第五十四話
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ルカルーの身のこなしは間違いなく俺のパーティーで一番凄かった。
あちこちから四つ足で疾走してくる魔物たちの懐に飛び込み、空へかちあげる。
そして俺がさばける限界手前の数を定期的に蹴り飛ばしてくる。
だから俺はそいつらを斬って斬って斬りまくれば済んだ。
大剣の軽さは相変わらず、けれどその威力は確実に増している。
何かをぷちっと潰す程度の手応えで、魔物にしている力の源を確かに断ち切れるのだ。
おかげで満月が雲に隠れる頃には事が済んでいた。
それなりに息があがったルカルーと俺はお互いに歩み寄って手をたたき合わせる。
昂ぶった身体の興奮に浮かぶ笑顔は全開で、だからルカルーから漂う濃厚な女の匂いに頭がくらりときて。
それはルカルーも同じで、お互いに言葉を失って見つめ合っていた時だった。
「待って! 待ってってば! そこ! そこの空気おかしい!」
「今の段階でこれ以上増えるのは困りますーっ!」
あわてて割って入ってきたのがクルルとクラリスだった。
見ればペロリと手を繋いでコハナも宿から出てきていた。
港からは武器を手にしたジャックやリコたちも恐る恐るの顔でやってきていた。
「残念……邪魔が入った」
全然残念そうじゃない笑顔で呟くと、ルカルーは「気分転換に泳いでくる」と言って立ち去ってしまう。
まあ……いいか。俺も冷たい水を浴びたい気分だったけど、それは後に取っておこう。
「ペロリ、そこで倒れている街の人の治療を頼めるか」
「おー、いいぞー」
「ジャック、頼みがある」
倒れている人たちに駆け寄るペロリを横目に「なんだ」と聞いてくれた海賊の船長に「街の様子を確かめたいんだ、手を貸してくれ」とお願いした。
クラリスもあわてて館からやってきた騎士達に「状況の確認を」と命じる。
手分けして街を歩いてみたけど、子供と老人も含めて街の住民みんな俺とルカルーで対処出来たみたいだ。特に怪しい兆候はなかった。
いっそコハナみたいな悪の権化が「ふははははー、勇者、やるではないか」とか言って出てきてくれたら楽なんだけどな。
有力者の館に作られた対策本部で報告を聞いたクラリスは苦い顔で言うんだ。
「魔王は人の神経を逆撫でして遊ぶきらいがあります。これも……勇者様が来ることを見越した嫌がらせの一つに違いありません」
「俺らがクルルの問題もなく滞在してなければ回避できた嫌がらせだけど、それは?」
「それならそれで、くらいのつもりなのでしょう」
……。なんだろう。ぱっと、あの雑な女神が頭に浮かんだのは。
もしかして魔王も、雑? いやいや、まさかそんな。ねえ?
「ともあれ真実の意味でブリフトの闇は晴れたと思います……コハナさん?」
「皇女さまの仰る通りかと」
ウェイトレス姿からいつの間にかメイド服姿になったコハナが笑顔で頷く。
あれかな。契約したコハナが皇女に付き従う体裁を整えるために着替えた、みたいな。
でも童貞を殺す気満々の胸のところが柔らかそうな布地で、そこから下は切り替えたコルセットスカートデザインはどうかと思う。一目でわかるぞ。よく見るやつやん。
悔しいのはそういう服装に包んだことによってコハナの全開のエロさが逆に増しているところだ。くっ、ちょっとその服のコハナとするのが楽しみだなんていえない!
「こほん」
クラリスの咳払いに光速で我に返る俺です。
「船旅が厳しい方のためにも、避難を最優先するよりも……家畜などを連れてきて、騎士団の人員を配置する方がいいかもしれないわね。クルル、なにか策はあるかしら?」
「いえ。皇女の命に賛成です。以前目にした交易の目録の記憶によれば、確か……」
クラリスに声を掛けられたクルルがこめかみに指をぐりぐりと押し当てて、不意にぴんと閃いた顔になった。
「ええ、そう。我が王国の豚はこちらの島国の種との交配種ですし。牛も同じ種だったかと思うので、あまり危険な問題にはならないかと。あとは、強いて言えば」
腕組みをして椅子に腰掛け、テーブルに足をのせているジャックとリコを一瞥。
「漁業の再開、あとはここまで街をもたせた農業をもっと整備すれば当面は問題ないかと存じます」
「土壌の確認と種芋の手配を」
クラリスが言うなり、王国からきたじいちゃんたちがうなずき合う。
「それでは今日はこれにて閉幕といたしましょう」
◆
さっきのやりとりを見てさ。
正直見直したの。クラリスはもちろん、クルルのこともだ。
街を救うために具体的な話をしあえる二人はお互いを認め合っていたし、建設的に行動できていた。
あの場では俺に出来ることはないから、いっそ尊敬したといってもいい。
にもかかわらず、だ。
「クラリス、これは?」
宿の一室で小瓶をにこにこ笑顔で差し出すクラリスに尋ねる。
「コハナの知恵から得て待ち時間に作った精力増強剤です。一夜絶えぬ精力をあなたに」
恐る恐る受け取る。そして部屋を見渡した。
薄い光の膜が部屋の中を包み込んでいた。
「クルル……なんで昨日と同じ魔法を?」
その膜を魔法で生み出したクルルに尋ねる。
「ペロリやルカルーに聞こえたら悪いかと思って。あと今夜はコハナに入ってきてもらいたくないし、その対処かな」
笑顔で仰る。
改めてクラリスとクルルを見た。
クラリスは黒を基調にしたぴったりと身体を覆う透けたランジェリー。
クルルは白を基調にふんわりと広がる、これまた透けたランジェリ-。
どちらにせよ身体のラインを扇情的に浮かび上がらせるそれの用途は寝巻きなどではない。
男をその気にさせるための衣装に違いなかった。
「……今晩も?」
「「今晩も」」
笑顔で頷く二人。
クルルは唇の端とこめかみが引きつってるし、クラリスは無邪気に笑っているし。
「またいつぞやの対決みたいなノリ?」
「いいえ……宣戦布告はされましたけど、これから冒険についていくんです。仲良くしたいなあって思いまして」
にこにこそう言えるクラリスは良い子。
「……差し伸べられた手をはねのけるほどひどい女じゃないから。私も。クラリス様のことが嫌いなわけじゃないし」
笑顔から一転、ぶすっとしながらもクラリスと身を寄せて譲歩出来るクルルも良い子。
「だから、そのう……前回は競うことに夢中だったので」
「今回は三人で仲良く出来ないかなって」
……まあ。うん。
仲良くしてくれるなら、それに超したことはない。
そっかー……。
「それで、精力剤と遮断の魔法か」
「そういうこと」「なので、飲んでいただけますか?」
はあ……。
長い長い本を読み終えて、クルルを人に戻して。
クラリスとも仲良くして……今日くらいは普通に眠れると思ったんだけども。
そうか。そうか。
幸せな悩みだな。うん、わかった。
「よおし、がんばっちゃおうかな!」
いっそ自棄だ。
ぐいっと小瓶の中身の液体を飲み干して、俺は二人を抱き寄せた。
今宵は宴じゃあああああああ!
つづく。




