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第六十一話

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 不安が止まらない。

 御者台から後ろを見るとな?


「いい感じです、クルル! そのまま火力を維持してください!」

「正しくは温度上昇なんですけど、でも了解です!」


 クラリスが設置したツボにクルルが魔法をかけている。

 そのせいか、ツボからぐつぐつと煮えたぎる音がする。


「回し加減は……くるくるの、くるーっ」

「はい、良い感じです」


 クラリスがそのツボに棒を突っ込んでかき混ぜている。

 彼女に声援を送るのがコハナというのが……ちょっと気になるんだよな。


「なんか……胸がどきどきする匂いがする」

「おー。そんなきがするー……」


 ルカルーとペロリの顔が蕩け気味だ。

 その反応にクラリスとクルルのテンションがあがるあがる。


「良い感じです! いけますよ!」

「はい、もっと回してまいります!」


 そんな光景を前に安心しろ、というのは無理がある。

 事実、御者台に座る俺の隣でナコは居心地が悪そうだ。


「お前の仲間は変だな」


 まあ……否定はできないかな。

 馬車で移動中に何か作って盛り上がる女子三人とくらくらしている女子二人。

 意味不明だ。何してん。魔王を倒す旅の途中やねんぞ。


「不安だ……」


 決して不幸ではないあたり、悩ましい。


 ◆


 だいたい太陽が真上にのぼったあたりで、馬車を止めた。

 止めざるを得なかった。

 見渡す限り、壁。右も左も地平線まで続くその壁は、エルサレンの時のような外壁とは比べものにならないほどに高い。例えるならあの海蛇ほどの高さがあるのだ。

 白く滑らかなその壁はとても人工物とは思えないほど綺麗で立派なものだった。

 その向こう側に行くための扉はちゃんとある。目の前に。

 けど扉の前に真っ赤な髪にコハナの本性状態と同じコウモリ羽根と黒い悪魔の尻尾を生やした女性が寝そべっていた。妙にけだるげな彼女の服装は黒いドレス。

 なんだろう、あれ。


「なに、あんたたち」

「勇者ご一行だけど……そっちこそなんだ」

「見ればわかるでしょ、扉の番人」


 ふり返ってコハナを見ると「あくまで扉の番人じゃないかと」とのこと。


「倒せばいいのか?」

「やだ野蛮人。え、なに? 邪魔な人がいたらあなたたち、殺すの? 殺戮せずにはいられないの?」

「いや、えっと」


 まさかの正論に戸惑う俺です。


「目的がありました。邪魔な人が出てきました。殺しました。え? そんなんで勇者名乗るわけ? 名乗れると思っちゃってるわけ?」

「え、と……なんだろう。耳が痛い」

「どうなの」

「違いますけど」

「じゃあどうするのよ」

「……説得する?」

「悪魔の私を? なめてんの? 説得如きでどうにかなると本気で思ってんの?」


 めんどくさ。こいつめんどくさい匂いがする!


「じゃあどうしろっていうんだよ」

「あたしがなぞなぞだすから。解けた人だけ通してあげる」

「……馬は?」

「馬は素通りでいいわよ。じゃあ誰からくるの?」


 誰でもいいわよ、と言いながら彼女は指を鳴らした。

 三階建ての家の高さほどはありそうな扉が音を立ててひとりでに開くではないか。


「黙って通ってしまうのはだめなのか」


 ルカルーの素朴なツッコミに番人はめんどくさそうに言った。


「許可無く通ったら死ぬ呪いがかかってるわよ」


 野蛮人はお前じゃねえか、という言葉をなんとか飲み込んだ。

 クルルが俺の気持ちを察して背中をぎゅうううっとつねってくれたのもポイントだった。

 っていうか痛い。痛いからもう離して。


「で? どうするの?」

「「「「えっと……」」」」

「ペロリなぞなぞすきだぞ、どんなもんだいだ?」


 戸惑う俺たちの間を通り抜けてペロリが荷台で飛び跳ねる。


「あなたは……そうね」


 ごくり、とツバを飲み込む俺たち。


「おつきさまはなんでまるいのかしら?」

「それはみんながまあるいおつきさまがすきだからだ!」

「せいかい」


 ……優しい世界かな?


「ね、ねえ。なぞなぞとかいっておいて全然なぞなぞじゃないし、この調子なら楽勝なんじゃないかな?」

「そ、そうですわね。では次はわたくしが」


 クルルの小声に頷いて挙手したクラリスを番人は半目で見つめる。


「あなたは……そうね。王家にとって民とはなにかしら?」


 あれ、急に問題の難易度かわってない? とざわつく俺たちと違って、


「守り導き、けれど支え合うことを忘れてはならない血肉です」

「そう……そういう王を目指すのね。なるほど、正解よ」


 クラリスは毅然と答え、それを番人は笑顔で正解と認めた。

 マジでこれ、なぞなぞじゃない説出てきたな。

 これは楽勝なのでは?


「じゃ、じゃあ次はルカルーが」


 頭脳労働苦手そうなルカルーが恐る恐る手を挙げると、番人は少し考えてから口を開いた。


「群れの主が衰え、罪を犯した時……それを支える狼は何をするべき?」


 なんだそれ、と唸る俺とクルルの後ろでルカルーは迷わず答える。


「主を試す。乗り越えた時、ルカルーは主の力になる。だめなら群れから追い出す」

「そうでしょうね……そうでしょうとも。ええ、正解よ」


 さっぱりわからないんだけど。なぞなぞっていうよりむしろ考えの確認的な要素がないですか?

