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勇者タカユキと魔王の戦い~異世界パンツ英雄譚~  作者: 月見七春
第十一章 ブリフト、天使と悪魔
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第五十一話

 51------>>


 


「なんだか空を灼きたい」


 もうやめて。ほんとやめて。ルカルーの背中で物騒なことを言い始めるんだよな。


「魔王のいる方に照準向ければ一石二鳥だよね」


 笑顔で言うのやめて。お前そういう子じゃなかったじゃない。

 なんて冗談でも言えないくらい、クルルの声はマジだった。


「う、うううう」


 だからクルルを背中にのせたルカルーの顔色が悪い。

 尻尾もずっと下がっているけど、気持ちはわかる。俺も怖い。

 だから……


「やっほー、タカユキ」


 歩いて行く先に女神を見つけた時には泣きそうだった。

 思わず呼ぼうとして……その視線が彼女のお尻の下に。

 女神は何かに腰掛けているのだ。

 近づいてみれば、女神の放つ光に照らされた何かは本の山だとわかる。

 埃の匂いがひどい。だからなのか女神の笑顔も引きつっているんだが、なんだ。なんのつもりだ。


「あの悪魔、見覚えのある死神じゃない? で、魔法使いになされた契約を調べてみたわけ」


 お、おお。珍しく仕事してる! 仕事してるぞ、この女神が!


「そしたらまあ……これが出てきたのよ。女神と人間の天使契約法、全百八章」

「多すぎじゃね」

「そう、多すぎなの。でもこれを読み解けば、契約解除の方法がわかるんじゃないかと思うわけ」

「お、おお! それじゃあクルルは」

「元に戻せる。怖いでしょ、今のその子」


 ぶんぶんぶんぶんと首を縦に振る俺とルカルー。


「元のその子に戻って欲しいでしょ?」


 またしても首を(ry


「だからがんばって読んで。タカユキにも読める文字にしといたから」

「え」

「じゃ、そゆことで」

「待て待て待て待て! え、それだけ?」

「それだけもなにも、十分でしょ」

「いや……え? 百八冊持ってきて? ぜんぶよんでなんとかしろ?」

「だってあなたの恋人なんでしょ?」

「う、ぐ、ぬう」


 言い返せない。


「お、お前の持ち物じゃないのかよ。こう、ぱっとわからないの?」

「随分昔のだからさー……正直覚えてないんだよね。てへ!」


 女神といい死神といい、どいつもこいつも……!


「あ、海蛇倒して強くなった今のタカユキならこれ持ち運べると思うから。じゃ!」


 しゅんって。しゅんって消えやがった。


「ねえタカユキ……だめな人しかいない街を灼きたい」


 ああもう、わかった! わかりましたよ! 読めばいいんでしょ、読めば!

 くそ……。


「ゆ、勇者、大丈夫か?」

「すまん。ちょっと光明が見えて泣きそうなんだ」


 ふざけんな、なんて言う資格はない。

 なんとか解決したら、女神にお礼くらいは言おう。

 確かにクルルの問題は俺がなんとかしないとだめだと思うから。


 ◆


 宿に戻って一章目を開いた時点で俺は顔をしかめた。


「……頭痛が止まらない」


 あの女神の雑さをよーく思い出して欲しい。

 そんなヤツがまともな契約書を作れると思うか?

 しかも百八章って。そりゃあ契約書っていうくらいだから相応の長さになるだろうけれども。

 長すぎるだろ。いい加減にしろ。

 記述にしてもひどい。


『第一章、第一項。なんて書けばいいかわかんない』


 もうね。ばかかと。あほかと。

 じゃあ読み飛ばせばいいかと思いきや、たまにしれっと、


『天使になる途上で乙はその本性が露わになるんじゃね』


 とか書いてある。ちなみに乙ってのは人だ。甲は女神である。

 要するにちゃんと読まないといけないのだ。

 俺が読める文字にしたせいでルカルーもペロリにも読めない書類になってるから、もー。

 やんなっちゃう。ってオカマかよ。

 ベッドに腰掛けてしんどい顔して読んでる俺の背中にクルルは腰掛けて、退屈そうにしている。物騒なことをたまに呟くのが怖いので、ルカルーに頼んで酒樽を持ってきてもらった。

