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第二章 8 今堀死亡の前日

放課後を知らせるチャイムと同時に

教室の熱量が跳ね上がる

飛び火に気を付けながら

現岡諒は自分も負けないくらいの熱量で立ち上がるのを自覚する

ともかく

楽しい

大きな熱のなかで激しく動き回る原子や分子のように

自分も学校中を走り回りたいと思う

高校に入ってから

嘘のように世界が暖かくなった

いやむしろ暑いくらいで、でもその温度は

諒にとって喜びだった


教室を出て、弾むように廊下を歩く

それは、上下する熱運動

我慢できずに広がり続けるひとつの意志

どこまでもどこまでもと

突き抜けていく

そして立ち止まったのは

恋人の多知花郁葉がいる教室の前

目を閉じて、周りの熱の動きを捉える

郁葉の熱量は涌き出る泉のように絶え間なく周りに放射されている

諒はいつもそれを、太陽のようだと思う

太陽のようだけど、決して暑苦しくはない


「またね」


と声がして、教室から郁葉が出てくる

彼女とすれ違う女子生徒が


「これから部活?」


と声をかけ、


「うん、部活」


と郁葉は元気な熱を返す

彼女は嬉しそうに笑い

つられるように、周りの女子生徒たちも笑っていく


「お待たせ」


と郁葉が笑いかけてきて

そこから滲みでる温かさに諒の表情はさらに緩くなる

まるで熱された餅のようで

このまま二人は溶け合ってしまうのではないかと

そんなことを考えながら、手を繋ぐ


「ねえ、今日は何弾く?」

「まず昨日の続きでどう?

 今日は上手くできそうなんだよな」

「いいよ!

 今日こそ完璧だね」


熱の膜に守られているかのように

諒は郁葉との空間を歩く

外からどんな意志がやってこようとも

それが二人を裂くことはない


「あ、ねえ、飲み物買っていい?」

「いいよ、じゃあ中庭に戻ろうか」


諒は郁葉の目を見つめて

郁葉も諒の目を見つめてくる

それは、生きているという証の熱量となって

諒の体を動かす

郁葉も同じように、この熱量で足を動かしているのだと感じる

自動飯場機の前で

何を買うかと話し

二人で一緒に飲もうと言って

レモネードを同時に押す

がたん、と、落ちてくるジュースが

二人の熱量のなかへ溶けていく

蓋を開けて

郁葉が先に飲み、手渡されて

諒も口を付ける

そこには

郁葉の唇の温かさが残っている

手を、繋いで

部室までゆっくり歩いていく

日陰で冷えたコンクリートの地面が

ゆっくりと、温まっていく

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