第五十九話
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「わるいことしちゃ、いけないんだぞ」
小屋を出るなりニコリスと呼ばれた一角馬にペロリがはっきり言った。
あまりにもはっきりした物言いに俺は額をおさえる。
わかる。けどそうじゃない……みたいな。あるだろ?
考えてもみろ。その馬はこの村で処女を選んでは妊娠させて、食い殺して。それを繰り返しているようなやばい精霊なんだぞ?
なのにさ。めっ! みたいなノリで怒っても、言うこと聞くわけ……
『聖女で幼女に言われては仕方あるまい』
「っておい! 言うこと聞くんかい!」
『腐っても精霊、聖なる御技を使う資格のある者には逆らえない』
「……本音は?」
『幼女おいしそうなのでついていきたい』
最低だ……最低すぎる……。
「おねーちゃんのこと、かいほーするか?」
『孕ませ食らうその理をなくそう。いい加減、十六歳には飽きてきたし』
最低過ぎて言葉もねえぜ……。
「だってさ。おねーちゃん、もうだいじょーぶだぞ?」
「あ、ありがとう……」
「これでペロリたちについてこれるな! むらも、まおーをたおすからあんしんだ!」
「う、うん」
『ナコが行くなら私もついていこう』
げんなりするナコに頭を押しつけるニコリス。
ナコの表情さえ明るかったり前向きなものなら神秘的な光景なのに。
『私の力は役に立つぞ』
「種馬についてこられてもな……正直ナコ次第だ、どうする?」
「……正直、お前から離れたかったから、だから」
唸るナコの肩を……なぜかクルルがとんとんと叩いた。
「その馬、邪魔?」
「まあ……しばらく顔を見たくない程度には」
「なら見てて」
ニコリスに一歩近寄る。クルルの接近にすぐさま馬が顔中に皺を寄せた。
『よせ、中古め。何をする気だ。近寄るな、汚らわしい!』
本気の侮蔑にクルルのこめかみがな。
はっきりと一目でわかるレベルで血管が浮き出ていてな。
「トゥス・レヘトヌ・リベラシオ!」
ぶわって、ぶわって。クルルから波動のようなものが出たよ!
全身を桜色の紋様に包んだクルルがその手に光の結晶を取り出した。
それはまるで何か白い球を打ち上げるためだけに存在する棒のような形状になっていく。
「タカユキたちが中に入ってる間からずっとずっと、」
すう、と息を吸いこんだクルルのバッティングフォームは、
「中古中古ってうっせーのよ! 処女厨はしね!」
見事な特大アーチを描いてホームラン。球はニコリスだ。
「はんっ、夢見るのは勝手だけど……理想を押しつけるのは大概にしろっていうのよ。はー、すっきりした」
「お、おう」
額を拭うきらきら笑顔のクルルに引きつり笑顔の俺です。
何も言わずに視線だけを動かして女性陣の顔を見ました。
何人もがすっきりした顔をしていました。
誰かは……敢えて言うまい。
ただ処女だなんだと、その手の話題を女子にはしてはならないのだ、と。
そう心に誓った俺です。
◆
飛んでいったニコリスの加護は村を包み込んだままだった。
霧の中、ナコの案内で馬車に辿り着いてなお晴れる気配なし。
「長く村に術が施されたから、一種の結界として定着したのかもしれないね」
「今日明日でどうにかなるわけではありませんから、お気になさらず逃げちゃいましょう」
クルルとコハナが背中を押すし、ペロリがナコの手を握って離さないので……まあ行っちゃうか。
こんな女の子一人にすべてを押しつけて安全を貪るような連中だから放置してよし! という意味でなく。ここが当分は無事なら、その内に誰かを犠牲にしなくていいような世界にしてやればいいのだ。
俺は勇者なのだから。
……お、久々に決めてる感じ?
「何どや顔してるの。手綱にぎってるんだから気をつけてよ」
「はい……」
クルルのツッコミに我に返り馬車を操って、森の中を北へ進む。
特に理由もなく……って、いい加減突っ込まないといけないよな。
「今進んでいる方向であってるのか?」
「コハナが何も言ってこないし、魔王の力を感じるからあってるんじゃないかな」
「……感じるって、だいじょうぶなのか?」
「名残だね。人じゃなくなりかけた……まあ大丈夫、じゃなくて! えっと……」
ちらっと後ろの荷台を見てから、クルルが俺の身体にすり寄ってきた。
「たまにはくっついてたいかな」
可愛いこと言うなあ、と思っていたら、反対側からも柔らかい身体が寄り添ってきた。
まあ確認するまでもないな。
「クルルだけはずるいです」
クラリスだ。
「御者台はクッションついてないから、お尻痛くなっちゃいますよ?」
「なのでクルル、荷台に戻る時は一緒です」
にこーと笑顔で牽制するクラリスにぷくーっと頬を膨らませるクルル。
「仲が良いな」
呆れた声が荷台から聞こえてきた。
俺の肩に両手を置いてきている。ばいんばいんの乳が後頭部に当たる当たる。
「あっ」「ちょっと」
「今の獣道を真っ直ぐいくと、途中で二股の木が二本ある。真ん中の道を直進だ」
「「うぐう」」
荷台から前を見つめるナコが道案内をするので、安易にくっつくなと言えない女子二人。やれやれ。
「む、胸を押しつけるのはよくないと思うな!」
「ゆ、誘惑はいけません! こんな日の出た時間に!」
クルルにクラリスよ。
二人に言いたいことは山ほどあるんだが。
「ああ……そうだった」
何かがぼと、ぼと、と落ちる音がした。
「ニコリスが嫌がるだろうから入れてたけど、もういらないんだ」
ふり返ると、ナコの乳が小さくなっていた。
彼女の足下には袋が二つ。ちょうど元々のナコのおっぱいのサイズにぴったりの袋が。
「これを……こうして、こうか」
衣服を直す彼女を改めて見る。
首元で留めた白い布地のそれは、首元から胸の下までを包んでいる。その布地から切り替えるように、濃紺のコルセットスカートがその身を包んでいた。背中や肩口が露わすぎる。
身体を挟む弓の弦が薄くけれど微かに主張する柔らかそうなちっぱいに斜めの記号を作っていた。ないちっぱいすら……。
主張する女子が多い俺のパーティーにおいて、ナコのそれはある意味で肉体美を際立たせる倒錯的な曲線を――……
「「うっうん!」」
二人分の咳払いがして我に返る俺の前で、彼女は聞き取れない言語で何かを囁いた。
その瞬間に彼女の赤毛が青白く染まっていくではないか。
「わあ」「綺麗です……」
それには思わずクルルとクラリスも見とれている。
二人の反応に照れたナコはあわてて口を開いた。
「ニコリス対策だ。青髪が好きなんだよ、あいつ……あと、勇者。そんなにじっと見んな」
ぷいっと顔を背けて荷台の中へ戻り、ルカルーとペロリに話しかけにいく。
お尻がこちらに向いていて、だから純白の地味だがそれがいいパンツが丸見えでした。
「「うっうん!」」
二人分の咳払いがしたのであわてて前に向き直る。
「……強敵出現?」「それは困ります」
作戦会議だと一致団結をみたクルルとクラリスが荷台にいってしまって……結局は俺一人、御者台で手綱を握り続けるしかなくなってしまった。
「とほほ」
ちらっと白馬が俺にふり返って心配そうな目をするし、黒馬は鼻をふんっと鳴らした。
……そんなリアクションするなよ。頼むから。
つづく。