 今は相変わらず俺の背中に腰掛けてジョッキでぐびぐびいってる。

 本性が露わになるならクルルには破壊衝動と飲酒衝動があるわけか。

 ひでえ。でもまあ……若くしてのしあがったせいか、陰口たたかれたりして鬱屈した人生送ってたみたいだからな。わかるっちゃわかる。

 まるで仕事に疲れたOL、もしくはキャリアなんだけど地方でいびられてるみたいな……うっ、頭が。


「あー……もう」


 眉間の皺をほぐして本に視線を戻す。

 ペロリがたまに顔を覗かせては俺の疲労を回復する奇跡を使ってくれるんだが、動力はこいつの体力だとわかっている今、あんまり頼りたくない。

 幼女に無理はさせられないだろ。常識的に考えて。

 ランタンの火がゆらめいて、目がちかちかする。

 視線を足下に落としたら……膝を組んだその隙間の闇からコハナが俺を見ていた。


「な――」


 しぃーと人差し指を立てるコハナ。

 どう見てもお前が存在するだけのスペースはないんだが、どういう理屈なの?


「闇を覗くとき、闇もまたあなたを覗いてる……なんちゃって」

「やかましいわ」


 ツッコミをいれたら楽しそうな笑顔を見せて……またただの暗がりに戻った。

 死神っていうだけあって、しぶといな。っていうかそもそも死なないのかもしれない。


「お酒くれないお店は燃やせばいいと思うの」

「あのな……やめてくれ」


 ほんと、クルルはいろんな愚痴をためてそうだな。

 天使に近づけば近づくほど、ひょっとしたらクルルは闇を吐き出しているのかもしれない。

 でも理屈がわかると……こいつのそれは酔っ払ったオッサンの「会社なんてふきとべばいい」みたいな愚痴にしか思えなく、うっ(ry

 まあとにかく……もう少し辛抱強く付き合ってみるか。


 ◆


 後半にいけばいくほど適当になってくれれば楽だし、思いついて最後の方から契約解除の項を探してみたけれど見つからず。

 要するに一週間かけて頑張って読み切りましたよ。

 その最中もクルルへの酒樽の献上は止めるわけにもいかなかったし、隙さえあれば俺の影を通してコハナがくだらないジョークを言いに来るし、疲れてもうだめってなった頃に女神が空から顔を覗かせて進捗を聞いてくる。

 俺もうね。すごい頑張った。

 妙なのに好かれてるなあ、はは、って笑えるくらいには達観した。

 最後の一冊を読み切って倒れた俺に膝枕をしてくれたのは……なんとクラリスだ。

 一度港に戻ったジャックが連れてきたのだ。あいつ曰く「潮の調子がよくてな」とのことで、往復で十日かかるはずなのに一週間で戻ってきやがった。まあ……オールで頑張ってくれた可能性もあるが、そこを掘り下げるのは野暮だろう。


「お疲れさまでした」

「マジで疲れた」


 あんまりクラリスに甘えるわけにもいかないので、早々に身体を起こす。

 ペロリとルカルーも部屋にいたしな。

 ちなみに膝枕を見たらキレそうなクルルは酔いつぶれて高いびきである。

 今のこいつは目が見えないけども。

 まあ、うん。逆にほっとするからいい。

 それはそれとして。


「それで、わかりましたか?」

「天使についてはだいたい理解した。まあ……早い話が」


 クラリスの問い掛けにそこまで言ってから……我に返った。

 見目麗しい皇女のクラリス。野性味溢れる美しいルカルー。美貌に育つと約束されているペロリ。みな女子である。特に一人は幼女だ。

 三人を前に……言うべきことか悩む。そうだな……よし。


「ルカルー、ペロリの耳を塞いでもらえるか」

「えーなんでー、おねえちゃんをもどすほうほうきになるー」

「悪いペロリ、お前にはまだ早いんだ……ルカルー、頼む」


 唇を突きだして文句を言うペロリにルカルーが言う通りにしてくれたので咳払いをする。


「それで、だな」

「「それで?」」


 女子二人に赤面しながら告げる。


「孕ませればいいそうだ」

「はら」「む……」


 ああ、と手を合わせるクラリスは察しが良すぎ。


「何かの冗談か? それとも勇者はたまっているのか?」

「いや、うん。ルカルーの指摘もわかる。俺も見つけた時は脱力した。どんどん流し見になっていったとはいえ百八冊に付き合わされて脱力はした。我ながら奇跡の読了速度だった。速読術を掴んだとしか思えず、その上で奇跡の速度だった」


