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第二章 12

部室が見えてくると

希月のクラシックギターが聴こえ

邦雅はほっと溜め息をつく

ただ音とその向こうの情景に集中している希月は

無駄な言葉の一切を切り捨ててギターを弾き続ける

それは

邦雅にとって心休まる居場所のひとつ

今日の曲は、コンポステーラ

厳かに土を踏み、こうべを垂れて祈る者たちの無心な音

邦雅の好きな曲のひとつ——いや

希月が弾く曲ならば、何でも好きになれる


ドアを開けて、部室に入る


「珍しく遅かったね」


と、希月が言葉を立てる

エレキギターを準備している現岡と

ベースを用意している多知花

ヘッドフォンをしてキーボードを弾いている希織


「ちょっと面白いものを見つけて

 まあ、気まぐれで寄り道してた」


邦雅は部室奥のドラムまで行き

いつものように適当な叩き方をする


「何かあったんですか」


多知花が乗り出すように聞いてくる


「ちょっと吟遊詩人になってきた」

「えー、元折さん歌えるんですか?」


今にもベースを落としそうな勢いで多知花が返してくる

この子は、いつも元気で言葉もまっすぐ響かせてくる

面白い子だと思う


「相手にしちゃ駄目よ」


そこに、希織の言葉が割り込んでくる

ヘッドフォンをつけて、キーボードを弾きながら

言葉だけを飛ばしてくる希織

多知花とはまた違うまっすぐな言葉、強くてしっかりして——でも

その芯は意外と弱い


「あ、ゲームの話ですね!」

「吟遊詩人といえば恋愛関係でしょー」

「えー、元折さんもとうとう恋ですか?」


興奮してきた多知花の声が、少しずつ大きくなっていく

だが

嫌な気はしない

この言葉の明るさは天性だなと思う

少し、現岡が羨ましい


「それじゃあ元折さん、俺と多知花にも何か歌ってくださいよ」


現岡も、いい言葉の響き方をする

優しくて、素直、でも

気を遣いすぎる後輩


「君たちの歌なんて甘すぎて歌えないよ」


だから、ちょっとからかうくらいがちょうどいい——いやしかし

現岡と多知花は、二人でいるとすぐに自分たちの世界を構築してしまう

互いを見合って嬉しそうに笑い合う

言葉ががっちり二人をくるんで

こぼれるものの何もないくらいに閉鎖していく

——だが

今日は、少し違う、と、邦雅は思う

二人の言葉は互いのために生まれ、呼吸され、互いになっていく

しかし今日は

言葉の行き来があまりない

喧嘩をしたわけではないようだが——


「二人、何かあった?」

「え、な、な、なな何もないですよ!」


多知花がすぐに反応して慌て始める


「郁葉って嘘つくの下手よね」


希織が細い針のように言葉を入れてきて


「そんなことないよ!」


多知花が返す——が


「いや、俺も昨日の帰りから郁葉の様子がおかしいなって思ってたんです」


と、現岡からの思わぬ言葉


「諒くんまでどうしてそんなこと言うのー」


どんどん焦っていく多知花

ベースを持つこともできないくらいに言葉が乱れ

多知花の光が乱反射し始める


「人の恋愛話を聞いて

 多知花もどきどきしたくなってきたのかな」


邦雅の、気まぐれ

もう少しからかって言葉の変化を楽しみたい

——だが


「俺も昨日の帰りに郁葉の笑顔を見てどきどきした」


返してきたのは現岡

これは、彼なりの気遣い

その言葉が多知花の乱れた言葉にどう作用するかはともかく

現岡は、包み込むような言葉を選んだ


「あー、のろけ話はいいから」


そこに、希織の言葉

針のような突き刺す言葉——でも

これは彼女なりのじゃれ合い


「もう!

 この話はおしまいです!」


それら全ての言葉を受け止めて

団子のように丸めて多知花は飲み込む

決して、言葉を切ったわけでも遮ったわけでもない

彼女は、飲み込んでいく

ベースを取って、弾き始める多知花

音が浮いていて、集中できていない

そこに

希月がギターを合わせてきて

まっすぐ続く砂浜のように情景が整い

希織がヘッドフォンを外して弾き始め

現岡もギターで入ってくる

邦雅は

時々、ドラムを鳴らす

みんなを遠くから眺めるようにして

そこに紙飛行機で言葉を飛ばすように

ドラムを叩く

音が

言葉が

聴こえてくる

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