101 ペット探しの依頼
「ヴァネッサお嬢様、依頼を受けてくださる冒険者をお連れしました」
「案内ご苦労様ですジーノ。ようこそお出でくださいました。わたくしはヴァネッサ、この度はわたくしの依頼を受けていただきありがとうございます」
「ペットの捜索とお伺いしました」
「はい、三日前にペットにしていたシルトタルが逃げ出してしまったので、その確保をお願いします」
ヴァネッサが無表情で告げる。
美人の感情の無い顔は迫力がある。
必死に感情を殺しているようだが、ペットに対して向ける感情ではない気がする。
「確保ですか……シルトタルは水辺を好むようですが、逃走経路に心当たりは?」
「わかりません。しかし、シルトタルは狂暴になっている可能性があります。お気をつけてください」
そこで一度、会話を区切る。
「ティト様、私は町の中で聞き取りをしたいと思いますが、いかがいたしますか?」
「良かったら、私の話し相手になっていただけますか?」
お菓子の乗ったお盆を持ったヴァネッサがイリナに話しかけた。
「お菓子なの! ビースナス、イリナはここで聞き取りなの!」
「まったく、本当にしょうがない小娘だわね」
「わかりました。では行ってまいります」
「俺もついて行っていいか? レゴラはここでお菓子を貰いなよ」
「構いませんが、余計なことは言わないでくださいね」
ビースナスとジュラは聞き取りに行くようだ。
そのままガゼボでレゴラも含めてみんなでお菓子を食べ始める。
盆に乗っていたお菓子はスコーンのようだ。
ジャムが掛かっていてサクサクだ。
「ヴァネッサは食べないのなの?」
「私はもう十分にいただいたわ。あまり食べ過ぎると太ってしまうもの」
「ヴァネッサさんはとっても綺麗だから、少しくらい太っても平気なんじゃないかな?」
「うんうん」
「ふふふ。ありがとう。でも子供の頃は本当に凄く太っていたのよ? 油肌で吹き出物も酷かったの。そのせいで石を投げられたこともあったわ」
「酷いねそれ! でも、今からは想像できないなー」
そこで俺はヴァネッサが指輪を摩っている事に気が付いた。
(あれが運命の指輪なのか)
「あら? この指輪が気になるのかしら?」
俺の疑問を聞いた二人が指輪を同時に見た事で、ヴァネッサも視線に気が付いた。
「探さないのなの?」
「えっ……ええ、だって五日前に指輪をわざと亡くしたのはわたくしよ? 見つけてくれた人と結婚するために」
「良いのなの? 知らない人なのかもなの」
「それは……、私が自ら選んで……。指輪が選んだ結果ですもの……」
ヴァネッサの顔は「それでも良い」と開き直っている人間がするような顔では無かった。
もっと葛藤するような、それでいてどこか諦めた淡い絶望が浮かんでいた。
「ヴァネッサ嬢様、少し冷えて参りましたので屋敷の中にお入りください」
「ありがとうジーノ」
差し出された手に手を添えたヴァネッサの視線がジーノの左手に落ちる。
ジーノの左手には薬指と小指が無かった。
「指がないの!」
「小娘! さすがに失礼よ!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。失ったのは若い頃ですから」
「あら? ジーノはまだ四十の半ばでしょう? 今も十分に若くて素敵よ」
「お戯れを。さあ、こちらえ」
屋敷に入る事は断って、俺たちも町に戻る。
ビースナスと合流したい時は、ギルドに行くようにあらかじめ決めている。
ギルドで待っていると、ビースナスが戻ってきた。
そこで、シルトタルの特徴をビースナスに聞く。
「シルトタルは亀の魔物です。水辺を好みますが陸を苦とは思いません。長生きなので大きくなりますが、本来は気性が穏やかなため、裕福な家はステータスとしてペットとして飼う場合があります」
(気性が穏やか? でも、ヴァネッサのあの感じは恐怖と言うか、怒りが滲んでいたようにも見えたけど)
説明を聞いたので魔力探知を使う。
本当にこの能力は生物を探すことに関しては最強だと思う。
広域の魔力を感じながら、魔物の魔力を探していく。
(うーん。町にはいないっぽいな)
「シルトタルがいるとすれば、町の外ってことだね」
「私の集めた情報でも同じ見解になりました。水辺の情報も得ていますので、明日にでもそちらの方に向かって見ましょう」
次の日、森の中に入り水辺をたどっていくことにする。
念のため、レゴラとジュラには宿に残ってもらった。
ジュラは来たがったが、人数が増えると不測の事態に対応できないので我慢してもらった。
町の外の川沿いを進んで行くと、そこには木こりの小屋らしきものがあった。
丁度、中から青年が斧を持って出てくる所だった。
屈強な男を想像していたが、スラっとした長身の細マッチョと言った感じだ。
「薪の購入か? 直接買いに来ても安売りなんてしないぞ。一束で大銅貨二枚だ」
「違うの! シルトタル探しなの!」
「シルトタル? アイツの事か?」
木こりが指さした先の池で、亀のような魔物が静かに泳いでいた。