 それはさておき。喋ろうとしたらクラリスが笑顔で口を開いた。


「天使は穢れを知らず、人や現世のくびきから解き放たれた……いわば人には触れられない存在です。そんな天使になる途上でもし、現世の生き物の宿命であり本能でもある繁殖を行ったら?」

「……まあ確実に子供ができないといけないらしいんだが。それで人間側の契約不履行ってことで、解除されるんだそうだ」


 クラリスの説明を引き取って結ぶ。


「でも勇者さま。そうするとクルルの魔力はどうなるのでしょうか?」

「それは――」


 正直わからん、と言おうと思った時でした。


「いつの間にか船に乗っていつの間にか戻ってきたこのコハナが説明しましょう!」


 ばん! と扉を開いてコハナが戻ってきたのは。

 お前かよ! と突っ込みたい気持ちをぐっと我慢して、先を促す。


「なんだ?」

「魔物でも天使でもない強い力を持った人間、それはどんな存在でしょうか?」

「要するにわからない、ということかしら」


 く、クラリス……言うなあ!


「ところで勇者さま、こちらの方は?」

「あーその。あくまでウェイトレスの死神のような女ですよ」


 だいたい合ってるだろ?


「ひどいですぅー!」


 コハナ……お前も悪のりしなくていいから。


「まあわかんないですけど……コハナの見立てでは、魔物と天使、二つの要素が混ざりあった過去に例を見ない魔法使いが誕生するとみています」

「ウェイトレスさんがなんでそんなことおわかりになるんです?」


 いいぞ、クラリス! もっといってやれ!


「それはあくまで秘密デス!」


 ちい! わざわざきら星とかいいそうなポーズ取りやがって!


「このまま契約を解除してクルルに問題はないのかしら」


 スルーするクラリスは相当いい神経してるよ。

 伊達に皇女をやってない。さすが王家の器だな!


「身体に悪影響が出ているのはあくまで天使化のせい。強すぎる魔力を宿せる器の持ち主だから、問題はないと思いますよ?」


 純粋に心配するクラリスに流されてもめげないコハナもコハナだ。

 あと……こいつの「あくまで」というフレーズは怖い。もう痛いくらいに身に染みている。

 とはいえ、だ。


「元のクルルに戻るはずだ。少なくとも人のクルルに」


 それが俺の中での結論だった。


「なあクラリス。前に俺に使った薬……覚えてるか?」


 どうだろう、覚えているかな。

 クラリスと一発やった時のことだ。


『王家の媚薬……です。確実に……出来てしまう、薬』


 そう言ってクラリスが俺に口移しで飲ませた水差しに入ったあの蜜のような液体。


「もちろんです……本当なら、わたくし用のつもりでしたが、コホン。ええ、持ってきておりますよ」


 さらっと怖いことを言われたけど、笑顔でスルー。

 小さく細長い薬瓶をクラリスから受け取った。


「どうぞ……効果は折り紙つきです」


 お腹に触れて微笑むクラリスに固まる。

 ルカルーが信じられないものをみるような顔して俺を見た。

 わかる。けどそんな目でみんな。


「お、おまえ……スフレの皇女を妊娠させるなんて、なんてことを」

「わたくしが襲ったのです」

「……恐ろしい、やつだ」


 がくがく震えなくていいから。


「なあクラリス……確認なんだが、マジで出来たの?」

「もう……生理がしばらく来てないんです」


 破壊力が絶大!


「わたくし、周期は乱れたことがありませんの」


 追い打ち効果絶大!


