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第六十八話

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 街にこっそり戻って馬を一頭回収し、ルカルーに案内されながら街を離れる。

 ポケットの中にあるのはコハナとナコのパンツ。クルルのそれはない。

 向かった先、一刻を過ぎてやっと辿り着いた場所にあるのは――。


「墓、か」

「そうだ。王家の墓だ」


 これまで目にした勇者の墓と比べても立派すぎるくらい、すげえ墓があった。

 三角錐の形をした巨大な建造物だ。壁といいこの墓といい、力がかかりすぎでは?


「帝国の威信をかけて……昔、作られた。クラリスのスフレ王国と違う」


 そういやそんな名前だったっけ。


「ちなみに帝国はなんて名前なんだ?」

「ブリオッシュ・ウェルス・ルーミリア帝国だ」


 ながっ、と思った俺の腕の中でルカルーが呆れたように笑う。


「本当は歴代の帝王の名前もつけて呼ぶから、もっと長い。短縮して島の名前、我ら狼耳族の名前、帝の一族の名前の三つで呼ばれる。まあ……魔王に征服された今となっては、ここはただのブリオッシュ、あるいはルーミリアだ」


 そっか、と呟きながらも馬を走らせる。

 近づいてくる三角錐。巨大な石を組み上げて作られたその造形物はなんとなく見覚えがあるような気がする。つうかこれ、まんまピラミッ……うっ(ry


「勇者?」

「なんでもない。それより、中に入れば神獣とやらがいるのか?」

「ああ……帝に連なる者の魂を守っている。闇夜……もっとも隔離世に近いこの地で、現世と行き来が出来るこの墓は、魂の安息と休息のための場所だ」


 ここで帝国を守っているのだ、と。魔王に征服された今では皮肉の地だ、と。

 ルカルーの声は浮かない。

 やっと墓の根元に辿り着いたから、木の幹に馬を繋ぐ。

 さあいくぞ、という時になってルカルーは立ち止まっていた。


「どうした?」

「帝位を継ぐために、次の王はここを訪れる習わし」


 それがなんだ、と思ったけど。彼女の顔があまりにも暗くて、言葉を待つ。


「魔王が現われた時、クラリスに求婚した兄が……ここを訪れた兄が、お父さまたちと戦って……みなを守って死んだ。気高く強き狼そのものになって、死んだんだ」


 ああ、そうか。


「ここを訪れ、神獣に認められて帝となったお父さまも戦った」


 神獣に認められるか、なるほど。


「ルカルーだけ、逃がされた。お前がいつか反撃し、王になれと言われて……逃げた。逃げて。逃げて。逃げ続けた」


 ルカルーは。


「……入れない。やっぱり、むりだ。ルカルーは相応しくない……兄様やお父さまに、申し訳が、ない」


 自信がないんだ。


「逃げ延びた地で、クラリスに身分を明かし助力を願おうとした。けど、魔王に唆されたペロリによって獣にされた。あの日だって、ルカルーはまともに戦えなかったんだ!」


 挙げ句、と呟く彼女は。


「勇者に救われて、お前が魔王を倒すならとついてきた。流されてばかりだ……そんなルカルーに、この墓に入る資格は……ない。神獣に、拒絶される……目に見えている」


 自信が本当にないんだ。

 垂れ下がった尻尾も、耳も。

 俯いた顔さえも……不安とおびえで一杯だった。

 もし。もし仮に、神獣から見捨てられたら。

 もう、兄と父に顔向けできなくて……怖くて仕方ないんだな。


「勇者の仲間なのに、ルカルーに狼に相応しい勇気がないんだ」


 衣服をぎゅうっと掴み、震える身体を見て……やっと。やっと、聞けたんだと思った。

 ルカルーの本音に。ルカルーの弱音に。ルカルーの心に。

 だから、そうさ。


「なにを言っているんだ、お前は」

「勇者……?」

「あの海蛇戦で、あんな化け物相手に飛びついたのはどこの誰だ?」

「あ――」

「一度落下してなお飛びついて、俺の身体をぶんなげたヤツはどこのどいつだ?」

「る、ルカルーだ」

「あんな高さから落ちたら死ぬの目に見えていたのに、なんでそんなことをした?」

「だ、って……だって。帝国の海に、あんな化け物いるの、許せなかった」


 咄嗟に出た言葉の意味を、こいつは真実理解してないのだ。


「ブリフトで率先して俺についてきて、同族が醜い姿になってるのを許せないと言ったお前はどこにいった」

「だ、だって、あれは……民が苦しめられているのに、放っておけなくて」


 ほらな。ばかだ。おおばかもんだ。


「みんなを傷つけず、俺にぶんなげて……矢面にたったお前のどこに勇気がないって? 笑わせんな!」


 愛すべきおおばかもんだ。だから、気づいてほしい。


「他の誰がなんていおうと、俺だけは言ってやる。お前の勇気が俺には必要だ。これまでも、これからも」

「――っ」

「ちゃんとそばにあった。ずっとそこにいてくれた。お前が気に掛け、守り、時にそれとなく背中を押してくれたから、ここまでこれたんじゃないか」


 こんなところで立ち止まってられない。だって。


「お前は俺たちのそばで誰より気高く狼であり続けた。神獣がどうとかしったことか、俺にとってお前は誇り高き狼だ」


 決まり切ったことだから。

 彼女に手を差し伸べる。


「いくぞ。ルカルーを神獣が認めないってんなら、俺がぶん殴ってでも認めさせてやる」

「無茶だ……無謀だ」

「それでも意地を通せば道理だって引っ込むさ。俺の世界じゃ、そういうもんなんだぜ?」


 笑ってみせた。


「……まったく」


 俺の笑いが伝わって、ルカルーが煌めく笑顔をみせてくれた。


「無茶苦茶だ。でも……好きだ、そういうの。お兄様がよくいってた、同じへ理屈を」

「行こうぜ、ルカルー」

「……ああ」


 頷いて、俺の手をしっかりと握ってくれた。

 その手にはこれまでにないしっかりとした力がこもっていたのだ。


「覚悟を抱く。胸に覚悟を――……勇気を抱く。ルカルーは」


 意志の宿った瞳で、墓を睨んだ。


「狼だ。気高き兄と父をもつ、ルナティカ・ルーミリアは」


 踏み出す足は力強く。


「勇者の仲間だ。国を救う剣になるんだ!」


 立ちはだかる壁なんて、ぶちやぶる気迫に満ちていた。




 つづく。

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