103 ブリゼの到着
ヴァネッサとジーノの結婚は、指輪の発見と共に大々的に告げられた。
決死の覚悟でヴァネッサの両親に結婚の意思を告げに行ったジーノだったが、ヴァネッサの両親はすでにヴァネッサの気持ちと覚悟に気が付いていたようで、案外あっさりと許可されたのだ。
「おめでとうー」
「おねでとうなのー」
二人の結婚式は雪の降る中で行われた。
真っ白に変わっていく世界で白い衣装の二人が女神に永遠の愛を誓う姿は幻想的だった。
失われた指輪が、巡り巡って屋敷に戻ってきて、長年支えてきた従者の指に収まった出来事は、運命をもたらした指輪の物語として美化され、あっという間に町に広まる。
その結果、町には空前の結婚ブームが起こり、雪の降る中で連日のように結婚式が行われる事態になった。
一方で、町では「ワンチャン自分でもヴァネッサと結婚できるのでは?」と息巻いていた男たちの大ヤケ酒大会も起こり、町の中に祝いと失恋の二つの酔っ払いで溢れると言う奇妙な事態になった。
「オラの来る前にそんな事になってただな」
ブリゼはその騒動の後にコムトに到着したようだが、街中の店で泥酔者がいることに驚いて治安は大丈夫なのかと心配になったそうだ。
しかも、ブリゼの知り合いの商人はヴァネッサの父親であったらしく、結婚にも驚いていた。
「ヘケ様、会いたかったよ~」
「ヘケヘケ~」
(あれ? ヘケ様って成虫の鳴き声から来たんじゃなかったっけ? やっぱり変異しているってことかな?)
レゴラがビンゼグルの幼虫の入った籠に顔を付けて再会を喜んでいる。
籠の中には、俺の作って残してきたミルベラが有り、しっかり食べているようなので、草食化で問題も起きていないようだ。
しかし、まだ危険性が解らないので、檻から出してあげられない。
「んなら、研究所にいくべな」
「うう、緊張する」
「イリナもついて行くの」
「ありがとう」
レゴラはまだ研究所への不安があるようだが、ヘケのご飯の為にも連れて行かなければならない。
ブリゼの案内の元で研究所に向かう。
研究所は町のほぼ中央にあり、レゴラが入院していた病院の施設内だった。
石造りの立派な建物の中には、他にもギルドや騎士の詰め所、牢屋まで併設されている。
「入るの!」
「待ってよイリナちゃん」
(こういう時にイリナは物怖じしない性格が役に立つね)
「なにも考えてないだけでしょー」
レゴラが中に入る事に躊躇っているとイリナが手を引いて中に入る。
「あら? 可愛いお客さんね。何か御用?」
「これなの!」
「えっと、それは?」
「ビンゼグルの幼虫だべ」
「ビ、ビンゼブッ……ごほごほっ」
「ちょっと、何騒いでるの?」
「ごほごほっ……せっ、先輩。ビビビビンゼブルですよ!」
「なにビビビビンゼブルって?…………?!……ビンゼブル! ビンゼブルですって!」
対応してくれた受付のお姉さんたちの反応は凄まじかった。
一瞬硬直したかと思うと、カウンターを乗り越えて籠を凝視する。
あまりの勢いにレゴラが籠を守るように抱えた。
お姉さんは離せそうなブリゼに目を向ける。
その眼は血走っていて、ちょっと引いてしまう。
「これが、ビンゼブルの幼虫……?」
「変異の可能性があります」
「へへへへへへ」
「先輩、なに笑ってるんですか」
「変異よ! 変異体なのよ! これはただ事じゃないは、所にいる全員をかき集めて!」
(思ったよりも凄まじい反応だな)
「ねぇ、大丈夫なのかな?」
あまりの反応にレゴラが心配になってしまったようで、籠を持つ手にも力が入っている。
ヘケもそんなレゴラを労わるように寄り添っている。
そうしている間にも、お姉さんの向かった先では、物を落とす音や物音が鳴り響いている。
しばらくすると、足を音がこちらに近づいてきた。
「ビンゼブルの幼虫の変異体はどこですか」
「所長! 落ち着いてください!」
「ティト、止めるの」
(……そうするか)
収集が付かなくなりそうだったので、ネット上にした俺の体で研究員を止める。
(おお、俺も器用になったな。これで落ち着いてくれればいいんだけど)
ネットに引っかかってもなお、鼻息荒く突貫してこようとする研究員に俺はため息を漏らした。