「わ、わかった……とにかく、これでクルルを戻す」

「……すごい方法だな」


 言わないで、ルカルー。


「んぁー!」


 のけ者にされていい加減、我慢の限界がきたペロリが両手をあげてルカルーの拘束をといた。


「で、おねーちゃんたすけるためにどうするの!」

「子供を作るそうだ」

「なんで?」


 ペロリの問い掛けに誰も何も言い返せませんでした。

 コハナだけは良い笑顔で俺を見ていた。そんな顔してみんな。頼むから。


 ◆


 いざ実行! ということでみんなが出て行く中、コハナが近づいてくる。


「いいですねえ。楽しいですねえ。酷い目にあってますねえ」

「あのな……お前は一体なにがしたいんだ」

「あなたの人生、はちゃめちゃにしたいデス★」


 ほっぺたをむにーっと押してくるのが面倒くさい。


「皇女と王国一の魔法使いとの間に子をなす。いよいよ元の世界に戻れませんねえ」

「戻る気ねえよ、今更」

「じゃあじゃあ、もっともーっと……いろんな目にあわせていいですか?」


 俺に抱きついて甘えた声を出すこいつは正真正銘の悪魔だった。


「一つだけ確認させろ」

「なんですかぁ?」

「クルルが助かるかもしれない、そんな結末がわかってて……行動したのか?」

「予想よりだいぶいいですねえ。あの駄目な女神が重たくておっきなお尻をあげて、あなたのために頑張ったりぃ」


 腰の上に勝手に座って身を寄せてくる。

 くやしいくらいに良い匂いがするけど、油断したら破滅させられる匂いだ。


「あなたが解決方法を見つけてくれたり。皇女さまが心配になってきて、あなたに方法を授けたり……」


 俺の首に腕を巻き付けて、口づけする寸前まで顔を寄せて囁く。


「最高です。コハナ、男を選ぶ直感だけは自信があるんです」

「悪魔で死神のお前に言われてもな」

「女神と死神の太鼓判ですよ、あなたの素質は」

「……そりゃあ大盤振る舞いだな」

「期待してます……ん」


 口づけの甘さも、全身を蕩けさせるような愛されボディの心地よさも全部。


「じゃあ、がんばって励んでください★ 隣で聞き耳たててますから★」


 うまく付き合わなきゃいけないんだな。

 死なず、付きまとうのなら……いいさ。


「クラリス達には手を出すなよ」

「約束できませぇん」


 くふ、と笑って立ち去っていった。

 やれやれだ。

 さて……。


「ぐがー……ぐがー」


 もっといい寝息の立て方があるだろうに、もう。

 でも、起きてる時よりも酔いつぶれてる今の方がやりやすそうだ。

 ……いや待て。それはさすがに人として問題だろう。

 クルルを揺さぶり起こす。


「おい、起きろ……頼むから起きてくれ」

「ん、んん……なに、魔法つかってもいいの?」


 やだもう、のっけからこわい。


「クルル、愛してる」

「……タカユキだけしかいない、みたいだね。うん。私も愛してるけど、どうしたの」

「俺の子を孕んでくれないか」

「タカユキ……燃やされたいの?」


 まあそうなるよな。


「冒険中だよ。魔王を倒すまでにそんなことして、私が旅についていけなくなったらどうするの」


 正論! ぐう正論!


「孕めば済むんだ。そうして……元のお前に戻ってもらいたい」

「それ全部タカユキのわがままだよね」


 うぐう。


「……すごい気分いいの。どんどん強くなってる気がするの。だからやだ」


 ここへきて最大の壁。まさかのクルルNG。

 いや、これは俺の話し方が悪いせいだな。えーっと。


「このままいったら天使になる。そしたら俺ともう二度と会えなくなるみたいなんだぞ」

「それは……やだけど」

「目も耳も聞こえなくなって、きっと何も感じなくなるんだぞ」

「……困るかも。タカユキがわからなくなるは、やだ」


 お。


「今のまま魔法を使ったりしてたら、そうなるんだ……俺は嫌だぞ」

「……ちょっと、それは……うん」


 押せ!


