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第一章 21

屋上のフェンスは冷たくざらついていて

その

感触が

自分という存在を際立たせてくれる——今日は

いつになく気分が落ち込んでいる


今堀拓也は、荒神瞬を待っている

誰もいない屋上

曇り空の下の生暖かい風

きっとすぐにでも、雨が降り始めるだろう

手を撫でていく風が

今堀の輪郭を浮き上がらせる

自分は、ここにいる

そして世界には

荒神潤子という人がいる

この手で、触れてみたいと、ずっと思っていた

同時に

なぜか——

触れるということの想像ができなかった

まるで幻か何かのように

触れようとしても通り過ぎてしまうような——

この世のものではないような

自分には手の届かないもののような

そんな気がしていた——いや、今も

触れられる気がしない

それは、少し恐い

荒神潤子に触れた時、自分は自分を確認できるだろうか

もしかすると

自分というものを否定することにならないだろうか


だが

諦めたくもない

自分のなかから

こんなにも苦しくなるほどの憧れが溢れるとは思わなかった

荒神潤子を見るたびに

今堀は呼吸の仕方を忘れてしまう——だから

なんとかして、この手で触れてみたい——その時どうなるかは

その時、知ればいい

もしも、荒神潤子の抱える病に

自分と世界との境界が蝕まれることになったとしても

自分はきっと

朽ちていく口で「好き」だと言い続けるだろう


背後で

ドアの開く音がした

荒神瞬と

どう話せばいいだろうか

だが彼になら

まだ触れられる

なんとかして、荒神潤子まで繋いでほしい


振り返る、今堀

風が、ぬるく足元を通り過ぎて

足裏の感触が

少しずつ、消えていく


ドアが

ゆっくりと開いて——


——そこに立っていたのは

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