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勇者タカユキと魔王の戦い~異世界パンツ英雄譚~  作者: 月見七春
第十三章 雪山、純白、散花
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第六十四話

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 とりあえずすることないし、弓を雪の壁に向けてみる。

 ナコが手取り足取り教えてくれたおかげで弦を弾くことが出来た。

 結構痛いのな。指に食い込んでさ。

 離したら耳をびんと削られました。


「いった!? ……へ?」


 大砲が放たれるような音と共に見えない矢が放たれ、壁に大穴を開けて貫通した。


「すごいな! 耳に当てるとか素人か! って思ったけど、意外とやるな」


 耳をさすりながら「まあね」と言う虚勢が大好きな俺です。

 どうも、勇者タカユキです。なんちゃって。寒い。


「出るぞ。崩れられたらたまらない」

「わかった」


 そう言ってナコが俺の服の裾をしかと握った。

 歩き出すととことこついてくる。

 ……なんだろう、これ。ま、まあいい。鳥か何かの行進みたいで頭の悪い光景のような気がするけど、気にしている時間はない。

 さっさと出ないとこの洞窟が愛の巣(ただし死ぬまで出られない)と化してしまいかねないからな。それは困る。

 人一人が屈んで進んでやっと出られるくらいに小さくなった穴を抜け出ると、そこは一面の銀世界だった。

 遠くを見ると門があった巨大な壁が見える。それは地平線から地平線へと繋がっていて……山を下りて沿って歩けばいずれ門が見つかるんじゃね? という淡い期待を俺に抱かせるのに十分だった。

 目的を抱いて俄然気合いが入り一歩を踏み出そうとしたら、ナコに引っ張られた。

 彼女は真剣な顔で俺を叱る。


「だめ。雪が深いとすぽっと落ちてしまう可能性がある。雪山は危険なんだ」

「……ふむ」


 少し考えてみたがどうすればいいのか見当もつかん。


「どうすればいい?」

「ちょっと待て」


 俺の服の裾を離して前に出ると、ナコが両手を広げた。

 彼女が口を開く。喉から放たれるのは優しい調べの歌だ。

 けれどその言語は俺には理解不能なもので。ってことは、つまり。


「お……おお?」


 雪の至るところから淡い水色の光の球が浮かび上がり、それらは一つ一つが手のひらサイズの小さなウサギとなってナコの周囲に集まっていく。

 彼女が歌い終える頃には百匹近くに増えていた。


「……みんな。はじめましてで申し訳ないけど、頼みがある」


 屈むナコを見上げるウサギたちの目は、つぶらで……綺麗に見えたんだが。


『なんか……血の臭いがしないか?』『する。穢れた匂いがする』『どうする?』『あんまり気が進まない』


 ……結構えげつないこというのな。けどナコはちっともへこたれずに頭を下げる。


「お願いだ。力を貸して欲しい」

『まあ……血の臭いもふくめて、他のやつよりすきかも』『たしかに』『それな』


 ニコリスに比べたらマシなのかもな。


『いいぞ』『なんだ?』『なにすればいい?』


 もしゃもしゃもしゃもしゃ口を動かすウサギに「安全に山の下まで降りたい」とナコが願いを口にする。

 するとウサギたちが集まって……?


『背中に乗れ。送ってってやる』


 わあ、なんてことでしょう。

 巨大なウサギに! って……なんでもありか! まあいいけども。

 いそいそとその背にのぼってどや顔するナコに手招かれたから、俺は弓を消してウサギの背にのぼった。

 ふかふかで柔らかそうに見えて、その身体は意外としっかりとした筋肉に包まれている。

 すげえ。


『つかまってろ。おちてもしらないからな』


 そう言ったウサギが、それはもう見事なジャンプを披露するまで俺の頭にその移動方法は浮かばなかった。

 咄嗟にしがみついたけど。

 落ちるときの恐怖、海蛇の一件もありちょっと忘れられそうにない。


 ◆


 山の下に辿り着いた俺とナコはウサギに別れを告げて、壁に沿って扉を探した。

 おぼろげながらナコが地理を掴んでいたおかげで、逆方向に行っちゃいました! なんて情けない真似をせずに済んだ。それはいい。

 半日もせずに馬車を見つけることが出来た。それもいい。

 だが。


「おやまあ。生還できたんですか、意外★」


 と言うコハナ以外が全員棺に入っているのは、どういうわけだ?


「コハナ……お前の仕業か」

「違います、あは★」


 疑わしいことこの上ない。


「あー本気で疑ってるぅ。でもでも、魔物の仕業ですよ?」

「ほんとか?」

「ええ。そのせいで……棺の数、数えてみてください」

「え? ……ああ、一つ……二つ」


 あれ?


「二つしかないぞ」

「残り二人はさらわれちゃいましたぁ★」


 嫌な予感に背中を押されて、あわてて棺を開ける。

 中にいたのはルカルーとペロリだけだ。

 クルルとクラリスがいない。


「精霊が魔物に闇落ちしてぇ……中古もいい、なんて言ってたかなぁ★」


 固まる俺と不安げに黙るナコに、コハナは顎に人差し指を当てながら微笑む。


「ニコリス……雄々しい雄を立てて、二人の花嫁をさらっていきました。北の砦へ……急がないと、二人がどうなっちゃうか……ぞくぞくしちゃいますね?」


 黙ってみていたのか、となじるナコの追求をコハナはのらりくらりとかわす。

 悪魔への追求を俺は早々に諦めていた。


「棺を馬車にのせる。急ぐぞ、ナコ」

「でも、いいのか? こいつ……悪魔だろ?」

「コハナは放っておくのが一番マシな手なんだ」


 くふ★ と笑う悪魔は放置して、棺を馬車にのせて御者台へ。ナコも慌てて続く。

 手綱を引いた俺の隣に腰掛けて、荷台でくつろぐコハナを警戒しているが……正直、あまり意味はない。気持ちはわかるから何も言えないが。

 それよりも、だ。

 焦燥感に駆られながら手綱を操り、願う。

 クルル、クラリス……無事でいてくれ!




 つづく。

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