 どう出るべきか悩む俺とクルル、静観するコハナを見てナコがさっと手を挙げる。


「じゃあ……自分も」

「南の森の巫女ね。あなたに尋ねたいのは……そうね。男とつがいになり共に子を産み育むのは大自然の摂理。従う気はあって?」

「……まあ。近く食われると思っていたから、普通には憧れてたし? それが普通なら……うん。子を作り、育ててみたい」

「そう……いいわ」


 笑顔で頷く番人。正解だということだろう。


「じゃあじゃあ、私いくよ!」


 この調子なら楽勝だろう、と思ったのか。

 クルルの明るい声に顔を顰めた番人は言った。


「早口言葉を言いなさい」

「えっ」

「噛まずに三回言いなさい」

「え、え? なんで? なぞなぞ関係なくない? え? なぜに早口言葉?」

「魔法使いなら詠唱するんでしょ。なら言えるでしょ」

「そ、そりゃあ……練習はするけど」

「ならいって。あたしが面白いから」

「くっ」


 苛立ちを覚えたクルルが呻くが、手をぷるぷる震わせてこらえている。


「な、なにをいえばいいの」

「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけた」

「……えっ」

「言って」

「……本気で?」


 俺たちを見てくるクルルに誰も何も言えなかった。

 渋々クルルが口を開く。つっかえずにさらっと言えたクルルはマジですごい。

 おおおお、と拍手する俺たちに得意げに胸を張るクルル。


「じゃあ次」

「次!? ま、まあいいわ! なんでもこいってものよ!」

「実は勇者と出会った時には一目惚れで初体験の相手に決めちゃうくらいずきゅんときてたので、策を弄していたしたし、彼に抱かれるたびにはまっていく自分に気づくのが怖い。ああ……愛しているんだなあって実感する。もっと抱いて欲しい」

「…………」

「言って」

「……いや、あの」

「言えないの?」

「…………いや、早口言葉じゃ」

「言えないなら通せないわね」

「だ、えええ!?」


 顔を真っ赤にしながらぷるぷる震えるクルルに番人は冷めた顔で言うのだ。


「言って」


 みんなに助けを求めるように視線を送りまくるクルルだけれど、張り合うクラリス以外は二次被害を被りたくなくてさっと顔を背けた。


「~~っ」


 ウサミミの先まで真っ赤になりながら、クルルがぼそぼそと言った。


「聞こえない。もっと大きな声で聞きたい」


 涙目になって番人を睨むクルルだが、いっそ自棄になって叫んだ。


「実は最初に牢屋でタカユキと出会った時にはもう一目惚れしてて、初体験の相手に決めちゃうくらいずきゅんときてたので、酔いつぶしたりする策を弄してえっちしたし、彼に抱かれるたびにはまっていく自分に気づくのが怖かったの! ああ……愛しているんだなあって実感します! もっと抱いて欲しいです!」


 そこまで言い切ると今にも泣きそうな勢いで、


「これでいいかな!? いいよね!? 無理だからね!?」


 キレまくっている。やれやれ。


「まあいいわ……次、コハナは顔パスでいい」


 な!? と声を揃える女子達だが……俺は納得だ。

 悪魔で死神、そんなヤツが同じ悪魔に知られてない方が違和感。


「えぇ? それじゃつまらないですぅ」

「じゃああえて一つ聞くわ。そのぶりっこキャラ辞める気はないのかしら」

「あは! ねえし★」

「……だそうよ」


 もはや正解とか、そういうレベルじゃなくなってきてるよね。

 まあいいけども。


「最後は俺か。なんだ? なんでもこい。ああ……誰にするかみたいなの以外で」


 途中で約二名の視線を感じてそっと付け足した。

 するとそんな俺を見た番人は頬杖をついて言うのだ。


「私を笑わせて」


 白目になる俺です。


「え。え? 待って。え? わらわせ、え? なんで?」

「あなたの旅って最初はお笑い路線だったはずなのよね。なのに途中で重たい展開あって……ここらでばかなことをしてもらいたいなあ、と女神から連絡を受けているの」

「ちょ、ま、え? 女神から連絡? お前って魔王の手先とか違うんか」

「そこはファジーなのよ。あいまいなの。わかる?」

「ちっとも……」

「いいからがんばって」

「ううん……」


 腕を組み合わせる俺。


「ふ、ふとんが」

「却下ね」

「バッタが」

「却下。だじゃれとかあんまりね。どっちも今時誰も言わないし」

「ぺっぺっぺー!」

「そういう動き付きのも好みじゃないのよね」

「えすえーじー」

「歌ものや音ものもあんまり」

「ええ? ええ……じゃ、じゃあ、えっと。あっち」

「武勇伝的なのもいいかな。あなたピンだし」

「う、うううん」


 そんな急に求められても。

 笑わせる魔法とかないと無理なのでは?


「時間掛かりそうだね」


 顔にざまあみろと書いてあるクルルは涙目のままだ。

 まあ告白しろ系じゃないだけマシっちゃマシなんだが。

 実際手強そうだ。まいったな。


「みんなで向こうで野営の準備しててくれ」


 御者台からおりて、俺は悪魔の前に膝をついた。


「何か策はあるの?」


 眉間の皺を指で揉んでから、質問してきたクルルに手を差し伸べた。


「クルル、パンツ」

「……ま、まあいいけどさ」


 その場でパンツを脱ぐクルルを見てナコがびびっている。

 けどまあそれはいずれ慣れてもらうとして。


「はい」

「うむ」


 念じて出すのは大剣。

 けれど今、俺の武器として必要なのは大剣ではない。

 だからさらに念じてその形を変えられないか試す。

 果たして願い通り、出てきたのは縞模様の扇子だ。

 改めて正座し直して、俺は深く息を吸いこんでから深々と頭を下げた。


「へえ……何を見せてくれるのかしら」


 頭をあげて俺は口を開く。


「ええ、ちょいと一席――……」




 つづく……つづく!?

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