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のんびりスライム道中 ~エルフの少女とのんびり世界を旅します~  作者: 千両
四章

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102/119

102 それぞれの覚悟

「これがシルトタルなの?」

(めちゃくちゃ大人しいな)


 小屋の近くの池を泳いでいたシルトタルは、かなり大きかった。

 甲羅の部分だけでも、小さめのちゃぶ台くらいはある。

 最悪、噛まれても良いように俺が慎重に持ち上げてみると、何が起きたのか分からないと言ったように、キョロキョロと周りを見回した後は、諦めたように、ぐでーっとその身を預けてきた。


(ヴァネッサが言うほどの危険は感じないんだが……)


 その気性は世間一般的な評価と同じく、穏やかだ。

 魔力探知で伝わってくる感覚も危険は無いと告げている。


(他のシルトタルがいる可能性は?)

「こんなデカぶつが居ればわかると思うわ」

「池にはいなさそうだね」

(とりあえず、こいつを連れて行ってみるか)


 シルトタルを担いで立ち去ろうとしたところで、木こりの青年が話しかけてきた。


「あんたたち、そのシルトタルの主人の知り合いなのか?」

「ええ、私たちはヴァネッサ様の依頼で来ています。このシルトタルはそのお嬢様のペットと言う話しです。なにか被害にでも合われましたか?」

「えっ、いや大丈夫だ。ヴァネッサね。……ああ、町で有名な商家の娘さんか! わかった、なるほど」


 木こりは納得したのか、手を振って俺たちを見送った後に、小屋の中に入っていった。

 シルトタルを抱えて戻ると、ヴァネッサはガゼボに居ると言うことで向う。

 お茶を飲んでいたヴァネッサは、こちらに気が付くと走り寄ってくる。


「ペットのお届けなの」

「ああ、良かった……」

(ちょっ、危ない)


 そう言ったまま走ってきたヴァネッサの手にはナイフが握られていた。

 躊躇うことなくそれをシルトタルに振り下ろされたので、俺は慌てて躱す。


「ちょっと白髪女! ダーリンに当たったらどうするのよ!」

「ナイフはダメなの!」

「飼い主だからって、それは駄目だとボクも思うよ」

「離してください!」

「お嬢様、お止め下さい。客人の前ではありませんか」

「ジーノ! だってこのシルトタルは!」


 ジーノの目を見たヴァネッサが体を強張らせたようにして、その後に力を抜いて俯いた。

 ごめんなさいと力なく言ったヴァネッサの手が震え始める。

 衝動的だったのか、自分のしようとした事に今更ながらに気が付いたのか、顔が青くなっていき、目から涙が零れる。


「あのー。返事が無かったので入っちゃったんだが……」

(あれは、昨日の木こりのお兄さん? なんでここに)

「何用ですか?」


 ジーノが警戒したように前に出て止める。

 木こりは困惑しながらも、続けた。


「実は先日、シルトタルが居た池の底でこれを見つけまして」


 木こりが見せたのは『運命の指輪』だった。

 それはヴァネッサにとって結婚相手が決まったと言うことだ。


「そんな……そんな……」

「お嬢様落ち着いてください」


 ヴァネッサが顔を手で覆い崩れ落ちた。

 自分で仕掛けたことになぜそんな反応を示すのかがわからない。

 こちらの問いかける視線をジーノはあえて無視した。


「これで結婚相手は決定しました。式の準備を始めましょう」

「嫌よ! ジーノ……ジーノ……」


 ジーノが強引とも言える様子で行こうとする手をヴァネッサが掴んで止める。

 俺達全員が理解できずに見守る中、木こりの青年が手を上げた。


「あー。悪いんだけど、結婚はできないよ?」

「なぜです? すでに相手がいるのですか?」

「いや、いないけど……」

「ではなぜ!」

「いや、アタシ女だし」

「「ええっ!」」


 女性と言われてもう一度見る。

 顔は確かに中世的が胸が……あるのか?

