第五十三話
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夜になって俺は街の料理店でクルルとクラリスに挟まれていた。
「勇者さま、このあたりの名産の野菜スープです。少しぴりっとしてお酒にあいますよ、ぜひどうぞ」
「ねえタカユキ、海蛇を干して焼いたこの蒲焼き、すっごくおいしいよ? ほらほら」
「「あーん」」
左右から笑顔とこめかみに浮いた血管による二人の女子の圧力が。
「覚えておけ、ペロリ。あれが修羅場だ」
「おー……たいへんそうだな」
向かい側で自分たちのペースでご飯を食べているルカルーとペロリに混ざりたいし。
「お酒があいてますよー」
飲むしかない俺のジョッキに泡酒を笑顔で注ぐコハナは俺を潰す気だ。色んな意味で。
「なあ、ク――」
「なんですか?」「なにかな?」
……一文字目で二人とも反応するからもうね。胃がキリキリする。
「二人とも。自分で食えるから、大丈夫だから」
「ええ、でも美味しいですよ?」「そうやって逃げる気かな?」
育ちの差が出てるぞ。クラリスの純粋な善意が問題ないかといえばそういう話でもないし、本質を捉えてつついてくるクルルは矛を収めて欲しい。
「えー……この米に蒲焼きをのせて食べるとうまし」
クルルが差し出してきたそれを俺の米の皿にのせる。
ふふんと笑顔になるクルルはそのままに、クラリスが差し出してくれたスープを米にかける。
「刺激的な味のスープをかけるとなおさらうまし。これを俺はたべる」
「「「「うまくかわしたつもりか」」」」
四人の女子がはもった。
……誰だ? 視線をあげたらみんな素知らぬ顔してご飯を食べていた。
やれやれ。
「それはそうと……街の方の様子がおかしいのです」
「ん? そうか?」
クラリスの言葉に周囲を見渡した。
ブリフトに来てから何度も訪れた飯屋でいつもはそれなりに混んでいるんだが……今日はどうも客入りが悪い。
少ない客みな、妙に血走った目をしているようにも見える。
「確かに……なんか変だな」
「満ちた月を見ると血が騒ぐ。ルカルーと同じ種だから、わかる……明日は満月、そのせいではないか」
意外な人間からの意外な情報だった。
「ううん、でも……気がかりで。我が国の船を使った避難を見送らせているのです」
クラリスは頬に手を当ててため息を吐いた。
「何も起こらなければいいのですが……」
◆
結論から言おう。
もちろん、何かは翌晩に起こりました。
「魔物が出ないわけだよ」
宿の中から窓の外を眺めて俺たち一行は苦笑いだった。
魔物化したルカルーとそっくりそのまま同じ魔物たちが町中を闊歩しているんだ。
「ペロリなにもしてないぞ」
わかってるって。
幼女の頭を撫でながら俺はルカルーを見た。
いつもと変わらぬ姿で、マイペースにベッドの上で膝を組んでいる。
空には満月。けれどぱっと見ではルカルーはいつもと大して変わらない。
なら、この街の現況はなんだ。原因は?
「よくない魔力を感じるかな。魔王がこの街全体に呪いをかけたと見てもいいかも」
「おねーちゃんのいうとおり、ちくちくしたかんじがするぞ」
うちのパーティーの魔法使い隊が言うなら間違いないだろう。
「どうします? 斬ります?」
笑顔のコハナの案に「さすがにそれは」と難色を示すクラリスなんだが。
「それでいくか。クルル、パンツを」
「ゆ、勇者様? けど街の方に罪は」
「大丈夫だ、クラリス。俺の武器は命を取らないみたいでな。魔王の力だけ斬ってみせるさ」
みんなが俺を見ている間にいそいそとパンツを脱いだクルルが「はいこれ。大事にしてよ」そっと丸めて手渡してきた。
「で、ではわたくしのも」
「いや、対抗意識もやさなくていいから――」
うるる、と泣きそうになるクラリスを見てひやっとしたので、言葉を選ぶ。
「……ここで俺の無事を祈っててくれ」
「わかりました」
頷くクラリスの頭を撫でて、クルルに一言「行ってくる」と告げた。
いってらっしゃいの声はクルルとクラリスから。
元の世界で二股三股をどうどうとやって許されてる人間について、もっと知っておけばよかったと後悔する。まあ記憶失っている俺に有効ともおもえないけどな。
モテ力とか、女子との付き合い方のうまさとか。女心をわかってるとか。
そういう何かが欲しい。それを聞ける相手は残念ながらいないのだ。
やれやれ。
◆
「で、なんでついてきた?」
隣を見ると、ルカルーがいるんだ。
その手の爪を伸ばして静かなやる気を瞳に宿している。
「同族の醜い姿は哀れだ。勇者の手伝いをする……ルカルーは勇者の仲間なのだから」
「そっか」
「……そうだ」
義理堅いな。そういうの……結構じんとくるたちだぞ、俺。
拳を掲げるルカルーに自分の拳を重ねて、息を吐く。
手に巻き付けたクルルのパンツに念じて大剣を取り出した。
「じゃあいくぞ」
「ん」
俺の言葉に頷くと、すうううっと息を吸いこんだルカルーが吠えた。
「URWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
狼の気高い雄叫びが満月の夜に響き渡る。
それは紛う事なき開戦の合図だった。
つづく。