「頼む……人でいてくれ。そのためにも、孕んで欲しい」

「それがいや。言い方も最悪だし」


 ええええええ。


「……私との子供が純粋に欲しい感じがしない」

「いや、それは」

「だいたい……どうやって作る気なの?」

「お、王家の薬を使うねん」

「王家の……ん? クラリス様きてるの? ……え、まって。クラリス様の薬ってこと?」

「そ、そうだけど」

「……そういえばタカユキ、前にクラリス様としてたよね」


 おおおおう!


「もしかして……クラリス様のお腹にいたり、しないよね?」


 ほおおおおおう!


「……ああ、そう。いるんだ」


 納得顔で頷くクルルを見て。


「へえ。そうなんだ。タカユキは私が一番とかいっておいて、実はクラリス様と子供つくってたんだ。それでなに? 私と子供を作りたい?」


 全身に嫌な汗が。


「正座」

「は、はい!」

「ベッドじゃないよ。床だよ」

「わかってます!」


 急いで言う通りにする俺です。


「ねえタカユキ……答えて」


 右手を俺に突きつけるクルル。

 彼女の全身がピンク色に発光する。複雑な紋様が浮かび上がり、その背に生えた翼がぶわっと広がる。

 ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん光がその手に集まっていく。

 や、やばい。マジでぶちぎれてる。


「私とクラリス様、どっちが大事なの?」


 ……死んだな。俺死んだ。間違いない。これは終了のお知らせだ。


「く、ク、」


 隣の部屋の壁から物音が聞こえた。

 あああああ……聞いてそう。っていうか違うな、間違いなく聞いてるな。


「く?」


 クルルの目が。目が怖い。


「クルル……です」

「間があった。リュミエ――」

「わあああああああ! 待った待った! だって宿にクラリスがいるんだぞ? 言って傷つけたくな――」

「私が傷つくから問答無用。リュミ――」

「あああああ! わかった! お前が一番だ!」


 いっそ自棄だった。


「誓う?」

「誓います!」

「もう迷わないではっきり断言する?」

「一生断言し続けます!」

「絶対?」

「絶対です!」

「クラリス様に責任とってくれなきゃ斬首って言われたら?」

「そ、それは」

「リュミエイ」

「ああああああああ! それでもお前が一番だって言う!」


 いっそ土下座だった。


「脅して言わせても意味はないよね」

「お前がそれ言うんかい! あっ」


 思わず突っ込んだ俺に初めてクルルの口元が和らいだ。


「あのね……わかる? これは私なりの……クラリス様への宣戦布告なの」


 はっきりとそう言うクルルはすっきりした顔で。


「あなたの一番で……特別でいたいの」


 本音に違いない。縋るような願いを……俺だって叶えたい。


「思い知った? 女の嫉妬は怖いって。ずっとずっと怒ってるの。怒りは晴れないの」

「……うす」


 だから頼む。とりあえずその光なんとかしてくだせえ。


「このあときっと、クラリス様の分が待ってるよ」

「……承知の上っす」


 そこまで言ってやっと、くすって笑い声が聞こえた。


「ほんとにしょうがないタカユキだよ。しょうがないから……天使になってる場合じゃないね」


 ベッドに腰掛けたクルルは光を消して、身体中の紋様はそのままに指を鳴らした。

 淡い光の膜が部屋中を包み込む。


「詠唱破棄ってこうするんだね……音を遮断したよ。ここからは私とタカユキだけの時間」


 両手を俺に差し伸べて言うんだ。


「薬……飲ませて。口移しじゃなきゃ、許してあげないから」


 人に堕として……という囁きに頷いて立ち上がる。

 薬の瓶の蓋を開けて、液体を口に含み……口づけた。

 誓い。繋がる。

 目が見えず、俺を求めてしがみついて甘えるクルルの抱擁に今は開き直って応える。

 一番抱いて、一番知っていて、一番好きな……クルル。

 背中の羽根なんかいらない。

 いつものお前に戻って欲しい。

 そう願いながら、力尽きるまで何度も。何度でも……。




 つづく。

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