 木こりをしているくらいなので、腕は筋肉質で背も高く、肩幅もある。

 しかし、言われてみれば女性でも十分通用する見た目ではある。


「嘘なの! 胸がないの!」

「それは嬢ちゃんには言われたくないな」

「イリナは成長するの!」

「小娘はしないんじゃないかしら?」


 イリナの軽口によって場の空気も軽くなった。

 ビースナスがジーノに向き直って、改めて説明を求める。


「わたくしが仕組んだことなのです」

「お嬢様!」

「すべてお話しします。……私は……私なジーノを愛しているのです。でも、ジーノもお父様も歳の差を理由に受け入れては下さらない。だから、運命の指輪を使って結婚を正当化しようと思って」


 ヴァネッサは切羽詰まったように言った。

 指輪の噂を広めて既成事実を作ってしまおうとしたのだろう。

 お嬢様らしい無茶な行動だ。


「そうして、ジーノにバレないようにして強引に指輪を嵌めたのです。でも、ペットのゲーネンがジーノの指を指輪ごと食いちぎって逃げてしまって」

(それで糞として出されたものを木こりのお姉さんが拾ったと)

「失礼ですが、食いちぎった場面にヴァネッサはいらしたのですか?」

「いえ、声が聞こえて行ったら、血まみれになっていいて」


 その場面を思い出したのかヴァネッサの顔が青くなる。

 ゲーネンとはシルトタルの名前だろう。

 自分の立てた計画を潰され、執事の指を食いちぎって逃げたシルトタルに対する怒りが、いままで名を呼ばなかった理由だろう。

 返した瞬間に切りかかった理由もなんとなくわかる。

 指輪を少しでも早く取り返したかったのだ。


「ジーノ様はこの魔道具の存在をご存じだったのですか?」

「…………」


 ジーノは答えなかったが、その反応は知っていたと思えるものだった。 


「なるほど、ジーノ様は指輪ごと自らの指を切り落としたのですね。そして、町の中でも女性関係で悪い噂の無い彼女を相手に選んだと」

(そりゃ~、女性にうつつは抜かさないよな)

「下調べが足りませんでした。よもや女性とは」

「アタシは怒っていいんだよな」

「良いと思うわよ?」


 指輪を親切で届けただけで、酷い言われようだ。

 エステルも同乗したのか、木こりの方に座って慰めている。

 だが、話を聞いたヴァネッサはそれどころじゃない。


「そんな、指を切ってまでジーノは私と結婚したくないかったなんて……そんな……」


 崩れ落ちたヴァネッサだが、ジーノは支えには行けない。

 イリナとノエルが支えるが、ヴァネッサはもう声を出す気力もなさそうだ。


「もう一度聞きます。ジーノ様は運命の指輪の本当の効果を知っているのですね?」

「……はい。存じております」

「なるほど、まず言っておきます。ヴァネッサ様、運命の指輪は運命の相手を探す指輪ではございません。相手と運命を共にする指輪なのです」

「それはいったいどういう……」


 そこでヴァネッサも思い至ったのか、目を見開いた。


「そうです。その指輪はつけた相手と同時に死ぬための指輪なのです。つけた瞬間に、先に死ぬ相手の寿命に合わせる魔道具です。ジーノ様はその事実を知っていたがために、急いで自らの指を切断したのです。そして、そのことで負い目を感じさせないために、ペットに食いちぎられたと嘘を言ったのです」

「ゲーネンには申し訳ない事をしました」


 ジーノがシルトタルを撫でる。

 しかし、ビースナスの真剣な表情が事態がまだ終わりじゃないことを物語っている。


「残念ですが、指輪を早くお付けになった方がよろしいです」

「それではお嬢様の寿命を奪ってしまう」

「指輪はもう効力を発揮してしまってます。空の指輪では寿命を永遠に吸い取りつづけますよ? ヴァネッサ様を殺したいのですか?」

「そんな、ではもっと若い者に」

「無駄です。すでに指輪はヴァイタス様とジーノ様で確定してしまっています」

「そんな! そんな!」


 狼狽えるジーノにヴァネッサが立ち上がる近づく。


「ジーノ、良いのよ。私はジーノと死ねるならそれでも……。だから……だからお願い私を受け入れて」

「三十年です。私はあなたから三十年も奪ってしまった」

「良いの。私が選んだの。あなたと生きられるなら、私は後悔なんてしないわ」

「お嬢様」

「ヴァネッサって呼んで」

(愛が重いな~)


 不謹慎だがそんな事を思ってしまった。

 それは二人の事では無い。

 この魔道具を作った人物と求めた人物だ。

 魔道具を求める意味。

 この世界には寿命の違う種族がいて、愛し合い、共に死ぬことを求める事実を思う。

 イリナはエルフだ。

 イリナもいつか誰かと共に死にたいと思うことがあるのだろうか。

 抱き合うヴァネッサとジーノを見て、そんなことを思った。



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