第六十七話
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俺は常に闇夜に包まれた街中の教会にいた。
隣にはルカルーがいる。他の仲間はいない。
コハナが指示を出して、みなが一丸となってクルルを助けようとしている。
そんな中で、俺の出番はまだまだ後らしいので、懺悔をしたいというルカルーについてきたのだ。
神父の前で深々と頭を垂らす彼女に誘われたのか、いつしか街の人間が集まっていた。
みなフードを外して……狼の耳と尻尾を晒す。
彼らのそれはルカルーと同じ耳と尻尾なのだ。
だから彼女に尋ねるまでもなく、コハナの指摘が真実だと知った。
頭をあげ、ふり返った彼女を……街の人たちはただ黙って見つめる。
亡国の姫君。クラリスとは決定的に異なる点、それは……
「なぜ、今更」「お戻りになられたのか」「何を企んでおる」
ルカルーが彼らの元から逃げた、という事実なのだろう。
ローブの下に着込んだ鎧を晒して、一人の精悍な顔つきの男がルカルーに歩み寄った。
彼女へと訴える。
「お隠れになったままでいてくださればよいものを、どうしてお戻りになったのですか」
痛みしかない、棘まみれの言葉。
それは彼の、いや……彼らの傷の痛みによる悲鳴そのものだ。
「……勇者、行こう」
それに答えず、歩き出そうとしたルカルーの前に男が立ちはだかる。
少女が。女が。老人が。一人、また一人。
もはや逃げることを許さぬと訴えるように……。
「なぜ。なぜ、お戻りに」
口を開く、けれど……ルカルーは何も言えずに俯いた。
思えば、一度だって彼女の心の深くに触れたことはなかったのかもしれない。
「臆病者」「国を捨て、民を捨て」「死した両親も兄さえも捨て」
なぜ、いまさらと。
ルカルーをなじるそれは願望だった。
救いを求め、未来を求め、過去を捨てられるきっかけを求める願いに他ならなかった。
「ルカルーは、ただの……ルカルーだ」
絞り出された声は、か細く。
「勇者の仲間として、魔王を打ち倒す……狼の牙だ」
誰かが叫んだ。お前が狼を名乗るな、と。
びくっと震えるルカルーを、見てはいられなかった。
彼女はクルルやクラリスと同じ歳頃の一人の女の子だ。
彼らの願望の器として成熟するには、まだまだ……足りなくて。
それを今すぐ満たし、成長させ、彼らに毅然と振る舞わせる力なんて……ないんだ。
「すまないが、俺の命の恩人をなじるのはその辺にして欲しい」
大勢が俺を睨む。教会の中はもはや人の怒りに溢れていた。
彼らの怒声が、感情がルカルーと俺のたった二人に注がれる。
一つ一つを理解し、受け止めることはできない。
ナコの村と一緒だ。
理解しよう。
こういう世界を変えるための旅だって。
「おい、女神。どうせ見ているんだろ? なら出てきてくれ!」
音のうねりの中で俺は叫んだ。
果たして……お気楽で雑で適当なくせに、俺たちの絶対的な味方である彼女は光と共に現われた。
俺の背後から、ちょっと散歩に出てきたかのような気楽さで。
「シリアスムードだから控えてたのに、なあに? どうしたの?」
見る者を必ず安心させるような力をもった慈悲深い笑顔を向ける彼女に尋ねる。
「お前って、この島国にも影響力はあるのか?」
「失礼だなー。そのもの、星を創造せり。この世界にあるいかにもな神話の登場人物ですよ? で、それがどうかしたの?」
みな光を背負う女神を見て言葉を失っている。
神父が拝み、涙を流して女神を見ているのも大きなポイントなのかもしれない。
「じゃあ……ルカルーに許しを与えてやってくれないか。定番だろ? 懺悔して、神が許すの。そしたらこいつらだって――」
「のんのん」
女神は緩やかに首を左右に振る。
「そういう頼り方は女神好きじゃないな。だから……一つだけ言って帰るよ」
俺の額を人差し指でつついて、女神の残念なところばかり見てきたからこそ躊躇うルカルーに彼女は微笑んだ。そして俺を横目で見て言うのだ。
「これはいよいよハーレムがすごいことになりそうですね。このリア充さんめ!」
じゃ、と言うだけ言って女神は光と共に消えてしまった。
「……そうでした」
女神はそういう奴でしたね。
まあ……力ある人によりかかって楽をするなって話だよな。
これは俺の……勇者であり、仲間の仕事なのだから。
「とはいえ、なあ」
微妙な空気の中で行動に困っているルカルーを見て、それから固まっている人々を見て……息を吐き出した。
「魔王は俺が倒す。国も取り戻す。その結果をもって、ルカルーを許すかどうか決めてくれ」
「な、何を勝手に!」「俺たちの怒りはそれくらいじゃあ――」
「悪い。返事は結果を出すまで保留で頼む」
戸惑うルカルーを抱き上げて、鎧に命を捧げる。
身体中に差し込まれる痛みと、力の解放による愉悦。
びしびしと音を立てて変形し、獣の形に変わる鎧で駆ける。
人々の間を抜けて、そのまま街の外へ。
鎧を元に戻して息を切らせながらも、俺は彼女へ尋ねた。
「どこへいけばいい?」
「ゆ、勇者……ルカルーは、ルカルーは……ッ」
涙ぐんで何かを言おうとする彼女は、けれど心にまとわりついた痛みや苦しみを引きはがせずに喘ぐ。
だから彼女の頭を撫でて、俺は言うのだ。
「どこへいけばいい?」
「ゆ、勇者――」
「気高いお前の涙は、流すにゃあまだ早い。何も終わってないからな。そうだろ?」
「でも、でも――」
なおも喘ぐ彼女に。
「さっさと済ませて、みんなで酒を呑もう。美味い酒を呑んで、そしたら泣けばいいんだ……俺たちのそばで、いくらでも」
笑い飛ばしてやるのだ。
「だからいこう。大丈夫だ」
震える身体を抱き締めて。
「俺がいる」
絶対に背負ってる重さから助けてやると、誓うのだ。
つづく。




