これをどうぞ~」
「おう。わかんてんじゃねぇか。さっさと寄こせ。がははは……ぶぼぉ」
ビースナスが対応しようとする前に、お客の中の女性が男にジョッキを差し出す。
それを男が奪う様にして取ると、飲んだ後に盛大にむせた。
「てめぇ、なんだこの……あばばばっ」
「私特製のしびれ粉入りの青汁よ。どう? 美味しいでしょ」
「ふりゃけんりゃねへ~」
男はすでに呂律も回らなくなっている。
知らない人が傍から見れば、ただ泥酔した客だ。
「この食堂には私の家のハーブを納品しているんだから、酔って店内で暴れるようなお客はお断りなのよ」
「いいぞぉ~パメラ! 迷惑な客は追い出せ~」
女性が啖呵を切ると周りの客が湧いた。
その客たちに向けてお辞儀をする。
(俺も手伝うか~。そ~らよっと!)
俺は床に這いつくばっている酔っ払いを持ち上げて、窓から外にだした。
すでに他の客にも絡んでいたようで、食堂の人が衛兵を呼んでいたようで、男はすぐに連れていかれた。
「あなたやるじゃない! うちの子にならない?」
「ティトはイリナのなの!」
「ちょっと、私のダーリンは誰のものでもないわよ!」
お姉さんはスライムに慣れているのか、俺を撫でてくる。
しかし当の俺は、お姉さんの持っている、さっき酔っ払いに渡したものと同じ色の液体が入ったジョッキが気になって仕方なかった。
(この街に来てから薬草ばっかり食べてたせいか、すっごい味が気になる)
「ティト飲みたいのなの? お姉さんそれがほしいの」
「おお! スライムちゃんお目が高いね! これは家のハーブのスペシャルドリンクだよ。当然、痺れ粉は入ってないから安心して」
そういって差し出してきたドリンクに鑑定吸収を使う。
お姉さんがスペシャルと言っていたのが納得できるほどに色々なスパイスとハーブが入っていた。
飲んでみると、前世の黒い炭酸飲料をさらにスパイシーにした味だった。
(ああ~。これは炭酸が欲しい! なかなかの味だ)
「美味しいのなの?」
「おお、良い飲みっぷりだね。最初はこの緑色と青臭い香りに警戒するもんだけど。気に入ったよ。やっぱり家の子になりなよ~」
「だ~め~な~の~」
お姉さんが明るい正確な事もあって、食事は楽しく終えられた。
「楽しい食事だったよ。じゃあ、私は仕事場に戻るからバイバーイ」
「バイバイなの~」
そうして俺たちは同じ方向に歩き出した。
「…………バイバイなの?」
「同じ方向なのか。あははは、これって運命?」
「偶然に決まっているのかしら」
結局、俺たちの行こうとしていた薬草園がお姉さんの職場だったようで、最後まで一緒だった。




