第二章 15
雨合羽を隔てて
単調に熱が流れていく
上から下へ
まるで眠っているかのような、熱運動
郁葉と並んで自転車を押しながら
諒は明日が待ち遠しいと、そんなことを思う
しかし
少しだけ、何かが重い
もっと広がっていくはずの熱がくすぶっている
まるで過去に足止めをされているかのように
未来への、明日への距離が、いつもより長い
「大丈夫かな」
ふっ、と、口にしてしまう
気になっているのは、事故のこと
自分たちの演奏が中断されたことが
未来の熱量そのもののを変えてしまったのではないかと
諒はそう、考えている
「大したことないといいけどね」
郁葉が、温かい声を出してくれる
だけれど、その熱が、今日はうまく届いてこない
それは、雨のせいでも、雨合羽のせいでもなく
きっと——
「諒くん、また明日ね
今日の演奏、とっても気持ちよかった
また明日、続きしようね」
雨が、強くなってきて
郁葉の声と、その温かさが流されていく
でも、諒は笑顔を作る
「そうだな、また明日
気を付けて帰ろうな」
手を振り合って、郁葉と別れる
気に、しすぎだとは思う
パトカーが来ていたとはいえ
それが自分たちの生活を大きく変えていくかもと思うのは
ちょっと行き過ぎだ
雨合羽の上から頰を叩き
諒は自転車に乗って家への道を帰る
雨が、本当に強い
少しだけでも避けられたらと思い、諒は公園のなかに入る
学校近くの大きな公園——中央にはグラウンドがあり
自転車でも一周するのに五分ほどかかる
グラウンドの側には背の高い椰子の木が並んでいて
その下なら
少しだけ雨から守られる
でも
ちょっと寒い
早く帰ろうと自転車を速める——が
諒は途中で自転車を止める——どうして、止めてしまったのか
違和感が違和感へと繋がっていく感覚がある
熱の、動き方がおかしい
それに当てられるようにして、自分もおかしな行動をしている
その
自覚はある
公園内の坂を登った先にある雨宿り場所に
誰かがいる——いる、だけではない
何かがおかしい
渦巻く熱が行き場をなくしているように見える
たぶん、関わらないほうがいい
何も知らず、何も見なかったことにして今日を過ごし
明日にはあらゆる熱量を元に戻して学校に行く
そのほうが絶対にいい——そう、思いはしても
諒は動いてしまう
ああ、そんな性格だよなと、自転車を押しながら坂道を登る
人が十人ほど入ることのできる雨宿り場所にいたのは
見知らぬ一人の男
まだ、こちらに気付いていない
うずくまって、唸るような声を出している
体調が、悪い——わけではない
きっと、そうではない
熱の動き方が違う
ゆっくりと自転車を押しながら、諒は男に近付く
まだ、男は諒に気付かない
うずくまり、塞ぎ込み——
震えている
雨のせい、ではない
まだ雨に侵食されていない暖かさのなかで
男の周辺だけが異常に冷たい
「大丈夫ですか」
声を、かける
男が、顔を上げる
蒼白な顔の冷たさに、諒は思わず後ずさる
少しだけ、熱量が残っている——だがそれは
これまで諒が感じたことのない
異質な、時代違いのような
そんな煤けた温度だった




